シヴァリングアイルズ最終話 ~戦慄の島よ永遠なれ~
「数千年もの間、この筋書きは繰り返された。その度にこの地を征服したが、結局はあの道化師のシェオゴラスに戻るばかりであった――」
ついに、ジャガラグを退治して、ここに戦慄の島は統一された。
そしてジャガラグは、これまでの歴史について語りだした。
「古来よりそうではない。かつてはこの、完全になる秩序の領域を治めていた。我が領土は時代と共に、オブリビオンの海にわたって広がっていったのだ」
そうなのか?
この狂気の世界は元々ジャガラグのもので、狂気ではなく秩序をもって統治されていたというのか?
「しかし私の力を恐れた他の君主は、私に狂気の呪いをかけ、壊れた地を治める、壊れた魂の支配者、シェオゴラスとしての生を運命づけたのだ」
どういうことだ?
ジャガラグがシェオゴラスに?
待てよ、シェオゴラスのじじいも言っていたような気がするぞ……
奴が近づけば、私が遠ざかる。すでに自己が薄れている。他人ではないが、私自身でもない。
つまり、ジャガラグが近づき復活すると、シェオゴラスは遠ざかり消える。
そういうことだったのか。
やつらは、表裏一体だったんだ。
「各時代に一度、私は本来の姿に戻り、世界の再生を許された。そしてその度に呪いが再発し、シェオゴラスとして生まれ破壊していった」
俺が邪魔をしなければ、この世界を本来の姿である秩序の世界に戻ったわけか。
しかし呪いが発動するたびに、ジャガラグはシェオゴラスと化して世界を狂気に染めて破壊する。
そして破壊された世界をジャガラグが再生する。
数千年もの間、閉じた世界のように同じことが繰り返されていたというのだ。
「しかし今や、お前が輪廻を断ち切った。お前が狂気の重荷を引き受けたおかげで、ジャガラグは再びオブリビオンの虚空をさすらう自由を得たのだ」
「ではこれから俺はどうすべきか?」
「私は去るのでお前は残るといい、定命の――違うな。シェオゴラスの力を引き継いだ時に、お前は永命の者となった。狂気の神として君臨するがよい」
「永命の者? それよりも、俺が秩序を取り戻すとかはダメなのか?」
「この領域はお前の物だ。お前の好きなように塗り替えるがよい。そうすれば、その地位にも馴染むことだろう。狂気の君主、シェオゴラスよ――いや、何と言ったかな?」
「俺の名前はラムリーザ、戦慄の島の王だ」
「さらばだ、ラムリーザ。もう会うこともあるまい」
ここまで語ると、ジャガラグの姿は完全に消えてしまった。
そして空模様は、不安を煽るようなものではなく、澄んだ青空となっていたのである。
「終わったな――って生きているのか?!」
「どうしたのかしら?」
「んや、ぼんやりとジャガラグを二人で見つめていたと思うと、あの時のことを思い出されて――!」
あの時、マーティンがアカトシュと化し、その姿が神殿地区に残った時、緑娘は――
「周囲にもう誰も残っていないのを把握していたわ」
「そうか、よかった」
「同じ轍は踏まないわよ」
よかった。
今度こそ、緑娘と共にゴールインできた。
これから先はどうすべきか?
特にあてもなく、一旦宮殿に戻ろうとしたところ、入り口前でハスキルは待ってくれていたようだ。
「やりましたな! お見事です、シェオゴラス神。決して疑いませんでしたよ」
「シェオゴラスではなく、ラムリーザと呼べん?」
「それも構いませんが、『形式上』あなたはシェオゴラスでないと困るのです」
「形式上な、それなら仕方ないか。ラムリーザ・シェオゴラスと改名しよう。元の名前など覚えてないし」
「ラムリーザ・ネレウテリア――」
その時、緑娘がぼそりとつぶやいた。
「ネレウテリア?」
「そう、それがあなたの名字よよ」
「……ふむ、それではラムリーザ=シェオゴラス・ネレウテリアが俺の名前だ」
「ではラムリーザ=シェオゴラスよ、今後も仕事はありますよ。シェオゴラスの後を継いだ以上、目を向けるべき事案がね」
「それよりもハスキルよ、一つ確認しておきたいのだが、永命の者とは?」
ハスキルは早速俺に雑用を依頼しようとしてくる。
それはもうかまわん、もう慣れっこだ。大学では、アークメイジになった後も学者には見習い扱い食らっていたしな。
「はい、シェオゴラス様の力を引き継いだ時、あなたは永命の者となったのです」
ハスキルの答えは、ジャガラグが言ったことと同じであった。
それはそれで別にいいのだが。しかし――
「このテフラは定命の者なのだろう?」
「そうなりますね」
それでは困るのだ、非常に困る。
いずれ緑娘は老いて死ぬ。
その先は一人で生きていかねばならぬのか?
「永命の者と変えられないものだろうか?」
「ではシェオゴラスの杖に願いなさい」
「は?」
「その杖を使ってそう念じればよろしいでしょう」
「それだけでいいのか?」
「この世界は、その杖の所有者であるあなたの思いのままですぞ」
そんなのでええんかい。
それなら緑娘も、永遠の宴に誘うだけだ。
「じっとしてろよ」
「なぁに?」
「シェオゴラスの杖よ、この者を永命の者と変えよ」
緑娘に対して杖を振るうと、身体から紫色の煙が立ち込めた。
これで変わったのか?
