闇の一党編 最終話 後編 ~伝説の終わり~
「この様な冒涜は何故か? 妾が永き眠りを妨げるは何者ぞ?」
ブラヴィルにて――
俺は闇の一党へ復讐の時を実行した。
アルクェンから、ナイト・マザーはブラヴィルの中央に鎮座する幸運の老婦人像だった。
そこで俺はニュークリア・ブラストを放って、像もろとも闇の一党の残り三人を始末したのであった。
勝利に湧き上がる俺とマシウ、戦いは終わったのだ。
しかしその後、静まり返ったブラヴィルの町に、地の底から響いてくるような声が鳴り響いたのだった。
振り返ったその目先には、吹き飛んで何も無くなった元々像のあった場所に、霊体が漂っていたのであった。
オビワ――しつこい。何度ネタにするのだ?
その霊体は、恨みの篭った声で語りかけてくる。
「愚かなり、背信者共よ。ブラックハンドはそなたらの背信により堕落せり――」
「あっ、あれがナイト・マザーだ! お前が僕にしたことを償わせてやる!!」
俺が行動に移るよりも早く、マシウはその場を飛び出していた。
そしてナイト・マザーに斬りかかる。
しかしダメだな、奴は霊体だ。そんな物理攻撃では傷一つ負わせられやしない。
「マシウ・ベラモント、妾はそなたの決意は最初から知っていた。お前の復讐に燃える心は知っていたぞ」
「黙れ! 黙れーっ! 母さんを返せーっ!!」
「だがそなたに仲間ができるのは予測できなかった……」
軽く弾き飛ばされてしまうマシウ、だから無理だってばさ。
奴は霊体なのだから。
マシウは背後にあった家屋に身体をぶつけられてしまい、その場にへたり込む。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」
「危ない……、奴がこっちに向かってきている……」
振り返ると、ナイト・マザーが俺たちに接近してくるところだった。
「そなたはいったい何者だ? 妾にはそなたの存在を認知できなかった。ひょっとしてこの世界の住人ではないのではないか?」
「俺は覚えていないが、たぶんそうだったんだろうよ」
「シシスの名の元、テフラ・リサウィリスのことをリスナーに伝えたのは、失敗だったようだ。そなたはあろうことかあの背信者と手を組みよった」
「マシューではないが、俺も貴様には緑娘を返せと言いたいね。だがこれで伝説も終わりだ、闇の一党は永久に姿を消すこととなる!」
気合一閃、霊峰の指! オリジナルヴァージョン!
一転集中系とは違い、その威力は分散されて改良バージョンと比べて低い。
しかしこの拡散性は、衝撃力において貫通系の改良バージョンを遥かに凌駕する。
この一撃でナイト・マザーを仕留めるつもりはなかった。あくまで間合いを開くためだ。
戦いはこれからだ。ただし、貴様も一撃で終わらせる。
「一応聞いてみるが、彼女を依頼したのは誰か? ブラックウッド商会の残党か? 死霊術師の残党か? 深遠の暁教団の残党か?」
「黒き聖餐に関しては、リスナーにしか伝えぬ……」
「それもよかろう。世の中には知らない方が幸せという言葉もあるからな。だが、悲劇は二度と繰り返させぬ!」
俺は、聖なる力に特化したエネルギーを、一気に放出してやった。
ホーリー・ストリーム。アンデッドや肉体を持たない霊的な存在には、特に効果を発揮する。
ただし、通常の肉体にはさほど影響が無いので、これまでに主立って使わなかっただけだ。
「むぎゃおおぉぉぉう!!」
「聖なる力に焼かれて死ね、永遠にな!」
「おのれーっ! 妾は消えぬぞ! また復活してそなたを殺す! 絶対に殺してやるーっ!」
そう言い残して、ナイト・マザーは溶ける様に崩れていった。
そして光に巻き込まれたまま、天高く登っていった。
ナイト・マザーの最後だ。
そして、闇の一党の最後だった――
「終わったな――」
復讐は、終わった……
俺は、なんとも言えない寂寥感を感じながら、ナイトマザーの消えていった空を見上げていた――
「う……、裏切り者のレイジィよ……。シシスの名の元、お前を道連れに――」
しまった――?!
「そうはさせないぞアルクェン!」
マシウ――?!
背後から俺に斬りかかったアルクェンは、さらにその背後からマシウの一撃を食らってその場に崩れ落ちた。
突然の出来事に、俺は少しの間呆然としてマシウの顔を見つめていた。
マシウも荒い息をついている。ナイト・マザーに手痛い一撃を食らって満身創痍なところを、俺の為に――?
「あ、ありがとうマシュー。お前のおかげで助かったよ」
「いや、アルクェンは君の最初のあの一撃で既に死んでいた。執念で君を道連れにしようとしただけなんだ」
「そうかもしれん。だがお前が居なかったら、道連れにされていたところだった」
俺は、マシウに右手を差し出した。
彼は、俺とそっくりの境遇だった。愛する者を闇の一党に奪われ、その復讐の為にこれまで生きてきた。
俺は彼と同じ痛みを抱え、同じ敵と戦ってきた戦友なのだ。
「またまたーっ。シロディールの英雄が、あんな奴に道連れにされるわけないじゃないですかーっ」
マシウも右手を伸ばしてきて、俺の手をがっちりと握る。
「ありがとう友よ。私は短いながらも良い友人を持った」
思わず俺はかつて共に戦った友人からかけられた言葉を、そのままマシウにかけていた。
でもよく考えたらこれは違うね。
彼とはほんとうに短い間の友人だったが、マシウとはこれからもある。あるのかな?
「ナイト・マザーをやっつけてくれて、こちらこそありがとう! これからもよろしく、アークメイジ殿!」
「もちろんだ!」
久々に見上げた夜空は、満天の星空だった。
復讐の旅は、ここに幕を閉じた――
こうしてラムリーザの手によって、闇の一党は全滅した。
ナイト・マザーもその精神体を激しく崩され、容易に復活できるような状況ではなくなってしまった。
衰退した勢力の復活は難しく、再び闇の一党が世に出てまともに活動再開できるようになるためには、相当の年月を要するのであった。
それは約二百年程後、ここからずっと北の国で、シセロという者とアストリッドという者の登場を待たなければならなかった――