楽園 中編 ~禁断の小洞穴~
- 公開日:2020年7月8日
マンカー・キャモランの創造した楽園にて――
禁断の小洞穴を発見したので、そこへ入ってみることにした。
まずは脱出経路を確保してから、キャモランへ勝負を挑むのだ。
「考えてみろ! デイドラが不滅の存在であるのに、なぜ全能の神々は死ぬのか?!」
これは、時折俺に語りかけてくるキャモランの声。
俺はこれは「ささやき戦術」の類だと認識した。余計なことをしゃべって、俺を動揺させてしまおうというものだろう。
しかし、俺はキャモランの言葉は右から左へあった。
俺はナイン、九大神にそれほど信仰厚いわけではない。どちらかと言えば、シェオゴラスとかメファーラとか無茶苦茶な神の方が迷惑だ。
洞窟の中は、足元が水溜りになっていて不快だったりする。
そして、下着姿の住民がうろうろしていた。
「デイドラは人々の前にその存在をはっきりと示すのに、なぜに神々は彫像と説教の陰に隠れて出てこないのか?」
ぬっ――(。-`ω´-)
キャモランの台詞に納得しかける自分がいて、慌てて取り繕った。
そうだ、デイドラは語りかけてくるのに九大神、エイドラは語りかけてこないのか。
この問いにどう反論する? 無視するか?
「単純なことだ。奴らは本当の神ではないからだ。お前は生まれて初めて真実を目の当たりにしている。デイドラこそ、この宇宙の真の神なのだ」
神がそう簡単に人に語りかけてよいものか?
神とは至高の存在であり、人とはかけ離れたものではないのか?
人に語りかけてくるデイドラは人に近い存在であり、祀られているだけの神は人とは遠い存在であり、それこそ神なのだ。
これでいいか?
キャモランへの反論であり答えは。
でもタロスはもと人間だと言うからなぁ……、タロスが無ければ真の神なのだがそこはどう辻褄合わせをしようか?
そして洞窟にもデイドロスが住み着いていた。
楽園と言っても、結局の所オブリビオンの世界と同じじゃないかな?
「ジュリアノス、ディベラ、ステンダール。こやつらは皆ロークハンを裏切り、灯火を失った王国で神の名を語っているに過ぎない!」
ロークハンなど知らん。
俺は思うのだが、神などというものは人々が創り上げた物で、実際は存在しないのではないかと。
タロスが英雄として祭り上げられて神になったように、ディベラだのステンダールも人々がそう信仰しているだけなのではないかと。
だがデイドラは実際に存在する。だからデイドラは神ではなく、デイドラという存在なのだと。
神というものは、人の心の中にしか存在しないものではないのだろうか。
ジュリアノスが学問の神、ディベラが愛の神、ステンダールが慈悲の神とそれぞれの分野で、人の心のよりどころとなっているのだ。
そしてそれこそが、神なのだ。
洞窟の奥には、オブリビオンの世界でよく見かけた扉があった。
俺が扉に触れると、腕輪が赤く輝いてドアが開いたのだ。
どうやらここで、選ばれし者の腕輪が必要となるみたいだね。
「運命の神、夜の神、破壊の神と比較しうるか? お前達はずっと騙されていたのだ」
キャモランがどれだけ力説したところで、狂気を神として崇めるのはおかしいと思う。
神が人に暗殺をするよう仕組むのはおかしいと思う。
神が裸で乱交パーティを実行させるのはおかしいと思う。
こいつらがいなければキャモランの言うことにも耳を貸したかもしれないが、シェオゴラス、メファーラ、サングインを神とは認められない。
残念だったな。
扉の奥では、囚人が檻の中に閉じ込められていた。
これは、クヴァッチで初めてオブリビオン・ゲートへ飛び込んだとき、そこで囚われていた人を閉じ込めていたものと同じものだった。
これのどこが楽園なのだ?
キャモランにとってのみ都合のよい、自分だけの楽園ではないのかね?
「腕輪を身に付けているが、君は囚人ではないな? 君は何者だ? ここで何をしている?」
またキャモランが語りかけてきたのかとおもったら違った。
深遠の暁教団のローブで身を包んだ信徒が、俺の前に現れたのだ。
問答無用で襲い掛かってくる気配は無いので、俺は知らぬ振りを通すことにした。
「名乗るほどの者ではありませんよ。でも出会いは大切にしたいと思っている、一期一会のトゥルットゥー♪」
「待て、私は君の正体を知っているぞ。レイヴンとルーマを殺したのは君だ。そして帝国のアークメイジであり、クヴァッチの英雄と呼ばれている」
「そしてオークが倒されると思った者などいなかったのに、あんたはそれを皆に見せつけてやった、ははは――ですか? もうたくさんだ」
「いやぁ、あんたがグレイ・プリ――」
こいつも言いかけて止めたようだが、深遠の暁信徒の中にも、グランド・チャンピオンの熱狂的ファンがいるなど、世も末だな――(。-`ω´-)
少しの間だけ沈黙が流れた後、ふたたびこいつは語りだした。
どうやら積極的に俺を排除しようと言うわけではないようだ。
こういった暴力的な組織では、荒っぽいだけなのは末端のチンピラであって、幹部は話を聞いたりするもの――なのかな?