「気が済みましたかな? そちらのお嬢さんもシェオゴラスの妻となられたわけです」
「シェオゴラスの妻? なんかやだわ、それ。あたしはラムリーザの妻よ」
「いや、まだ結婚してないし……」
「さあ、王国の支配者として相応の利益を得ると共に、多くの責務をこなす必要があります」
「わかったわかった」
ハスキルの言う責務とは、困っている島の住民が絶えず脅威にさらされているとのこと。
そこで自分で対処するか、兵を派遣して解決させなければならないということだ。
うん、これまで通りだね。
俺は永遠に生きることとなった。つまり島の統治、島民の安全を保障する義務を受け持ったわけだ。
兵を派遣すればよけいな犠牲が出るだけだ。
しばらく飽きるまでは、俺自らが動いてやろうではないか。陣頭で戦うと宣言したことだしな。
「早速ですが、ハイクロスの集落が困難に直面しており心配です」
「どうせミリリの研究が暴走したのだろう?」
「おそらく……」
まったく困った人だ。
――じゃなくて、困難はフェイクで、実は新しい研究対象を求めるために俺を呼びだしただけかもしれんな!
「よし、しょうがないからハイクロスの村に行ってやるぞ」
「その前に、あなたにお願いがあるの。その杖を使えば、何でもできるのでしょう?」
「そうみたいだね。シロディールに戻りたい?」
「異国なんて興味ないわ。それよりも羊さんを出してよ」
「羊さんー?」
そういえば緑娘は羊好きだった。
そして戦慄の島では、これまでに羊の姿を見かけなかった。
この島には羊は生息していないのだろう。
しかしこの杖の力を使えば――?
「シェオゴラスの杖よ! 我に羊を与えたまえ!」
なんともまあしょぼい願いだ事。
三つの願いをかなえてやると言われて、思いっきりつまらない願いをするタイプだな緑娘は。
鼻にソーセージでも引っ付けてやろうか?
つまらない願いでも、律義に叶うのな。
突然羊が姿を現したのであった、何の脈絡もなく……
「きゃーっ、かわいいー、もふもふーっ」
「チロジャル、お前はこれから牧羊犬な」
「わんっ」
「ねぇ、一匹なんてせこいこと言ってないで、もっとたくさん出してよ」
「そんなに要らんだろう?」
「あたし五匹もっていたもん!」
「じゃあ五匹出せばいいのか?」
「ほんとせこいわねぇ。あたしの欲しがるだけ出すぐらいの男気見せなさいよ」
「ほーお、男気ね」
ま、別に羊ぐらいいくら増えたところで困らない。
それに、戦慄の島には羊が存在しないので、各村に送り届けてやってもいいぐらいだ。
緑娘の欲しがるだけってのがどのぐらいかわからんが――いや、以前語り合ったような気がするが――、まあいいか。
だから俺は、もう一つ別の願いを述べるのであった。
「シェオゴラスの杖よ! テフラという娘が望む限りの羊を我に与えたまえ!」
「ぬ、こんなもんか……(。-`ω´-)」
この程度ならまだ現実的だ。
その時、周囲からおびただしい数の「メー」という鳴き声が。
そして後ろから押されて、横から押されて――?!
「きゃーっ、羊さんがたくさん出てきたーっ」
「ちょっ、まっ、なんだこの数は?!」
「ねぇ、この宮殿を羊牧場にしましょうよ」
「いや、これはやりすぎだって! 一体何を考えているんだよ!」
「あたしの羊牧場らしくなってきたわ」
「いや、牧場というより蚕みたいだぞこれは!」
やれやれ……
戦慄の島全体に羊を行き渡らせる余計な任務が発生してしまったよ。
いったい何匹召喚したのだろう……
こうして、ラムリーザは戦慄の島の王となりました。
ジャガラグとシェオゴラスによって延々と繰り返されてきたグレイマーチも、支配者がラムリーザとなることでその輪はひとまずは断ち切られたのです。
恋人であり許嫁だったテフラも同じようにシェオゴラスの力を分けてもらい、この先永遠にこの島を二人で統治し続けることとなるのでありました。
ここでひとまずラムリーザの大冒険は一区切り。
この先も、困っている島民を助けて回る、新しい王と王妃の姿があったとさ、あったとさ。
これから先はどうなるか? またの機会をご贔屓に!
それでは皆さん、さようなら。
戦慄の島は今日から平和です!
戦慄の島よ永遠なれ――!
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「ねぇ、少しずつ増やしてあたしたちの牧場作りましょうよ」
「いきなり牧歌的な野望に変わったな。まぁ世界征服とかの野望は物騒だから、俺もそっちに賛成かな。それで、どんな牧場にするのだ?」
「こんな感じかな」
なんか無茶苦茶な未来図が見えたような気がするが、気を取り直して仕事に戻るぞ。
第二章 見捨てられし鉱山のトロール ~ギルドマスターの息子の死~ より