戦慄の島の縁、パスウォール ~奇跡の再会?!~
狂気の門、そこは番人であるゲートキーパーによって塞がれていた。
多くの冒険者が血を流したが、未だに誰も突破できていないようだ。
もしも適格な者なら戦わずして通り抜けられると言うが、俺が適格な者であるといった保証はどこにもない。
俺とマシウは、一旦パスウォールの村に戻り、この世界についてもうすこし情報を探ってみることにしたのだ。
パスウォールの村――
現在の長であるシェルデンが来たときは、ただの廃墟であったと聞く。
そこを数年がかりか数か月がかりか知らないが、彼の指揮のもと再現されたと言うのだ。
あと、この世界では全てが狂気に支配されているわけではない。
先程会ったシェルデンもフェラスも、まともそうな人物に見えるが……
一見すると、普通の村のようにも見えるが、ここはシェオゴラスの世界。油断しては、ならない。
警戒しすぎるのもよくないけどな。
とりあえずは、村の入り口にあった宿屋に立ち寄ってみることにした。
ぬ……?
妙に脱力感満載の女主人だな。
「えっと、こんにちわっは――」
狂気を装いかけて、思い直す。
相手が狂人だった場合にそう対処するべきで、こちらから仕掛ける必要は全くない。
まぁこの相手は怪しいけどな。
「こんにちは! ものぐさ財布亭へようこそ。この宿を引き継いだドレドウェンです」
「そうですか! 私は旅の冒険者ラムリーザ、一期一会のトゥルットゥー!」
ぬ……、いかんな。
くでーんとしていたくせに、話しかけたら突然シャキッとしやがったから、こっちが動揺しておる。
いつから俺は冒険者になったのだ?
だいたいトゥルットゥーってなんだよ! エルスウェアで遭遇したアガマナスの司祭じゃねーか!
ドレドウェンの話では、この村に来た時はシェルデンしか居なかったらしい。
村人第二号ってわけですかな?
「ゲートキーパーについて、何か知っていますか?」
「狂気の門の番人ですね。レルミナ・ベレニム以外は近づく者を殺してしまうわ」
「レルミナ?」
「今、二階に泊ってます。彼女の方がよく知っているでしょう」
まずは狂気の門を越えなければ、シェオゴラスと対峙することはできなさそうだ。
ゲートキーパーを力技で押し破ってもいいが、念のために情報を集めておこう。
ちなみにドレドウェンは、話し終わるとこの通りである。
もちっとシャキッとせい、シャキッと!
二階には二部屋あり、その片方に一人の女性が泊まっていた。
おっと……、やばい人か?
見たこと無いドレス来ていて、狂気の世界の住民のくせに高貴に見えたりするが……
「あらどちら様? まだ祝福が定着していない、新しい人ね」
「死霊術師ですか?」
「待って、あなた冒険者ね? 不愉快だわ、回れ右しなさい!」
「違う……(。-`ω´-)」
くれぐれも、俺は冒険者ではない。
魔術師ギルドの依頼で、この地を調査しに来ただけだ。
――ってか、アークメイジやクヴァッチの英雄をつらまえて冒険者とはな。
やはりこの世界には、シロディールでの名声は届いていないらしい。
それはそれで寂しいが、新鮮な気分もあるようだ。
「ゲートキーパーについて何か教えてくれたら、回れ右しますよ」
「ゲートキーパー、それはシェオゴラス様の知識と私の才能から生まれた坊やなのよ」
「つまり人造人間か魔法生命体ってところですね、わかりました」
「シェオゴラス様に祝福された者なら襲わない子よ。鍵を奪おうとしても死ぬだけ、やめときなさい」
「祝福受けてますよ、たぶん――」
俺はシロディールで、シェオゴラスの依頼を(無理やり)実行させられたことがある。
つまり、認められているはずなのだ。
認められたくもないがな……
もちろんレルミナが言うには、俺は平凡な魂の持ち主で、祝福など受けてないと言う。
もちろん、それでいいけどね。
ワバジャックを見せたら、態度も変わるだろうか?
「んじゃゲートキーパーを退治するよ」
「無理だねぇ。あなたの実力じゃ、あの坊やの一撃で魂半年分が飛んで行くわ。でもあなたが死んだら、肉と骨を有効活用してあげますよ」
「やっぱお前死霊術師だな」
やっぱりこいつは死霊術師っぽい。
まぁ狂気の世界でコソコソと研究している分には、シロディールに影響ないのでここは放置。
奇妙な扉さえ閉じる方法がわかれば、この世界ともおさらばだ。
「さっさと立ち去りなさい。話の続きがしたければ、ルノーと話をしなさい」
「はいよ、右向けー左っ!」
「回れ右しなさい!」
「おっと違ったか!」
俺もなんだか妙なことを口走るようになったな。
右向け左ってなんだよ? 身体を右に向けて、首だけ左に向けるのか?
