見捨てられし鉱山のトロール ~ギルドマスターの息子の死~
コロール戦士ギルドにて。
オレインが俺たちを探している風なことをバーズが言っていたのだ。
どうやら俺もセットで数えられているらしい。戦士ギルドは緑娘テフラの仕事なんだけどな。
緑娘がオレインと話している間、俺はギルド内を見て回る。
うん、いろいろな絵が飾られているね。同じ絵を飾っているブラヴィルの家とは大違いだ。
「ねぇラムリーザ、なんだかヴィラヌス・ドントンが居なくなったみたい」
「む、ギルドマスターの息子か。逐電か? 追放か?」
「なんか放置鉱山ってところでトロールの巣を掃討する仕事になってたんだけど、出かけたきり何日も音沙汰が無いんだって」
「その放置鉱山ってどこだ?」
「ここらしいわ」
「レヤウィン……、また国内横断かよ……」
「デリケートな仕事なんだって、早く行きましょうよ」
「ん、そうしよう」
「――って、レヤウィンへ仕事に行くのじゃなかったのか?」
「もふー、もふー」
「だめだこりゃ」
「ねぇあなた、羊を飼いましょうよ」
「突然なんや?!」
「ねぇ買ってよ、お金ならたくさんあるんでしょ?」
「お金の価値がよくわからん国だけどな」
「買って!」
そういうわけで、羊を一匹買うことで緑娘は牧場から離れることになったのだが――
「まさか連れまわす気じゃないだろうな?」
「ねぇ、少しずつ増やしてあたしたちの牧場作りましょうよ」
「いきなり牧歌的な野望に変わったな。まぁ世界征服とかの野望は物騒だから、俺もそっちに賛成かな。それで、どんな牧場にするのだ?」
「こんな感じかな」
なんか無茶苦茶な未来図が見えたような気がするが、気を取り直して仕事に戻るぞ。
………
……
…
そしてユニコーンで一気にレヤウィンまで移動。
最初は羊も抱きかかえて運ぼうかと思ったが、さすがに無理なのでユニコーンのスピードを落として羊には追いかけてきてもらった。
「しかし、鉱山に羊を連れ込むのか?」
「それもそうね、ミーシャに預かってもらいましょう」
「ミーシャ?」
そういうことか、ここにはこの娘が居たな。
連れてきた羊はミーシャお気に入りの小島に残して、俺たちは放置鉱山へと向かっていった。
放置鉱山、レヤウィン南部にある洞窟。
相変わらず外観は他の洞窟と同じだったりするが、入り口に髑髏のオブジェクトがあったりする。トロール退治と聞いたがゴブリンの巣窟か?
「あたし今回は魔力の鎌を使う」
「そういえばそんな武器もあったな。魔剣を貰う前はそっちを使ってたね」
「たまには使わないと錆付いちゃうからね」
大きな鎌を片手で持ち上げているが、刃の部分は魔力の塊で重さは無いのだそうだ。
棒の部分も持っているところ以外は魔力だったっけ?
だがしかし、洞窟の中は凄惨な光景が広がっていた。
「やられてるな」
「やられちゃってるわね」
「トロール程度にやられるなんて、戦士ギルドも案外頼りない」
「死霊術師に勝てない魔術師ギルドメンバーは?」
「頼りない……(。-`ω´-)」
しかし奥へ進んでいくと、どうやらトロールの仕業ではないかもしれない証拠が見つかった。
「こいつ、ブラックウッド商会じゃないか?」
「えー、こいつらが邪魔をしたっていうの?」
「それなら納得できる部分もあるが、そうか、商会が絡んでいたか……」
「何をしているのかしら?」
「潜入捜査に使えるかもしれないから、装備を頂いておく」
「ダムの時みたいね。あたしはそんなの着ないよ」
「いつか役に立つ時が来る様な気がするんだ」
そんなわけで、ブラックウッド商会の装備一式を頂いてさらに奥へと進む。
奥へと進むと、そこはトロールの巣になっていた。
ヴィラタスはこいつらの始末に来たのだが、ブラックウッド商会に邪魔をされたということだろう。
「あ、又の間に外した」
「くそっ、この魔法はまだコントロールが……」
「ここはあたしに任せて!」
トロールは緑娘に任せて、俺は調査の方を進めることにした。
すると、横穴に点々と血のあとが続いているのを発見した。
ひょっとしてヴィラヌスは傷ついてこの奥に?
………
……
…
…………(。-`ω´-)
「裸で死んでる……」
「えー、ヴィラヌス死んじゃったの? どうすんのよ!」
「どうするって言ったって……」
どうやら装備が全部壊れてしまったらしい。
ヴィラヌスの持ち物は、壊れた装備と血まみれの日誌。
この日誌に何か書かれているかもしれない。
日誌には、ヴィラヌスの兄ヴィテルスが死んでからの話や、そのことによりマスターである母に過保護にされて仕事をもらえないことに対する不満。
そしてギルドの一員として相応しいのか? と不安になっていることが書き連ねられていた。
「ん、これは俺たちのことじゃないかな?」
「どれが?」
そこには新入りと一緒にノンウィル洞窟へと向かったことが書かれていた。
ヴィラヌスにとっては久しぶりの任務らしく、非常に喜んでいたようだ。
そしてその新人を口説いたりしていたんだろうなぁ。
しかし最後は傷つき、トロールにやられてしまったようだ……
「はぁ、しつこくてうっとうしかったけど、こんなことになるならもっと優しくしてあげるんだったなぁ」
「居なくなって気がつくってことも多いものだ。失われないうちに大事にしとくんだな」
「ほんとにもう、ラムリーザが居るっていってるのになんでしつこかったんだろう」
「俺が相手なら奪い取って寝取れると思っていたんだろ? 知らんけどマスターの嫡男だし偉いんだろう」
「なにそれなんかムカつく。アークメイジより偉いんだ、ギルドマスターならともかく、その息子程度で」
「まあ落ち着け。それよりもこのことをどうマスターに説明するのだ?」
「あたし知らない、ラムリーザがやってよ」
「君の仕事だろ?」
「オレインに任せるわ。あたしそんな報告したくない」
「ん、それが無難だろうな」
そんなこともあって緑娘もちょっと落ち込んでいるみたいだ。
ギルドマスターの息子が死亡した。このことがギルドの未来にどう影響するのか……
あまり戦士ギルドの未来も前途多難なような気がしてきたぞ。
とりあえず今日はゆっくりと休んで気分を一新させるか。
なんかしんみりした気分を吹き飛ばそう。
………
……
…
「ねぇねぇ、この羊かわいいね。ミーシャ、乗せてもらったよ!」
「あっ、いいなー。あたしもらむたんに乗りたいっ」
「ら、らむたんだと?!」
「この羊の名前はらむたん。なぁに? あなたもらむたんともふもふしたいの?」
「……好きにしてくれ(。-`ω´-)」
「きゃっきゃっ、らむたんかわいーっ、ねえねえこのらむたん、ミーシャの島に置いててくれたら世話するよ、するよ」
「そうね、連れまわすのは大変だから預けようかな。また新しいの連れてくるね。というわけで、あたしもらむたんに乗るーっ」
待て……(。-`ω´-)
また新しいのって、別の羊も買って連れてくるつもりか?
それと緑娘も羊に乗るのはいいが、二人乗りしたら羊がつぶれそうだぞ。
あと羊がかわいそうだから、その靴で上に立つなよ。
まぁなんというか、気分転換にはなるなここは。
そんなことを思ったりする、レヤウィンの昼下がりであった――
前の話へ/目次に戻る/次の話へ