正義の道 前編 ~奈落~
コロールで聖騎士の篭手を手に入れた俺は、次の遺物の情報を聞くべく九大神修道院へ戻ってきた。
すると、荒れ果てていた修道院が、見違えるほど整頓されているではないか。
誰か来たのか? マシウがやったのか?
「これは騎士殿! いや、アークメイジ?」
「アークメイジでいい。騎士は任せた」
そこに居たのは、先程コロールのステンダール聖堂に居たアレルディア司祭だった。
ものすごい勢いで移動したな?
俺も結構寄り道せずに戻ってきたのに、先に帰ってしかも修道院の整頓もやるとは、なかなかですな。
「あなた様の元こそ私の居場所です。私が犯した罪を償い、信仰に身を捧げたいのです」
「俺の元は魔術師大学なのだが、まあいいか」
「それでですが、許していただければ騎士団に入り、あなた様のお傍でナインにお仕えしたいのです。どうでしょう?」
「だから俺の傍は魔術師大学だってば。入りたければ入るがよい。九大神とともにあれ」
「ありがとうございます。身に余る光栄です」
アレルディア司祭は、九大神の騎士団に入ることに決めたようだ。
彼が犯した罪は、ケレンを救えるのに呪いの肩代わりを恐れて放置したこと。
そんなに悪いことではないと思うが、悔い改めたいなら悔い改めるがよい。
そもそも俺はこの騎士団の団長ということになっているのか?
どこかのタイミングで、マシウに押し付けてやろう。
「どうですか? 似合っていますか?」
「似合っていることにしてやろう」
なんか偉そうだな、俺。
仕方ないだろ、勝手に団長みたいな役割を押し付けられているのだから。
ここは堂々としておかなければな。騎士団などあまり興味ないから、堂々たるだけにしかならんが……
というわけで、反時計回りに霊体に話しかける。
今度はラルヴァス卿、三番手だった奴だ。
「歓迎しよう、騎士殿。この300年間、篭手を手にした者は居ない。つまり我々は、この300年間希望を手にしていないのだ。しかし今初めて、我々が果たし損ねた役目を全うしてくれるべき人物が現れた。君なら我々の魂を解放し、騎士団を再興できそうな気がする」
「ん、なんかそんな気がしますねー」
既にアレルディア司祭が騎士団に加わってくれた。
この先、この騎士団の噂を聞きつけた者の中で、信仰心厚き者が集まってくるのだろう。
「どうだろうか? ゼニタールの試練に立ち向かって欲しいのだ」
「やってみましょう」
そして同じように、ラルヴァス卿から試練の話がやってきた。
今回の目的の品は、聖騎士のメイスというもの。
聞くところによれば、ラルヴァス卿はゼニタールの試練に挑み、何度も失敗したというのだ。何十回、いや何百回も。
普通そこまでダメなら諦めるだろう。
いや、百一回目に成功する可能性もなきにしもあらず。例えばプロポーズとか……
そして碑分には「信仰の足で歩め」ということになっているらしい。
ラルヴァス卿は未だに意味が理解できないと言っているが、大丈夫、俺もわからんから心配するな。
そこで俺は、レヤウィンにあるゼニタール聖堂の地下へ赴き、聖カラダスを奉った祭壇を目指せと。
メイスを求める者は、祭壇で祈りを捧げなければならないというのだ。
祈りを捧げると幻覚のような物を見て、底なしの窪みの向こうにメイスを見ることになるというのだ。
その窪みは心の迷いの表れ、真の信仰心を持つものならば、窪みを渡る事ができるであろうとのことだ。
信仰心が弱かったラルヴァス卿は、試練を理解できずに窪みを渡ろうとする度に転落していたという。
ん、俺には無理だな。いや、一時的にでも信仰するか。
………
……
…
というわけで、レヤウィンにあるゼニタール聖堂である。
各町ごとにある教会は、それぞれの神を独自に祭っているらしいね。
コロールはステンダールで、レヤウィンはゼニタールと。あと知っている範囲では、クヴァッチはアカトシュだ。
聖堂の地下にあるという聖カラダスの祭壇を目指して下りると、そこは幽霊のたまり場であった。
しかし襲い掛かってくる様子は無いので放置しておく。
彼らは良い幽霊なのだろう。幽霊の善悪を区別する基準はわからんが、襲い掛かってくるのは悪、それ以外は善でいいだろう。
そして地下の安置所奥に、聖カラダスの祭壇はあった。
見た目は他の安置所に似ているが、なんとなく騎士っぽいのが見分けるポイント。
その前で、俺は祈りを捧げる。
囁き……、祈り……、詠唱……、念じろ!
ラムリーザは不思議な空間に飛ばされた!
そこは宇宙空間に漂う遺跡と言った雰囲気で、砦の頂上にも見える場所だった。
そして中央の柱になっているような場所の上には、何かが安置されているようで光り輝いている。
そしてそこまでの道は、無い――
ラルヴァス卿の話では、信仰心を持つ者ならばここを渡れると言うのだが、俺には信仰心はあるのか?
「アズラ様、マーラ様、ディベラ様、メリディア様、キナレス様、アカトシュ様、とにかく神様、俺の信仰心をお認め下さい!」
一応信仰心が高いことを示して見せるために、祈りを捧げてみる。
まるで混乱に巻き込まれた小心者が、とりあえず適当に神の名を語って助けを求めるような言い方になるが仕方がない。
ん、またデイドラが混じっている?
そもそもゼニタールの試練なのに、ゼニタールが入っていない。いかんなー……
とまぁ、こんなことでは信仰心は認められず、俺は奈落へと転落していった。
………
……
…
気がつけば、聖カラダスの祭壇の前に立ち尽くしていたのだ。
もう一度祭壇で祈って宇宙空間に入り、今度は勢いをつけて柱までジャンプしてみたが、届かずに同じ結果に。
ダメだなこれは、信仰心と試練について、少し考えてみる必要がありそうだ。
一旦諦めて聖堂一階へと戻ると、俺の方へ寄ってくる者が一人。
「あなたが噂の九大神の騎士団を再興させようとしている者だね!」
「多少の間違いはあるが、とりあえずそれでいいよ」
「私はカロダス・オーリン、あなたと同じくナインに仕える者です! とくにゼニタールに」
どうやらこのカロダスという者も、メイスを求めてここへやってきたのだが、試練を乗り越える事ができなかったらしい。
聖騎士になれなかったが、ゼニタールへの信仰は捨てるつもりは無いらしい。
そこで教会の警備に志願して、剣と名誉を備えた者として彼なりの方法でナインに仕えていくことにしたらしい。
「それで、ゼニタールの試練について、あなたなりの見解があれば聞いておきたいのだが?」
「そうだねぇ、ゼニタールは神々の中で人間界に一番近い神だと考えられているんだ。そしていくつかの伝説では、ゼニタールとキナレスの密接な関係が語られている。両方の神の領分が、協働していると私は考えている」
「つまり、どういうことかな?」
「両者は一体となって作用するんだ。キナレスの権威を認めなければ、ゼニタールの恩恵はありえないと」
「キナレスか……」
ゼニタールの試練を乗り越えるには、キナレスの力が必要だと言うのかな?
ということは、先にキナレスに関わる遺物を手に入れよということかもしれない。
一旦出直すか……
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