カーン砦にて ~頭蓋骨とか珍品とか~
「ややっ?! あの遺跡は何だ?」
「アグノンの炎を届けなくていいの?」
「この炎の加護がある内に、いくつか遺跡を攻略しておこう」
「あたしが加護してあげるのに」
サイラーンの砦から、ニュー・シェオスへと戻る途中、初めての夜ホープフル・キャンプを通り過ぎた辺りで、ずっと坂の向こうに遺跡らしき場所を発見した。
アグノンの炎を持ち帰るのは、それほど急ぐ必要も無さそうだ。
炎が灯っているのかいないのかで、どのような影響が出ているのかわからん。
それに、この炎を纏っていると、なんとなく力が噴き出るような気がしたりする。
緑娘に言った通り、炎の加護がある内に、遺跡をいくつか探索しておくのも悪くなかろう。
坂を下りていくと、確かにそこは遺跡らしき場所だった。
ただし、ヘレティックの斥候がうろついている。
ということは、ここはヘレティックの拠点とも言えるわけだ。
「よし、変装してこっそり行くぞ」
「やだ、そのまま突撃する。それにチロジャルも居るわ」
「ぬ、そういえば犬もおったか」
新入りのため忘れがちだが、犬のチロジャルもずっと一緒だ。
緑娘と違って小さいので、足止めの囮としては十分役に立っている。
入り口の側にもヘレティックは待ち構えていて、俺たちを怪しんできた。
「このカーン砦に何用か?!」
「モンゴリアンチョップを会得しにやってきた!」
「なんだそれは、怪しい奴め!」
「わんっ! わんっ! わんっ!」
どうやらヘレティックには、俺がシェオゴラスの使者だということは関係ないようだ。
確か異端者だっけ?
シェオゴラスに反しているというのなら、その使いである俺も敵なわけだ。
もっとも、ヘレティックの敵であるゼロットにも襲われるわけで、敵の敵は味方とうまくはいかないのだ。
そして、ここがカーン砦だということもわかった。
ヘレティックの見張りを退治した後、なんとなく緑娘に尋ねてみた。
「カーンと言えば、何かな?」
「キン・コン・カーン?」
「なんやそれ?」
「あなたの言ったモンゴリアンチョップもわからないわ」
「そう、何もわからない未知の領域へ突入だ」
とまぁ、砦に入ってもヘレティックが襲い掛かってくるのは変わらないわけで。
緑娘が弓矢で遊ぼうとした時は、時間の無駄なので俺も本気で戦わせてもらう。
文句を言ってきたら、当ててから言えと言い返すので問題ない。
このハンガーの群れは、ヘレティックが召喚したものなので、無視してもよい。
召喚主を始末すれば、自然と消え去るのだ。
最初の階層、一番奥には、謎のモニュメントがあったりする。
「これは何だと思う?」
「懲罰よ。両腕と腰から下を切り落として、晒しているんだと思うわ」
「何気に凄まじい発想するのな」
緑娘、ディメンシア的考えが強くなっておるぞ。
ならば俺は、マニア的な返しをしてやろう。
「違うな。ヘレティックが成長する過程、これはサナギのようなものだ」
「気持ち悪いこと言わないでよ」
二層目、円形劇場では、珍品らしきものを発見したりした。
「友愛のダガーのようだ、友愛とは何か?」
「親の罪を子が償えと反抗している奴らに、わざわざ手を差し伸べる無益な行為よ」
「なんやそれ?」
それって友愛なのか?
ん~、子供が反抗期に入っても、我が子なら耐えて見捨てずに愛せよってことかな?
反抗している奴らに手を差し伸べるって、そうとしか考えられない。
いや、それなら無益ではないよな。何だろう?
他人なら普通は無視するとか縁を切るとかするよな。
この階層には、もう一つの珍品を見つけた。
「ややっ、これはサロニア・ヴィリアの頭蓋骨だ。これも珍品だな」
「自殺の丘に居た霊でしょ」
「あ、そうだった」
この頭蓋骨を届けたら、自殺の丘に漂う霊を浄化できるのだったな。
別に誰かに頼まれたわけではないが、俺の支配する世界に浮かばれない霊が漂っているのも感じが悪い。
しっかりと成仏してもらわねばな。
「えーと、円形劇場だ。ここで何か演劇を披露したまえ」
「そうねぇ――。オ、オラフ、我々の征服者、独眼の裏切り者……」
「なんやそれ?」
聞いたこともない演劇の台本だな。
独眼の裏切り者――、サイクロプスかな?
次に訪れたのは、第二層から続いていたアリーナ地域。
ミリリのために、錬金術の素材も忘れずに回収している。
もう何を入手して、何を入手していないかわからないので、手当たり次第に引っこ抜くのだ。
要らない素材は、植えてしまえばまた生えてくるので気にしなくてよい。
ここで手に入れたのは、叫びの無口といった矛盾した名前の素材だった。
叫ぶけと無口、ひそひそと叫ぶ行為みたいなものかな?
ミュート・スクリーミング、心の中の大声といった類だろう、たぶん。
そしてアリーナらしく、ヘレティックの攻撃もより激しいものとなっていた。
弓矢を使わないなら、俺は見ているだけで充分だ。
どうぜ刺すなら、矢ではなくて針でいいはずだ。
ちなみに松明要らず。
俺の身体に宿ったアグノンの炎が、暗い砦内部を明るく照らしているのである。
アリーナ地域最奥で待ち構えていたのは、通常の二倍の大きさがあると思われる、巨大ハンガー。
こいつだけは全力をもって戦わなければ危ないと思ったので、みんなで一斉に対処するのであった。
三方向から半包囲する作戦が成功すると、こんな感じの戦いになるのだ。
ところで、人間二人と犬一匹だと、どう表現したら良いのだろうか?
三人と言うのも妙だし、二人と一匹、こう呼ぶべきかな?
「まあそんな感じに、いろいろと珍品が見つかったわけだ」
「友愛と頭蓋骨と無言で叫ぶ口?」
「どれが一番気に入った?」
「友愛以外気持ち悪い」
「友愛外交する人は?」
「手を差し出すべき相手を見誤っているだけ。たぶんカマドウマに土下座していると思うわ」
「さいでっか」
なんだかよくわからんが、それでいいか。
「分かってないでしょ、グラアシアって人と仲良くするような物よ」
「やめろそれは……(。-`ω´-)」
やだよ、ありもしない事実を押し付けてくる人なんて!
誰も監視していないのに、監視していると思い込んで殺害依頼してくる奴なんて!
以上、様々な珍品を入手するといった、実りある探索でしたとさ。
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