哀しげな番兵 前編 ~ボーンウォッチ野営地の幽霊~
「幽霊の話は聞いたことがあるかい?」
「実は俺、幽霊なんですよ」
ブラヴィルのギルド居住区でのんびりしていると、マスターのクッド=エイが俺に話しかけてきた。
幽霊など、アイレイドの遺跡に行けばいくらでも会えるぞ。アンヴィルなどでは、船の中にも居たもんだ。
「それは丁度いい、幽霊同士仲良くしてみたらいい」
「何の話ですか?」
「ニーベン湾の岸にたたずみ、立ち止まっては海を悲しそうに眺める幽霊が出るという噂よ」
「ははっ、単なる噂でしょう」
クッド=エイは、興味があるなら水上のシルバーホーム亭に居るギルゴンドリンから話を聞いてみるといいでしょうと言い残し、また静かに本を読み始めたのだった。
そんなわけで、とくに何もすることもなく暇をもてあましていた俺は、ブラヴィルの宿屋へと向かっていた。
考えてみたら、予言で動くか自発的に動くかの違いだけであって、暇ならば何でも顔を突っ込む癖が俺にはあるようだ。
しかし幽霊、噂が本当なら見てみたい気がするのだ。
彼が宿屋の主人、ギルゴンドリン。
幽霊の話を尋ねてみると、ニーベン湾にあるボーンウォッチ野営地に、夜八時に現れると教えてくれた。
その幽霊はとくに危害を加えてくることはなく、船乗りのような格好をしているらしい。
ご丁寧に地図に印を付けてくれたので、早速向かうことにした、が――
ふとテーブルの上にある新聞に目がいったとたん驚いたね。
あのボーダーウォッチの出来事が記事にされているじゃないですか?!
天から焼けた犬が降ってくる……、心当たりありすぎ。いったい誰が記事を書いたのだ?!
記事ではクシャーラの予言通りだとか書いているけど、その予言の実行犯は俺で、黒幕はシェオゴラスなんだけどなぁ。
名前を出さないことを条件とした住人と書いているが、リ=バッサのことだろうな。
なんだろう、俺の体験した出来事が新聞記事になることがあるのか?
知らないところで、アンヴィルの美人局事件も記事になっていたら嫌だなぁ……
というわけで、ボーンウォッチ野営地である。
橋のかかった先の小島に、テントが見える。誰が野営しているのかわからないが、幽霊見たさに寝泊りする人が居るのだろうか?
ギルゴンドリンの話では、夜の八時に現れるというので、野営地でゆっくりと待つことにした。
たぶんこんなことをする人が多くて、野営地になっているのだろう。
なんか不気味な顔の石像がある島があるなぁ、とか思いながら、俺は夜が来るのを待ち続けた。
………
……
…
夜、辺りが暗くなり、虫の音が響き始めたころ、俺は何者課かの気配を感じた。
振り返ると、そこには青白い輪郭をした人がぼんやりと浮かんでいたのだ。オビワン・ケノービか?
俺は移動を始めた幽霊の後を、すぐに追いかけることにした。
幽霊はニーベン湾の海岸を横切っていき、どんどん先へと進んでいく。ひょっとして罠か?
途中、狼や熊が襲い掛かってくる。罠かもしれん……
しかし、小高い丘に差し掛かったとき、突然幽霊はこちらを振り返り語り掛けてきた。
なにやら助けを求めている。まぁ、何かしらこの世に未練がある人が幽霊になるんだよな。
頭頂部に未練があるのですか? 幽霊になっても禿げているのですね(´・ω・`)
そして幽霊は、なにやら遠くを眺め始めた。
俺もまねをして眺めていたが、夜の闇が広がるだけで、何かがあるようには見えない。
幽霊の言っていた「豹の口」とやらは何かわからないが、幽霊が見ている方角にあるのだろうか?
空には巨大な月が昇っていた――
………
……
…
再びシルバーホーム亭。
豹の口についてもギルゴンドリンは知っているかもしれないと思ったので、一旦ブラヴィルに引き返して情報収集することにしたのだ。
すると、それは船乗りなら誰でも知っている話で、知らない奴は船乗りじゃないと言ってきた。
安心しろ、俺は知らないし、船乗りでもない。何も問題は、無い。
で、豹の口というのは、豹の川とニーベン湾の合流地点にある三角州のことらしい。
そして名前の由来は、水面から突き出た鋭い岩で、牙のように見えるということだ。
どうやらその岩にぶつかって壊れた船も数多くあるらしい。あの幽霊は、その事故で亡くなった人だろうか?
うん、でもその場所もわかりません!
そう心配していると、ギルゴンドリンは親切にも、地図にその場所を示してくれたのだった。
対岸か、泳いで行かんといかんな。
さて、幽霊の話はなんとなく結末が気になってきたので、このまま進めていきますよん。
続く――
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