それだと首が180度回転するぞ、えくそしすとーっ!
とりあえず死霊術師とは仲良くしたくないので、この場は立ち去っておく。
狂気の王をシェオゴラス様と呼ぶ死霊術師、厄介な奴だな。
次はルノーって人を探して、その人にゲートキーパーについて尋ねればよいのだな。
情報集めが、ちゃくちゃくと進むぜ。
念のために、村長シェルデンにも会っておく。
ひょっとしたら、彼も何か知っているかもしれないからね。
「村長、ゲートキーパーを退治できますかねぇ?」
「ん~……。氷血のジェイレッドが倒したがってるようだが、ま、自殺行為だね」
「やっぱり普通には勝てませんか……」
「奴には近づくなよ。あんたの死体で俺の村を汚されたらかなわんからな」
そのゲートキーパーを勝手に作ったのが、レルミナという奴みたいだどな。
彼女があんなのを作るのを、村長は止めなかったのだろうか?
それよりも気になるのは、彼の後ろにある石像だ。
そう、問題はこの像である。
やはりこの世界では、シェオゴラスを神として崇められているのだろう……(。-`ω´-)
以前シェオゴラスに難題を押し付けられた時、レタスを強引に奪われた記憶がある。
ここにもレタスをお供え物として置いてあるところからして、シェオゴラスはレタスが好きなのだろう。
奴がレタス人間なら、俺はキャベツ人間を目指すからな。
ん、意味わからんね。
ルノーという人を探してパスウォールの村を歩いていると、例の石像を祀った祭壇のようなものが村の中央にあることがわかった。
なんであんなのを祀っているのだ?
やっぱりこの世界はおかしい、そう思うのであった。
「やはりゲートキーパーを始末しなければなりませんか?」
「そうだなぁ……。この世界で大人しくしている分には問題ないのだが、奇妙な扉から出てきたら厄介だからな」
「シェオゴラスの祝福を受けていないと通れないそうですね」
「しかも、門の鍵はゲートキーパーに埋め込まれているらしい。その前に、あれは死霊術師の作品だから、退治方法を探しておくのも悪くないと思う」
「なぜでしょう?」
「もしもシロディールの死霊術師が、アレと同じものを造ったらどうする?」
「流石ラムさん、先のことも考えているのですね!」
ま、シロディールの皇帝となる身だ。
帝国を護る為に、いろいろな知識を得ておくのも悪くなかろう。
何しろ俺は、皇帝の資格であるドラゴンボーンという存在ではないのだからな。
血筋に期待できない分、智謀で補う必要があるのだ。
元アークメイジとしてもな……。
「ルノーか……」
その時、マシウが何だか遠い目をしているのに気がついた。
「知っている人なのか?」
「いやまぁ、そのぉ……」
「ちょっと待て――」
俺はその時気がついた。
村の外れ、池の傍に座り込んだ人物の存在に。
なんだか無茶苦茶特徴的すぎるんですが……(。-`ω´-)
緑娘以外にも居たのだな、髪の毛が緑色の人間が。
この世界では普通なのかもしれん。普通じゃない世界だからな……
「緑娘、か」
俺も思わずつぶやき、遠い目をしてしまうのだった。
「えっ?」
座っていた人にも聞こえたのだろうか?
立ち上がってこっちを振り返る。
ま、あの特徴だと、俺以外の者にも「緑娘」と呼ばれても仕方なかろう。
「――ラムリーザ?!」
「なぬっ?!」
俺のことを知っている奴が、この世界にも居るというのか?
「らっ、ラムリーザだぁっ!」
「何っ?! まさかお前っ、ミド――テフラか?!」
「ラムリーザだ! ラムリーザが来てくれた!!」
「ええっ?! なっ、何で?!」
緑娘は、闇の一党の刃の前に死んでしまったのではないのか?
だがこの感触、以前抱きつかれた時の感触と同じだ。
信じられないことかもしれないが、こいつは緑娘テフラだ。
なぜこの世界に居る――いや、それ以前に生きているのか不可解だが、今ここに居るのは間違いない。
俺もついに狂い始めたのか――?(。-`ω´-)
「まっ、まさか……か、母さん?!」
「えっ、どちら様ですか?」
なんだかマシウの様子もおかしい。
マシウの母親は、ルシエンの手によってずいぶん昔に殺されたのではなかったか?
「母さん、僕だよマシウだよ」
「そんな? でもマシウは――いえ、あなたにはマシウの面影があるわ」
なんだこの世界は?
もしもこれが本物の緑娘で、もう一人の女性がマシウの母親だとしたら、シロディールで死んだと見せかけて、実はこの世界に転生していたのか?
それとも、この世界に足を踏み入れることによって、狂気に侵され始めた俺が見ている幻影なのだろうか――?
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