「君は二人の父親であるマスターを倒すためにここにやってきた。そして王者のアミュレットを取り戻すために。待てよ? ということは、マーティン・セプティムはまだ生きているのか? メエルーンズ・デイゴンの侵攻を阻止する望みがまだ残っていることなのか?」
「マーティン・セプティムなど知らん、会ったこともない。たぶんブルーマの戦いで死んだ。ジョージ・マーティンなら知っている、音楽プロデューサーだ」
適当なことを言って誤魔化してやった。
こいつらは、マーティンが生きていることを知ったら、またあの手この手で殺害しようと企んでくるに違いない。
しかしこいつは、意外なことを語りだした。それはには俺も驚いた。
「私はマンカー・キャモランの名のもとに、数々の悪行に加担してきた。しかし、できるならその償いをしたいと考えているんだ」
「ん? 改宗ですか? そんなことしたら嫌がらせされるのでは? 例えば無言電話など糞尿まき散らしなど――」
「構わない。私は罪滅ぼしの機会を待っていたのだ」
これは意外にも意外。こんなところで仲間に出会うとは思わなかった。
悪の教団でも、規模が大きくなればこんな人の一人や二人は出てくるといったことか。
それとも罠か――?
だがエルダミルと名乗った元信徒(かな?)は、俺にマンカー・キャモランを倒して、デイゴンの侵略からタムリエルを救ってくれと言い出したのだ。
そして、この禁断の小洞穴から出るには、自分の助けが必要だと言うのだ。
さらに彼は、クヴァッチにグレート・ゲートを開いたのは自分だと言い出した。自分は選ばれし者として、世界を破壊して作り変えようとしたことを語った。
「そんなことを言ったら、俺は君をクヴァッチの仇! と言って攻撃するかもしれませんよ」
「それが私の罪滅ぼしとなるなら、甘んじて受け入れよう。だが汚名挽回の機会をくれないだろうか?」
「名誉返上の機会ならくれてやろう」
「ごめん、汚名返上の間違いです――」
「はっはっはっ、面白い奴だな」
まあいいだろう。騙されたとしても、こんな奴一人ぐらい、とっさに始末することぐらい容易い。
それに、選ばれし者の腕輪をつけていたのでは、ここから出ることはできないのだと言ってきた。だが彼ならそれを外す事ができると。
「待て、奴が来た。君は囚人のように振舞うんだ」
「なんぞ?」
気が付くと、ドレモラが傍までやってきていた。こいつは看守のようだった。
看守の目を誤魔化す為に、ここは囚人の振りをしておけというものだ。
しょうがないな――
「ごめんなさい、馬泥棒したことは謝ります! だからショール様、マーラ様、ディベラ様、キナレス様、アカトシュ様、とにかく神様、お助けぇ!」
馬泥棒などしたことないぞ。
だがエルダミルが囚人の振りをしろと言ったからそう演じているだけだからな。
看守が「牢に入れ」と言うので、付き合ってあげることにした。
とりあえずエルダミルを信用してみよう。もしも彼の言うとおり、選ばれし者の腕輪を外さないとここから出られないのなら、ここは従うしかない。
そしてゆっくりと牢屋は沈んでいき――って、溶岩で焼くのか?!
これだと牢屋じゃなくて拷問部屋じゃないか!
しかし、溶岩に触れるギリギリの所で牢屋は下降を止めたのだった。
そして少し時間が経った後で、再び引き上げられたのだった。
牢屋は、入ってきた側と反対側の扉が開いた。
「よし、その先で落ち合おう。そこで君の腕輪を外してあげるよ」
「わかった、それではまた」
一旦エルダミルと別れて、再び一人で奥へと進む。
そして少し進んだ所で、再びエルダミルと合流したのであった。
周囲にドレモラが居ないことを確認すると、彼は俺の腕から選ばれし者の腕輪を外したのである。
そして彼は、「マンカー・キャモランを倒す手助けをさせてくれ」と言い出した。彼なりの汚名挽回――いや、返上の機会だと思っているのだろう。
「よくやった、勇者よ! 迅速かつ見事な手並みよ。お前なら私の元へに辿りつけるかもしれぬな」
ふたたび語りかけてくる、マンカー・キャモラン。
選ばれし者の腕輪を使って禁断の小洞穴へと入り込み、そして裏切者の手によってその腕輪から解放された。
いよいよ焦りも激しくなってくるものだ。
エルダミルは、ドレモラとも積極的に戦ってくれる。
ここまできたら、俺をはめるための演技ではなかろう。
共に戦おうではないか。
「お前は堕落したタムリエルの最後の砦よ。我こそ神話の暁教団は、タムリエルの再生をもたらすものなり」
これもちょっと同意。
街道を巡回している役立たずの衛兵や、乞食と化した追いはぎを見ていたら、堕落しているなぁと感じても仕方が無いものだ。
こいつらの理不尽な行動のために、俺も一度デイゴンに粛清を望んだことすらあるのだ。
そして、エルダミルの案内で禁断の小洞穴を通り抜ける事ができたのであった。
ん? ここは元の世界に戻るための唯一の場所じゃなかったのか?
通り過ぎてしまっていいのか?
「歓迎しようじゃないか、お前が本当に運命の遣いだというのなら。英雄気取りの連中が我が前に立ちはだかり、結局は己の無力さを晒すだけなのにはうんざりしているのだよ」
うんざりするほど攻め込まれたことがあるのですか? マンカー・キャモランさん?
言葉の端に焦りが見まくっていますよ。
続く――
Sponsored Links
前の話へ/目次に戻る/次の話へ