謝罪の旅 ~偽善にしかならない事~
闇の一党、そしてナイト・マザーとの戦いが終わり、夜が明けた。
暗殺者組織という陰湿な集団が消えた新しい日の始まり。
俺は、その戦いで得た戦友と共に、ブラヴィルの宿屋から一歩踏み出した。
「ねぇアークメイジ殿、僕もしばらくは同行させてもらっても構わないかな?」
「別にええよ。でもそれほど長くは居られないと思うぞ、俺はいろいろと踏ん切りがついたらこの国を出ようと思っている」
「シロディールの英雄なのに、もったいないなぁ」
「そんな地位なんて欲しくないよ、緑娘さえ帰ってきてくれたら。それに俺は復讐のためとは言え、この手を血で汚した。ここは大人しく消えるのが筋ってもんだ」
「そうだよねぇ……。これからどうするんだい? どこか当てはあるのかい?」
「たちまちは、アップルウォッチへ行く」
「アップルウォッチ? また?」
俺は復讐の戦いが終われば、まずやることは決めていた。
復讐のための礎となった犠牲者達に詫びることをな。
それが自己満足にしかならない偽善にしかならない事だとはわかっている。
だが、やらないよりは、やるほうがよいはずだ。
………
……
…
「ねぇ、この橋を覚えているかい?」
「なんぞ?」
「ふっふっふっ、僕が偽の指令書を置いた場所だ」
「あーそんなこともあったね」
結果論だが、俺はマシウが送りつけてきた偽の指令書に感謝している。
俺は偽の指令書の指示に従い、結果的に闇の一党の幹部を始末して回った。
それは偶然に同じ目的を持ったものが、偶然に引き起こした奇跡の共演になったから。
「ってかお前、手強い実戦部隊から俺に始末させただろう?」
「あっ、ばれた? 格闘技の達人、水中戦の達人、魔術の達人、ノルドの巨漢、流石に僕は歯が立たないよ」
「待て、魔術の達人って誰だ?」
「アルヴァルだよ」
そうだったのか……
寝込みを始末したから全くわからなかった。
ただの商人ではなかったのだな。まぁサイレンサーとやらが、ただの商人であるわけないな。
「そこまでで手強い戦闘員を完全に始末できたので、次はリスナーのウンゴリム、スピーカーのアルクェンと次は頂上から始末することにしたのだけどね」
「その辺りでルシエンに止められた、と」
「うん、ベリサリアスやベイナスなら、僕でも十分に始末できた。あの時は君の爆発魔法で一発だったけど、僕だってあいつらなら一刀のもと斬り捨ててみせたさ」
「お前、策士だな」
こいつ、生き方を矯正してやれば、実は有能な奴じゃないのか?
もしも違った人生を歩んでいたら、今頃は狡猾な軍師にでもなっていたのではないだろうか?
敵を知り己を知ればとかなんとかいう格言を聞いたことがある。
少なくともこいつは、自分の敵う相手と敵わない相手は見極めている。そして敵わない相手にぶつける駒も上手く選択している。
ブルーマの町――
「僕はこれを知っていたんだ。だからアンヴィルで君が出てきたときには、にわかに信じられなかったんだよ」
「こんな石像でよく人相がわかったな」
「僕は知ってるよ、これの前に少しの間だけ精巧な蝋人形が飾られていたことを」
「…………」
「でも屋外に蝋人形は無謀だったね。すぐに痛んで傷だらけになってたよ。その後石像に置き換わっていたけどね」
「俺の知らない間に、そんな出来事があったのか」
シロディールの民はどう思うだろうか?
