ステンダールの慈愛 ~聖騎士の篭手~
コロールにて――
聖騎士の篭手を求めて、コロールの教会へと赴いた。
九大神の騎士の一人、カシミール卿はここで篭手を失ったと言っていた。
呪われた篭手を持ち上げるには、それに相応しい人物であることをステンダールに示さなければならないというが、はてさて?
「こんにちは! 聖騎士の篭手がここにあるって本当ですか?」
「ええそうです。篭手なら何世紀もここにあります。ところであなたは、篭手のどこに興味を持たれたのですか?」
「いや、俺は別に要らんのだけど、聖騎士の遺物を集めて欲しいって人が居てその手伝いをだな」
「わかりました。聖騎士の篭手について知っていることをお話しましょう」
コロールにあるステンダール聖堂の司祭アレルディアは、聖騎士の篭手について知っていることを語りだした。
その内容は、先程カシミール卿から聞いた話と、篭手に纏わる呪いについて語ってきた。
なんでも、ケレンという者の身に今も呪いが続いているそうだ。そしてケレンは、治療法を探してハンマーフェルからはるばるここまでやってきたが、司祭にはできることは無かった、と。
それにしても九大神の騎士がやらかしたことを、何故無関係の人が責任を追及されているのかと尋ねたところ、ケレンという者はその騎士の末裔だということだった。
聖騎士の呪いは怖いな、300年近く子孫代々呪いが続くとは。しかも盗賊ギルドの斥候である物乞いをしばいただけで。
そしてケレンは、教会の居住区で休んでいるのだとさ。
「それで、篭手はどこに?」
「あの隅にずっと置かれていますよ」
確かに教会の隅に、それは安置されていた。
しかしカシミール卿の言ったとおり、まるで地面に吸いつけられたかのようにびくとも動かない。
これはあれかな、選ばれし者にしか扱えないといった類のアイテムだ。
「それで、呪いとは?」
「重荷に苦しめられているとか……、真に恐ろしいことです」
「彼の重荷を背負うって誓ってくれた従者は現れなかったのだな……」
アレルディア司祭は、これがナインの意思であるならば、どうしようもないとも付け加えた。
とりあえずケレンにも会ってみるか。
呪われた人、ちょっと不安があるけど会ってみないことには話が進まないから。
「えーと、君は確かアザーンだったかな?」
「えっ? 私はケレンだが?」
「おっと、似ているから間違えた、ケレンさんだ。ケレン・ヘラーさんだったね」
「えっ?」
「えっ?」
亜人やエルフではないが、この独特な肌の色はレッドガードだ。
リリィさんも褐色っぽい色をしているから、ハンマーフェルから来た人なのかな。
ケレンは治療法が見つかったのかと尋ねてきた。
そこで俺はケレンに、一族が何代にも渡って続いている呪いについて尋ねてみた。
呪いは日々酷くなっているようで、以前は呪いを気にせずに生活ができたのだが、今では悪化して困難になる一方だという。
しかし呪いの治療と言っても、教会で祈るぐらいしか思いつかない。それゆえにケレンはここに来たのだと言うのだ。
そしてアレルディア司祭は何かを知っているが、それを隠しているみたいなのだと言ってきた。
「できるなら、彼から話を聞いてきて欲しい。死に掛けている人間の最後の望みとして、彼が何を知っているのか私に話すよう説得して頂けないかな?」
「よくわからないが、善処してみよう」
司祭が何を知っているのかわからないが、ケレンを助ける事ができるのなら行動してやるべきだと思う。
それともあれか?
呪いの治療として治療費などをせしめることができるが、治療が終わるとこれ以上の収入が得られないから、わざと治療せずに放置しているとか。
神に仕える司祭がそんなあくどい事考えているとは思えないが、この国にはデイドラ信仰もあるからなぁ……
俺も暗殺稼業の成功を願って、メファーラに祈ったこともある。そんな国だ。
ここで復習、ステンダールについて。
ステンダールは慈悲を司る神。その司祭がそんなことはしないはずだな。
「――だよな?」
「は、はあ……。私は彼に……、彼に合わせる顔がない」
「なんだとこら! あくどい事をやっとるんか!」
「ちっ、違うっ! ステンダールに誓ってそれはない。彼にしてあげることはあるのだが、私にその勇気がないのだから!」
俺はステンダールの教えを交えて、アレルディア司祭を問い詰めてみた。
やはり司祭は何かを知っているようだ。ケレンを助けることはできるが、その勇気が無いと。
「誰かに脅されているのか?」
「そうではないんだ、彼の呪いを肩代わりする勇気が私には無いのだ!」
「肩代わり?」
呪いという物は、まるで借金のように自由に肩代わりとかできるものなのだろうか?
