魔術師ギルドに加入します
なぜここに居るのか全く覚えが無い俺は、ようやく文明に出会うことができたようだ。
なんとここには人が居る! 当たり前と言えば当たり前なのだが、これまでの数日間を思い返せば涙が出てきそうだ。
この人は、見た感じだと衛兵ってところかな?
言葉が通じればいいが……、とりあえず、話しかけてみる。
「おはよえ!」
しまった、あまりの感激に噛んだw
衛兵は、俺の姿をいぶかしむような目つきでじろじろと見ていたが、俺って変な格好してる?
鎧を着てないとマズい国なのだろうか? それとも、言葉が通じないのか?
そう思ったが、その衛兵は普通に話しかけてくれた。
やった、言葉が通じる!
いや、普通ならば言葉は通じるんだよ。
ある次元における知的生物は、全て同じ言語を話すのが普通なんだ。
言葉が通じないのは、神か何かの怒りを買って、言葉をバラバラにされたと聞くのだ。
そう、とある次元では、欲の深い王が、神の世界をも支配しようとして、その罰で言葉をバラバラにされたとか。
なんだっけ、バベルの塔伝説だったかな? おとぎ話だけどね。
それでもどうやらこの次元では、バベルの塔は建設されなかったようだ、ありがたや、ありがたや。
とりあえず場所について聞いてみることにした。
この衛兵の話では、西側に城が、南側に教会と民家、北側にギルドと商店があるそうだ。
教会か、御祓いしてもらえば記憶が蘇るか?
しかし宗教は、割とデリケートな部分だから、軽率に扱うと人々の恨みを買ったりしやすいから気をつけねば。
宗派が違うだけで「異端」とか言ったりするかもしれない世界だからな。
城と民家と商店はわかるが、ギルドとは何だろう?
ひとまず門をくぐることにする。
別に旅人でも立ち入り禁止ってわけではなさそうだ。
そうだな、記憶喪失ですなどと言うと頭がおかしい人扱いされるかもしれないので、ある程度話が分かるまでは、俺は異国の旅人ということにしておこう。
おおお、街だ、文明だ。
街の中にはあの野蛮な奴は居ないし、もちろん骨も居ない。
やっぱり今まで居た場所がおかしかったんだ。
ちなみに衛兵に噂話を聞いてみたが、「教会のアレントゥス・ファルヴィウスは生き物を召喚できると聞いたことがある」ぐらいしか聞き出せなかった。
生き物を召喚?
ひょっとしてそのアレントゥスとか言う奴に会えば、記憶を召喚してもらえることもできるのか?
あともう一つ、「レイニル・ダララス」という人についての噂話だけだった。
一通り街を回ってみたところ、金が無ければ宿に泊まることも飯も食えないのはこの世界でも同じなようだ。
何しろ俺は、洞窟の途中で殺された男が持っていた48Gしか持っていないのだからな……。
それでも興味深い施設を発見した。
魔術師ギルド。
衛兵の言っていたギルドとは、このことか。
他にも戦士ギルドというのもあったが、俺の記憶を戻す方法が分かるとしたら、やはり魔術師ギルドだろう。それに俺は一応魔導師だ。
ここにもぐりこんでみたら、何かわかるかもしれない。
「ごめんくださえ!」
なんで語尾が「え」になるんだよ、何かどっかの田舎物みたいじゃないか。どうせなら語尾に「なもし」を付けるか?
よかった、誰も気にしていないみたいだ。というより、正面におばさんが居るだけだ。
ひとまずおばさんに話しかける。
言葉が通じるってのはやっぱりいいよね、あの野蛮な奴とか骨とかとは違うねやっぱり!
おばさんの第一声目は、「こんにちは! 魔術師ギルドの入会希望者かしら?」だった。
希望したらそれだけで入れてくれるのか? もしそうなら、かなりオープンな感覚を持ったギルドだな。
入会します! と言う前に、「レイニル・ダララス」について尋ねてみる。
別にどうでも良い事だが、謎は残しておきたくないからね。
レイニルとはヴァンパイア・ハンターで、彼がブルーマに姿を見せたのはつい最近のことらしい。さらに、街に紛れ込んでいたヴァンパイアを見つけ出したそうだ。
ここはヴァンパイアが出没するような国か、それとこの街は「ブルーマ」か、そういえば街の外にあった立て札に、「ブルーマ」と書いてあった気がする。
それで、「ブレイドン・リルリアン」がそのヴァンパイアだったそうだが、このおばさんはどうやら納得がいかない模様。ブレイドンがヴァンパイアだったとは思えないんだとさ。とても感じのいい人だったから……
感じが悪ければヴァンパイアってわけでもないと思うが、おばさんがそう思うならそう思っていてもいいや。
「とりあえずおばさんや――」
「おばさん? 私はジーンヌです」
「あ、ジーンヌさん、魔術師ギルドに加入します」
迷っていても仕方が無いので、そのまま加入してみることにする。
金が無いし、泊まるところもない。ギルドに加入すれば、ここに泊めてもらえるかもしれないし、一人でいるよりは何か組織に属していた方が安全だ。それが右も左もわからん状態だとなおさらだ。
希望するだけで入れてくれるなら、最悪籍だけでも入れておいても悪くなかろう。
それに、俺がギルドに加入するなら戦士ギルドではなくて魔術師ギルドだ。
ジーンヌの話では、ギルドは常時新規メンバーを募集しているようで、俺を見て有望そうだからぜひ加入をとのことだった。
むろん俺は、素直に加入する旨を伝える。
それだけで決まった。
俺は、魔術師ギルドの準会員となったのである。
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