現世に戻れない存在 ~魂の再生を受けた者~
「えっと、テフラなんだよね?」
「あたしはテフラよ。また忘れちゃったの?」
「いや、忘れるわけないだろう? ただ、信じられないだけさ。戦士ギルドにとか覚えているかい?」
「オレインさんに変な絵描かれた」
「俺のことはどれだけ知っている?」
「魔術師ギルドのアークメイジでしょう?」
――これは本物だ。
何がどうなっているのかわからないが、とにかくここに居るのは本物の緑娘だ。
そうとわかれば、一旦引き返して仕切り直しだ。
それに緑娘の夢も叶ったのだからな。
こいつの思惑通り、俺はシロディールの皇帝となるのだから。
「マシウ、帰るぞ」
「帰りましょう、母さんも」
どうやら緑娘と一緒に居た女性は、やはりマシウの母親だったようだ。
彼女がルシエンによって殺されたのは、マシウが幼い時だったと聞く。
最初マシウのことがわからなかったのは、殺された時から10年近く経過しているからなのだ。
だが大人になっても面影は残っているもの。そして母親なら、息子が成長した姿だと気づくのはすぐだったと言うことだ。
俺たちは、パスウォールの村を後にして、一旦シロディールに戻って態勢を整え直すことにした。
緑娘が生きているのとそうでないのとでは、後の対応も変わってくるというものだ。
それに、こんな変な世界に長く置いておくのも気の毒だというものだ。
しばらく歩いて戻り、最初にくぐった奇妙な扉のある場所へと戻ってきた。
「さあ、この扉をくぐって帰ろう」
「どこに扉があるのかしら?」
「え? ここに白く輝いているじゃないか」
「そんなもの無いわ」
緑娘は何を言っているのだろうか?
俺は緑娘を招き寄せる。
そして奇妙な扉へと押し込んだ。
……?(。-`ω´-)
「えっと、マシウは扉が見えているだろう?」
「うん、早く帰ろうよ」
「マシウのお母様、ここに扉はありますか?」
「何のことでしょうか?」
……?(。-`ω´-)
「おいちょっとハスキル出てこいや!!」
何が何だかわからなくなった俺は、俺たちをこの世界にいざないた者を呼びつけていた。
呼んだからと言って現れるとは限らないが、どうなっているのか説明してもらいたいものだ。
「あまりそう簡単に呼びつけられても困るのですがね」
「出たな、シェオゴラスの執事」
俺が呼びつけることで、シェオゴラスの執事と名乗ったハスキルは、どこからともなく現れた。
そこで俺は尋ねた、なんで緑娘には奇妙な扉が見えないのか。そしてくぐることができないのか。
「それはその者たちは、死んだ後にシェオゴラス様によってこの地で魂の再生を受けたものだからです」
「どういう意味だよ」
「ムンダスで死んだ者は、たまにデイドラの王の気まぐれでオブリビオンの世界で転生することがあります。ただし、既に肉体は滅んだ者。ムンダスには戻れません」
「なんかどこかであったような話だな。それではこの二人はどうなるのだ?」
「この世界で生きていくことになるでしょう」
そういうことか……
話がうまくできすぎていると思ったんだ。
緑娘は死んだ。確かに死んだ。
こうして一緒に居られる方がおかしいのだ。
ただ、俺はまだ狂っていないということが分かっただけでもありがたい。
「それでは私は失礼しますよ」
「待てよ! どうやったら連れて帰られるのだよ?!」
「その方法は、無い」
ハスキルは無情にもそう告げると、現れた時と同じように姿を消していた。
………
……
…
「どうなっているの?」
「君は、戻れない……」
「そうなのね……」
緑娘は、悲しそうにうつむく。
俺も悲しくてやりきれない。
胸にしみる空の輝きを遠く眺め、思わず涙がこぼれそうになる。
しかしこれは残念な事なのか?
ふとそのように思う自分が居た。
緑娘は死んだ。確かに死んだ。
しかし、少なくともこの世界では一緒に居られるのだ。
そう、この世界なら――
「そんな悲しい顔しなくてもいいさ。俺もこの世界で生きていくよ」
「そ、そうなの?」
「ああ。君の居ないシロディールと、君の居る戦慄の島。どちらで生きていくかを問われた時、俺の答えは一つだけだ」
そうだ。
シロディールを捨ててこの世界で生きることにしたら、再び緑娘と一緒に居られるのだ。
何を迷う必要があるのだ?
皇帝としての治世? アークメイジとしての名声? シロディールの勇者?
そんなちっぽけなもの、緑娘との生活には変えられないね。
「なぁテフラ、少しの間待っていてくれないか?」
「どこかに行くの?」
「けじめだけはつけておかないとね」
シロディールの帝国のこと――
魔術師ギルドのこと――
戦士ギルドのこと――
皆は俺を待っている。
だが俺は、彼らとの世界は望まない。
それでも、何も言わずに失踪するのでは、あまりにも後味が悪すぎる。
オカトー大議長は、俺を皇帝に据えて帝国の未来を考えている。
リリィさんは、アークメイジとしての俺を必要としている。
そしてオレインさんには、未だに緑娘の死を知らせていない。
盗賊ギルドは――知らん! グレイ・フォックスは伝説になったのだ!
グレイカウルなら、たぶんまだ帝都の牢屋の中でぺちゃんこになったままだよ。
それはそうと――
帝国に、それぞれのギルドに、俺の居ない未来を受け止めてもらう必要がある。
そのために、一度俺はシロデイールに帰る必要がある。
また別の、残された仕事を遂行するために。
「マシウはどうするか?」
「僕はここに残る! もう母さんと別れたくない!」
「それも良いだろう。俺はちょっとシロディールに最後の別れを告げてくる。それまで待っていてくれ」
「わかりました」
「あ、ラムリーザ――」
奇妙な扉をくぐろうとした俺を、緑娘は呼び止める。
「何だい?」
「あの、あっちの世界にまだあたしの服とか残っているよね?」
「うん、あの時のままだよ」
「全部取ってきて。服に靴に、あとリボンも」
「靴じゃなくて武器だろ?」
「細かい所気にしなくていいから!」
「わかった、取ってきてやるよ。マシウも何か入り用なら、今のうちに言っておけよ」
「それじゃあ、僕が来ていた服と、母さんのために普通の服を頼もうかな」
そう言えば、緑娘もマシウの母も、奇妙な扉から出てきたダンマーみたいな恰好しているんだな。
緑娘も、髪を下ろしているから最初は誰だかわからんかったような気がする。
この世界では一般的な格好なのかもしれないが、まだシロディールの文化について記憶が残っている俺とマシウには、異質な物として映っても仕方がない。
つまり、緑娘はまたあの「煽情的」な格好をするわけだ……(。-`ω´-)
まあいいけどね、目の保養にもなるし(謎)
それにまた一緒に戦うとしたら、武器も必要になるわけだ。
アークメイジの私室に安置している遺体から衣服を剥ぎ取って、服屋で新しい服を買ったり。
マシウの服も、確か俺が預かっていたはずだ。
「それじゃあ、ちょっくら行ってくる!」
俺は、奇妙な扉へ飛び込んだ!
緑娘の存在する世界から、緑娘の存在しない世界へと移動するために――
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