英雄と祭り上げられたものが、裏では復讐の為に惨殺事件を引き起こしていたと知ったら。
別に知られたところで、今更どうでもいいことだけどね。
そしてアップルウォッチだ。
許してくれ、とはあえて言わん。
君達は、復讐のための礎となった者達なのだ。
だが俺の悪名は消えることは無い。
悪名を背負って生きていく事がで、償いとさせてもらおう。
そしてありがとう。俺を闇の一党の核心に近づけるよう協力してくれて。
もう闇の一党やナイト・マザーはこの世界に居ない。
君達のおかけで、今後君達のような犠牲者は、新たに発生することはなくなったのだよ。
「ぷは~っ、これで一つ終わった。後俺が手にかけたのは、スキングラードのパーティ参加者とかレヤウィンの引退衛兵か。事故死や元から悪人だった奴はこの際パス」
「ねぇアークメイジ殿、アンヴィルに行ってくれないかい?」
「何かあるのか?」
「君の行動を見て、僕も偽善にしかならないと思うけど、謝罪したくて」
「闇の一党に認められるためにやった相手がいるのだな」
「うん……」
そうか、こいつも俺と同じ考えを持って闇の一党にもぐりこんだ奴だったな。
不本意な殺しの一つや二つ、あるのだろう。
街道から外れた北の道を通って、サンクレ・トールの遺跡を経由してコロールへと移動。
「ここまではルシエンからの指令書だったんだよなぁ」
「うん、ここにルシエンが来るのを見て、すり替え作戦を思いついたんだ。ルシエンが立ち去った後、君が来る前に指令書をチラッと見て、次の場所がスキングラードの中庭にある井戸と知って、すり替え始めたんだ」
「この策士め」
コロール中庭の巨木から、民家を見渡せる。
ここから見えるあの家には、フランソワ・モティエールという奴が住んでいた。
もしも奴の話をしたら、マシウは怒り狂うだろうな。
方や母親を殺された復讐のために闇の一党に飛び込んだ。方や自分の身を守るために、闇の一党に母親の命を売り渡した。
ベストの選択とは言わない。
しかし、どちらの考えがよりベターだろうか?
ま、結局の所闇の一党が存在した事が悪いのだけどね。
闇の一党さえなければ、マシウの母親もフランソワの母親も殺されることはなかっただろう。
そして緑娘も……
………
……
…
アンヴィルの港にて――
マシウは、港に停泊している一隻の船の船室向けて黙祷している。
これは確か、サーペント・ウェイク号?
以前俺は、ヴァルレイという者に幽霊船から水晶玉の回収を依頼された事がある。
アンヴィルの幽霊船と噂されていたこの船と、マシウとの間にいったい何があったのだろうか?
「アークメイジ殿は、この船を知っているかい?」
「サーペント・ウェイク号だろ? アンヴィルの住民はアンヴィルの幽霊船と噂していたぞ。事実幽霊船だったけどな」
「あれは僕がやったんだ」
「は?」
「闇の一党の任務で、この船の乗務員を全滅させた事があるんだ。その時に、ちょっとした実験でアンデッドにしてこの船に縛り付けてみたんだ」
「悪趣味だな、お前は死霊術師か?」
「ごめんよ――って君に言うことじゃないか」
「いや、俺にも謝ってもらう」
「ええっ――?」
俺はマシウに、アンヴィルの幽霊船騒ぎで困った人が居たことを。
その人の為に幽霊と戦って水晶玉を回収したことを語ってやった。
まぁ別にもう今更な話だ。別にマシウを弾劾するつもりは全く無い。
「そういえば、この人魚像前で君と初めて顔を合わせたんだね。こんな出会いは一生に一度あるかないか」
「つまり、一期一会のトゥルットゥーってやつだったんだな」
「トゥルットゥーって何だい?」
「知らん、エルスウェアでアガマナスの司祭が言ってた。なんか響きがいいから口癖になっただけ」
まぁあれだ。
トゥルットゥーもフラーみたいなものだ。
時々出てくるんだ、妙な言葉を発する奴が。
あとは、スキングラードに寄ってサミットミスト邸で黙祷し、ターニングポイントとなった井戸などを見て回った。
そして、俺たちは魔術師大学へと戻ってきた。
決心がついたら緑娘を埋葬しよう。そして、後の事はリリィさん達に託して、俺はこの国を出よう。
「帰ってきたよ、テフラ。君の敵討ちは成功したよ。君をこんな目に合わせた奴らは、もうこの世界には存在しないんだ」
「うっ、美しい――」
「こら、俺の女によからぬこと考えるなよ」
「かっ、考えないよ。でも……、彼女が生きている姿をもっと間近で見たかったな」
「目のやり場に困るだけだ……(。-`ω´-)」
俺もできるならもう一度緑娘と旅をしたい。
だが、だからといって死霊術に頼ろうとは思わない。
俺はテフラとの楽しかった日々の思い出を、シロディールに置いていくのさ――
「おかえり! ラムリーザ!」
「ただいまみんな!」
まぁそれでも、もうしばらくはここに留まってみようかな。
一人でも俺のことを必要としてくれる仲間が居る限り!
つーかそれなりの地位に昇進させても、先輩は相変わらず昼間から飲み歩いているのな……
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