ディメンシアの地 ニュー・シェオス墓地 ~もう墓ができてる~
「こらぁ! 起きんかぁ!」
「んん……、我の眠りを妨げる者は誰だ……?」
「ぐえっ!」
いつの間にか眠っていた俺は、突然何者かがのしかかってくる感触に目を覚ました。
「あれっ、緑娘――?」
「何がミドリムスメよっ!!」
俺の安眠は、緑娘に妨害された――って、ここはどこだ?
「わかった、わかったから起きるよ。そんなに怒らなくてもええやん」
「寝てることに怒ってんじゃないわよ!」
「なんね――」
寝起きでぼんやりしていた頭がはっきりしてくると、ここがヒラスの家のベッドの上だと気がついた。
しまった、横になっていろいろと考えていたら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
目の前には――
憤怒の形相の緑娘が居るわけで。
「やっぱりヒラスとできてたんじゃないの! あたしに隠れてこっそり逢引してた!」
「いや、違うんだ、そのぉ……」
「何よ!」
「ヒラスは死んだよ」
「…………」
俺は、昨夜の出来事を緑娘に語った。
ヒラスに儲け話を依頼されたこと、そしてその内容は、生きるのに疲れたヒラスを殺害すること。
俺は直接手を下したわけではないが、突然神風が吹いてヒラスを転落死させたこと。
そして彼の家から、遺言状と形見の品(?)を入手したこと。
「話はわかったけど、帰ってこなくてその死んだ人の家のベッドで寝ているのがわかんない!」
「俺も不思議だと思うけど、なぜだろうねぇ……(。-`ω´-)」
とりあえず、緑娘に「幸運の指輪」をプレゼントして、この場は一応収めたわけである。
しかし自分でもわからん。
なんでヒラスのベッドで寝てしまったのだろうか……
「そうだわ、昨夜『あなたを探して回った時』、こういう物を手に入れたんだけど」
「ぬ……?」
緑娘は、文章の一部分だけ語気を強めて言ってきた。
いや、だからごめんよ、帰ってこなくて。
――と、緑娘の持ってきたものは、何者かの遺言状みたいなものだった。
カッターとか、イアリルとか知った名前は書かれてあるものの、誰が書いたのかは書かれていない。
そしてこの遺言状を書いた者は、ブライサールに全てを盗まれてしまったために屋根の上での生活を余儀なくされ――た?
遺言状には、「病弱バーニスの酒場の裏を流れている下水に、隠したものをしまった壺を沈めた」と書いてある。
はて、そんなものあったかな?
「傍にはこの鍵もあったわ」
緑娘は、鍵を一つ見つけ出していた。
――ってか、俺を探すために屋根の上にまで登ったのか。
それはすまんことをした……。
さて、折角だから、誰かさんが隠した宝の確認でもしますか。
しかしクルーシブル地区、早くから二人の遺言状を手にすることとなるとはなぁ……
陰鬱な世界だから、陰鬱な人が陰鬱な事ばかり起こすのか。
それとも陰鬱な人が陰鬱な事ばかりするから、陰鬱な世界なのか。
やっぱりマニア地区の方が良い気がする……。
「よくそんなところに手を突っ込む気になれるわね」
「大丈夫、壺には鍵までかけられていたから、中身は無事だよ」
「その壺が汚いのよ!」
「ごもっとも……(。-`ω´-)」
確かに酒場裏の下水に、その壺は沈められていた。
中身は、二種類のよくわからんワインが四本、沼ワイン? 胞子ワイン?
どちらにせよ、あまり身体にはよろしくないような気がする。
それと、スイートケーキに凝縮された腐敗物。こんなものと一緒に入れられていたスイートケーキも推して知るべし。
指輪ぐらいかなぁ……
「スイートケーキあったけど、食べる?」
「馬鹿!」
「ごもっとも……(。-`ω´-)」
というわけで夜も明けたことだし、クルーシブル地区を出てディメンシアの地へ向かうか。
病弱バーニスに依頼されたねじれ窟・ノッティー・ブランブルや、シェオゴラスに依頼されたゼディリアンへ目指さなければならないからね。
それらはディメンシア南方にあるのだ。
「これまたわけわからん空模様だな」
「なんだか異世界みたい」
「ある意味、ここは異世界だけどな」
どう表現したら良いのだろうか?
マニア地方が落ち着かない空模様だとしたら、こっちの地方は重くのしかかるような空模様?
どっちにせよ、あまり精神的によろしくない地域だということはわかる。
こんな世界で陽気に過ごせという方が無理な相談だ。
せいぜいファイトクラブだっけな? お互いに殴り合って憂さ晴らしするのが精一杯だ。
「そういえば、夜にいろいろ回ったそうだから、いやごめんなさい。その時に、ファイトクラブを見なかったか?」
「ファイトクラブ規則第一条、ファイトクラブについて口にしてはならない」
「やっぱりファイトクラブだったのな。ちなみに第二条も聞いた?」
「ファイトクラブ規則第二条、ファイトクラブについて口にしてはならない」
「やっぱ騙されているよな。第三条は?」
「ファイトクラブ規則第三条、ファイトクラブについて口にしてはならない」
「わかった、もういい」
第何条まで同じ文言が続くのか気になるが、どうせウシュナールが適当にでっち上げただけだ。
いずれは俺がこの世界の全てを手中にした時、権力を笠に着て強引に聞き出してやろう。
何? 参加して全員やっつけちまえばよかったのに?
やだよ。
どうせ『いやあ、あんたがクラブのチャンピオンと戦うのを見たよ。カジートが倒されると思った者などいなかったのに、あんたはそれを皆に見せつけてやったんだ! ハハハハハ!』などとみんな言い出すに違いないのだから。
いや、カジートがチャンピオンかどうか知らんよ。ただ、戦っていたのが顔色悪いのととカジートだったから、名も知らぬカジートが勝ったのだと思ったからね。
俺がちょっと活躍するだけで、それが唯一の楽しみであるかの如く騒ぐ奴が多いから、あまり目立った行動はしたくないのだよ。
「ところで、この犬どうすんだよ」
「知らないわよ。ついてくるのだから、好きにさせといたらいいんじゃないのかしら?」
「じゃあ名前ぐらい付けてやれよ」
「いやよ、気持ち悪い」
「…………(。-`ω´-)」
可哀想な犬……
しかし、明らかにゾンビ犬、ケルベロスなのがいかんのだよ。
理性を失って襲い掛かってこないのが不思議なぐらいだ。
ニュー・シェオス、クルーシブル地区を出て少し西へ向かったところで、これまた陰鬱な場所が現れたりする。
「墓場か……」
「悪魔の墓場って知っているかしら?」
「害虫駆除機の超音波で死人が蘇る話など知らん」
「知ってるじゃないのよ」
「…………(。-`ω´-)」
墓石の中の一つが、ものすごく身近な物だったりする。
「なぁに? ヒラス・クルタムナスは、自分がどこにハマるなどと考えていなかった。しかし今、彼は実に上手に棺にハマっている?」
「もう墓ができたのか、早いな」
「あたしの墓碑は、何って書くのかしら?」
「ちょっとシャレにならんので、そのジョークはパス」
つい数日前まで、緑娘は死んでいて、まさに埋葬される直前だったことは言えない。
というか、ムンダスの世界では、もう埋葬は終わっているのだろうなぁ……
もうあっちの世界には、緑娘は疎か、俺の居場所は無い――いや、必要無いのだ。
だから、今日も行く。
俺と緑娘の二人、新たなる冒険の旅を続けるために――
犬?
知らんわ、こいつケルベロスだろが!
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