妄執 最終幕 ~パラノイア~
翌朝、俺は行動に出ることにした。
グラアシアの依頼で、監視しているという三人を見張ってきたが、何もおかしなことはなかった。
それどころか、監視の監視をしている俺の方が、妙な噂を立てられたりしてしまったのだ。
それでも兆が一という可能性にかけて、グラアシアの依頼を丁寧にこなしてきたつもりだが、最後の最後でちょっと冒険をしてみたらとんでもない展開を迎えてしまった。
もしもグラアシアの言っている秘密組織がホントなら、彼はどういった行動に出るのか?
その疑問に答えるために、最後の一人、ダヴィド・スリリーについて、彼はグラアシアを監視していた、とウソの報告をしてみたのだ。
笑い話で済むか、物語は新たな展開を迎えるか。
その結果がこれである。
もはや笑い話では済まされない。
あるのかないのかわからない陰謀のために、俺は人殺しになることはできない。
しかも「絶対に」とか強調している。これは「明らかに」グラアシアが「おかしい」という結論を出さざるを得ない。
グラアシアの姿を探すと、彼はダヴィドの家の裏庭に潜んでいた。
俺がきちんとダヴィドを始末するかどうか、見張っているのだろうか?
これはもう「通報」するしかない。
俺は待った。
グラアシアに気づかれないように、待ち続けた。
しばらく待つと、お目当ての人物が向こうから歩いてきた。
待ってたよ、頭頂部が寂しい衛兵のディオンよ。もう、この人に頼るより他は無くなった。
ディオンは、「あのキチガイについて何か報告する事でもあるのか?」と聞いてきた。
あります、ありまくります。
しかしキチガイ呼ばわりか、俺もキチガイの片棒を担いでいたのか……(。-`ω´-)
これも今日までだ! 奴は逮捕される証拠がある!
ディオンに、昨夜グラアシアから受け取ったメモを見せてみた。
「彼のために親身になって手伝ってやってたら、今度は殺せと言ってきました(´・ω・`)」
「通報に感謝する。ここからは衛兵の仕事だ、君は手を引いてくれ」
引くなと言われても、これ以上関わるつもりはありません。
ディオンは、ダヴィドの家の裏庭に潜んでいるグラアシアに、剣を抜いて突き進んでいった。
うん、とっとと逮捕してくれ。奴はおかしい、明らかにおかしい。
しかし、ディオンの次の行動には、俺も目を疑った。
グラアシアを逮捕するのかと思ったら、その場で斬り殺してしまったのだ。
この国の衛兵、血の気が多すぎ……(;´Д`)
俺、ブルーマで衛兵の顔面に蹴りを入れて、よく斬り殺されなかったな。
シェイディンハルの時と違って、グラアシアは衛兵に反抗してきたわけではない。
衛兵の言う「キチガイ」には、遠慮は要らんということか?
うん、真面目に生きていこう。
事が終わった後のディオン。
悲しい話って、あんたが斬り殺したんでしょうに……
感謝してくれるのはうれしいが、ちと他人事すぎませんかねぇ?
しかしグラアシア……。
こいつは一体何だったんだ?
何を恐れていたのだ?
もしも俺が介入しなければ、監視されているとビクビクしているだけで、衛兵に斬り殺されることもなかったのではないのか?
俺は、正しいことをやったのかどうかを確かめたくて、グラアシアの懐を探り、鍵を一本手に入れた。
グラアシアの家。
最後にここを調べて、この事件を終わりにする。
うーん、わりと普通の家だな。グラアシアにしては、良い家に住んでいたんだな。
二階も三階も見て回ったが、とくに何の変哲も無い家だった。
地下室も見ておくか。ブルーマでは、地下室に遺体が隠されていたこともあったな、冤罪だったが。
地下室にあった机の上に、グラアシアのメモを何枚かみつけることができた。
ここに陰謀の謎が書き記されているのか?
確かにそのメモには、これまで監視してきた三人について、いろいろと書き記されていた。
秘密結社の名前は、マルーカティ選民達。うん、わからん。
この自由に動ける旅人って、ひょっとして俺のことか?
最初に監視したベルナドットのことが書いてある。
しかし、メモを読み続けるうちに、俺は自分の身が危険にさらされていたことを知った。
最後のメモでは、俺も陰謀に加担していると疑い始めている。
この文章の内容から察すると、ひょっとしてダヴィドも怪しくないと答えていたら、陰謀の加担者とみなされて襲われていたかもしれない。
俺は間違っていなかった。
グラアシアは狂っていた。殺されるに十分な理由あって衛兵に斬り殺されたのだ。
俺はパラノイアの恐ろしさについて、戦慄を禁じ得なかった……(。-`ω´-)
スキングラードにて 妄執 ~完~
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