闇の一党編 最終話 前編 ~汝が母を称えよ?~
「スピーカーよ、闇が帝国を包む時、ナイト・マザーがブラックハンドを安らぐ地へと導き、覚醒の儀式を始める事ができるのです」
アップルウォッチにて、夜――すなわち、闇が帝国を包む時。
アルクェンの案内で、俺たちはナイト・マザーが眠る場所、未知なる闇へと旅立った。
彼女はまだ気がついていない。闇の一党にとって、ルシエンは最期までシシスの為に尽くしたということ。まだ裏切り者が二人も潜んでいることをな。
………
……
…
そして我々が向かった先は、ブラヴィルの街であった。
「見よ、ナイト・マザーだ! 地元の民はこの像を幸運の老婦人像と呼ぶ。彼らは自分達が、いかに幸福かわかっていないのだ」
驚いたことに、ナイト・マザーは予想もしていなかった所に潜んでいた。
ブラヴィルの町の中央部にある謎の像、ウンゴリムが立ち尽くしていた場所にある像、それがナイト・マザーなのだという。
恐らくデイドラの祭殿のように、闇の一党にとって信仰の対象みたいなものなのだろう。
そしてデイドラが語りかけてきたように、ナイト・マザーも語りかけてくる。しかしその声を聞く事ができるのはリスナー、聞こえし者のウンゴリムだけだったというわけだ。
しかし、事実はそれだけではなかった。
「この石の彫像の下に隠されているのは、闇の信徒の最も崇められる不浄の地への入り口なのだ。ナイト・マザー自らが眠る地下聖堂だ!」
アルクェンが言うことが本当なら、ナイト・マザーはまだ生きていてこの地下に潜んでいることとなる。
ならば、破壊して埋めてしまうまでだ。
そして、ナイト・マザー覚醒の儀式が始まった。
しかし、そう思い通りにはさせないぞ――
「不浄なる婦人、我々ブラックハンドは求めし! 今すぐその御身を現し給え、最も雄大なるナイト・マザーよ、貴方の導きを――」
「ちょっと待ってくれ」
俺は、アルクゥンの呼びかけに途中で割り込んでやった。
この儀式を起こさせるわけにはいかない。ここらが潮時というわけだ。
闇の一党も残るはあと三人、そしてナイト・マザーの正体もわかった。
復讐の最後の仕上げを始める時が来たのだ。
「どうしたレイジィよ、儀式の邪魔をするのではない」
「すまない、最後の仕上げに緊張してきて落ち着かないんだ。ちょっと深呼吸して気分を落ち着けてから再開しよう。今の俺では儀式の邪魔になりかねない」
「わかった。だが時間があまりないということを忘れるな」
「ほんとうに申し訳ない――」
そう言いながら、俺はマシウに目配せする。
彼もそれに気づき、俺の意図を読んだのか小さく頷いた。
そして俺は、幸運の老婦人像と呼ばれているナイト・マザーを奉った像から離れていった。
時を同じくして、マシウもそろりそろりと像の前から後退していく。
儀式のことしか考えていない闇の一党メンバーは、その行動に不信感は感じていないようだった。
そして俺は、少し離れた場所へ行き、そこで話したとおり気分を落ち着かせるために大きく深呼吸をする。
狙うはナイト・マザーの像と三人の闇の一党メンバー。
俺は、魔力を高めると同時に、そこに怒りのエッセンスも混ぜる。
全神経を集中して、一点にエネルギーを集中させる。その力は、火山の威力をも凌駕するものとなるだろう。
終わりだ、闇の一党。ダーク・ブラザーフッドよ――
そして俺は、限界まで凝縮させたエネルギーを放出した。
ただの特大ファイアーボールだと思うか? 派手さや演出に重きを置いた火山の噴火だと思うか?
お遊びじゃない。俺の怒りも加わった本気の本気だ。
そして轟音と共に、ナイト・マザーの像を中心に、周囲はまるで突然昼間になったかのように光り輝いた。
ニュークリア・ブラスト、核爆発――
下手をすれば町の一つを木っ端微塵に吹き飛ばしかねない暴力的な破壊力を秘めたエネルギーは――
――全てが治まり静寂が戻った時、ナイト・マザーの像を跡形もなく吹き飛ばし、三人の闇の一党を一撃で始末していた。
破壊力に驚いたのか、マシウが駆け出してくるのを俺は眺めていた。
思い知ったか!
この俺を敵に回したことを、黄泉の国で後悔するがよい。
闇の一党は、これでおしまいだ!
緑娘テフラよ、君の仇は取ったよ!
「すっ、すごいなぁ……。さすがアークメイジ、そして英雄は全然違うんだね」
「愚かな奴等だ。緑娘を手にかけなければ、こんな結果にはならずに済んだものなのにな」
「緑娘? あっ、でも思い出したよ!」
「なんぞ?」
「いやぁ、君がグレイ・プリンスと戦うのを――」
「それ以上言ったら、お前もついでに焼き尽くすぞ……」
「ひっ!」
まったくどいつもこいつも油断していたらすぐこれだ。
グレイ・プリンスとの戦いがもしもテレビ放送などと言うものがあって公開されていたとしたら、ひょっとしたら視聴率は脅威の100%を記録していたのではないだろうか?
それにしても、久しぶりに笑みが浮かんだような気がするね。邪悪な笑みではなく、心からの笑みが。
とにかく戦いは終わったのだ。
しかし――
「この様な冒涜は何故か? 妾が永き眠りを妨げるは何者ぞ?」
その時、静まり返ったブラヴィルの町に、地の底から響いてくるような声が鳴り響いたのだった。
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