失敗すると自分に呪いが跳ね返ってくるとは聞いたことがあるが、肩代わりねぇ?
結論から言って、アレルディア司祭はケレンの呪いを解く方法を知っていた。
それは、ステンダールに呪いを解く力を求めて祈るのだ。その方法だけで、ケレンの呪いを解く事ができる。
しかし、呪いを解くということは、その解いた者に呪いが受け継がれるということになるのだ。
そしてアレルディア司祭は、呪いを肩代わりすることが怖くてできないと言うのだ。
「そんなことか。それなら俺がその呪いを引き受けてやるよ」
「よいのですか? そんなことをしたら、今度はあなたの一族が呪いをこうむることになります。あなたの子供にも、子供の子供にもその呪いは延々と受け継がれて――」
「ああそれなら気にしなくていい。俺が子孫を残す為に必要な人は、この世にはもう居ないから」
そうだな、その程度の呪いなら引き受けてやろう。
俺はほとぼりがさめたら、最愛の人緑娘を埋葬して、その後はシロディールを去り世を捨てて生きていくつもりだから。
「ステンダールよ、ケレンの身に降りかかっている呪いを解く力を我に与えたまえ――」
俺はステンダールの祭壇で祈り、呪いを解く術を手に入れた。
それはシャナク――違う!
解呪の術を手に入れた俺は、再び教会の居住区へ向かいケレンに会いに行った。
「また君か?」
「じっとしてろよ、今楽にしてやる」
台詞だけ聞くと、なんか暗殺しようとしているみたいだな。
だがもう暗殺者レイジィは居ない。俺はシロディールの英雄ラムリーザだ。
「ナマンダブ、ナマンダブ、ヒデブ。ドビン、チャビン、ハゲチャビン。ナマムギナマゴメナマタマゴ。ハライタマエ、キヨメタマエ、ハラタマ、キヨタマ。パイポパイポ。パイポノシューリンガン――」
「はぁ?」
「呪いを解く呪文だ。黙ってじっとしていろ」
言葉はステンダールからの啓示ということにしておくか。
俺は呪文を唱えながら、ケレンに解呪の術をかけてやった。
「ど、どうして……? 治ってる、治ったんだ!」
呪文を唱え終わると、ケレンは突然元気になって飛び起きた。
「疲れを感じない! 私は、走れるんだ!」
そしてケレンは、嬉しそうに部屋を飛び出していったのである。
一方俺はといえば、ちょっとスタミナが下がったような気がするが、別にどうといったことはない。
元々魔導師だ、スタミナを多量に消費するわけではない。
これがマジカだったら問題あったけど、ちょっとのスタミナぐらい、くれてやる。
こうして俺は、聖騎士の篭手の呪いを引き継ぎ、ケレンを救ってやったのである。
「私はやっと外に出て世界を味わえるようになったんだよ! 第二の人生は浪費したくない。友よ、君には永遠の恩義を感じている。さようなら!」
そしてケレンは、教会から飛び出していった。
なんだかむっちゃ嬉しそうでなによりだ。
第二の人生に幸あらんことを――ってか?
そんなわけで、ちょっとだけ疲れた俺は、再びアレルディア司祭を訪ねた。
司祭は俺の様子を見ただけで、すぐに何が起きたのか察したようだ。
「あなたは……、ケレンの呪いを解いてあげたのですね!」
「そうだ。ああ、呪いなら気にしなくていい。大した事ないから」
「でも今度はあなた自身が呪われて――、えっ?」
「十歳ぐらい年を取ったと思えば、理不尽なことではない」
「なぜそのようなことが出来るのでしょうか……? いえ、あなたを見て決めました。私も九大神の騎士をもう一度目指してみようと思いました」
「ん、そうか。それもいいだろう」
アレルディア司祭は、ステンダール聖堂を後にした。
これから九大神修道院を目指すのだという。
それもいいだろう。九大神の騎士は、みんな幽霊になってしまったのだ。
一人ずつでも、立て直すために加わってくれるに越したことは無い。
こうして俺は、聖騎士の篭手を手に入れた。
なんだか両手だけサイボーグ化されたみたいだ。
やっぱり要らんな……(。-`ω´-)
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