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第三者 ~エウリウス兄弟のお使い~
- 公開日:2020年6月15日
「ところで、礼拝堂の火事についてどう思いますか?」
「そうだねぇ、この火事は歴史書の項目となるでしょうね」
ここは、エウリウス書店。スターク島にある、唯一の商業施設だ。
この書店以外だと、砦の中で鍛冶屋をやっている場所があるぐらいで、独立した商店となるとここだけなのだ。
礼拝堂の火災事件でちょっと脇道に逸れてしまったが、鉱山の奥に姿を現した古代の遺跡。その件について調査を進めるために、外部の者を招くことになった。
鉱山の監督ログクロスは、アレニオン・エウリウスという歴史家に意見を求めたのだった。
そこで俺は、こうしてエウリウス書店へと足を運んでいる。
「どうしてこんなことが起こり得たのだろうか? こんなことは予兆もなく起こることではない……」
「ポーレが仕組んだことだと考えたら、いろいろと納得がいくけどな」
「ところでグランド・チャンピオン」
「何ぞ」
くどい……(。-`ω´-)
思わず手が出そうになったが、こいつが熱狂的なファンだというのは、最初に礼拝堂で出会ったことから知っている。
俺も忘れかけている、スペルスリンガーというリングネームまで、しっかりと覚えている奴なのだからここは落ち着いて深呼吸。
「貴様もタマネギ頭にしてやるぞ! ――とまぁそれは後でやってやるということで、君は本当に歴史家なのか?」
「そのとおりです。いろいろな遺跡を調査して、その記録も取っていますよ」
「シンドリみたいな奴だな。それではこの島にある金鉱山の奥に遺跡があるのを知っているか?」
「ほんとうか?! すばらしい! この島に遺跡があるなんて気がつかなかった! そうか……、やっぱりそうだったんだ。アイレイドの最西端は、ガーラス・マレタールがではなくこの島だと私は掴んでいたんだ。あとは証拠さえ見つけたら――、そうか、そうだったのかー」
なんだか知らないが、アレニオンは妙に興奮している。
俺は遺跡研究家ではないので、彼の気持ちがよく分からないが、まぁ喜んでいる姿を見るのは悪くない。沈んだ姿よりは、な。
「頼む! 兄のアマリウスを連れてきてください! 兄と一緒にその遺跡を探検してみたい!」
「落ち着け、傍に居るではないか」
アレニオンが居るのは、書店カウンター内部にあるテーブル席。
そしてアマリウスは、カウンターにたったまま最初から俺達の話を聞いている。
そしてエウリウス兄弟を率いて、再び金鉱山へと向かうことになったのである。
………
……
…
数分後、俺達は鉱山の奥にある遺跡へと辿りついていた。
「しまった、興奮していたので思わず何もせずにここまできてしまった!」
「何をうろたえておるか」
「すみません、これから遺跡の調査をしますので、地上に戻っていくつかのお使いを引き受けてください」
「ん、かまわんよ」
エウリウス兄弟のお使いとやらは、全部で四つ。
一つ目は、書店から冒険記録を持ってくるのを忘れたので、取ってきてほしいと。
二つ目は、書店の戸締りを忘れたので、代わりにやってきてほしいと。
三つ目は、次の調査予定にしていたサマーセット島に出没する新種のゴブリンを調査する予定にしていたのだが、その予定は延期だと船長のジャファンに伝えてほしいと。
四つ目は、兄弟の叔父であるカッシンドリアンに、しばらく留守にするけど心配しなくて結構と伝えてほしいとのことだった。
全部すぐに終わることだから、わざわざ俺に頼まなければと思うが、それ以上に遺跡探検がやりたいのだろう。
「想像していたものよりは少し小さいが、これも立派なアイレイドの遺跡だであることには疑いない」
「きっとどこかに隠し通路か隠し部屋があるに違いない」
ん、そこまでなら俺も想像したけどね。
というわけで、一旦地上へ引き返したのである。
………
……
…
まずは、書店に行って冒険記録の回収だ。
いろいろと探し回った結果、二階にある棚の上に、それらしきノートを見つけたのだった。
よく考えてみたら、アマリウス・エウリウスって、韻を踏んだ良き呼称だな。
次は、マグニティセント号へ向かって、船長ジャファンに伝言だ。
「どうした? アンヴィルに行くか?」
「んや、アマリウスは遺跡調査で忙しいから、サマーセット島旅行は延期だとさ」
「それはがっかりだなぁ……」
そんなに気を落とされても仕方が無い。
船長も、エウリウス兄弟との冒険やゴブリン狩りを楽しみにしていたようだからね。
なんなら俺がサマーセット島に行こうか?
九大神からタロスを省きたがる原因が、そこにあるような気がしてならないのだ。確たる証拠は無いけどね。ずっと過去の事なのか、それとも未来の事かわからない……
次は、叔父のカッシンドリアンに伝言だ。
彼が何処に住んでいるのか聞いたところ、書店のお向かいだとわかった。
「やあ、カッシンドリアン叔父さん」
「誰かと思えばグレイプリンスを破った――」
「エウリウス兄弟は、金鉱奥の遺跡探検でしばらく留守にするけど心配しなくて大丈夫!」
食い気味で、伝言を伝えてやった。
「これでお使いは全部終わりだな」
「戸締りは?」
「おっと――」
これでいいだろう。
エウリウス兄弟のお使いが終わったので、再び金鉱へ向かう途中、リリィさんが近くに居たりした。
「なんばしょっとね?!」
「えっ? なんですか?」
「――何をしているのですか?」
いかんな、不思議な言葉をしゃべってしまった。
リリィさんの話では、この家に住んでいるのが悪名高きポーレ。
金鉱の事で話をつけようと思って赴いたところなのだとさ。
交渉しなくても、近いうちに暴発しそうだけどね。まぁ鉱山側だけでなく、経営者側にもゆさぶりをかけておこうということらしい。
現在魔術師ギルドは、スタークの金鉱奪取作戦実行中である。
神父殺害事件の詳細次第では、簡単に奪えそうだったりするのである。
「さあ、お使いは済ませてきたぞ」
「ありがとうございます! お礼に我々の冒険で手に入れたものの一つを譲りましょう」
「輝いている指輪だね」
深海のかがり火みたいな指輪だ。でもこちらには水中呼吸がついていない、ただの明かり用だった。
最近は雰囲気を楽しむ為に松明を使っているので、コレクターズアイテムとなってしまうだろう。
「それはそうと、弟のアレニオンがいつも言っていたのはあなただったのですね!」
「は?」
「貴様書店で弟が言っていたのを聞いただけだろうが!」
「おっと危ない、グランドチャンピオン殿は気性が荒い」
「なにをやっているんだか……」
この島の住民、出会った人の過半数が同じ事を言ってくる……
もうやだ……
以上、調査結果が出るまで、しばらくは兄弟に任せることにしたのであった。
おしまい
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