アンヴィル教会への襲撃 ~ウマリルの復讐劇~
ジ=スカール先輩とニラーシャが、スタークの金鉱管理人メンバーとして出向くこととなった。
そこでアンヴィルまで見送りに来たわけだが、なにやらここでは現在アンヴィル教会への襲撃の噂話で持ちきりだった。
リリィさんに言われたとおり、俺はちょっと首を突っ込んでみることにしたわけだが――
「あー」
「酷い有様ですね」
「闇の一党を始末したら平和が訪れると思ったが、世の中そんなに甘くなかったようだな」
教会の中はいろいろと破壊されていて、聖職者たちの惨殺死体が転がっていた。
滅ぼしても滅ぼしても次から次へと悪が沸いてくる修羅の国シロディール。
俺は、闇の一党を滅ぼしたら、この国を立ち去って、緑娘を弔いながら世捨て人として生きていこうかなと考えていた。
しかしこの国は、まだ俺を必要としているのだろうか?
それとも俺を引き止めるために、何者かが仕組んだことなのか?
俺は、アンヴィル教会の調査に乗り出した――
「ひでーな、晒し者にしているぞ」
「これは、殺し自体を目的にしているものではありませんね。意図的に何者かが存在を見せ付けています」
「深遠の暁教団、闇の一党に続く第三勢力……。一体何者?」
その時俺は、祭壇の周囲に血で描かれた文字のような物を発見した。
なんだろうか?
文字のようにも記号のようにも見える。
まるで儀式のようにも見えるようだ。祭壇の上の遺体は、犠牲者と言うよりも生贄に見えなくも無い。
「これは……、明らかに何者かが残したメッセージだな」
「うん、闇の一党は証拠は残さない」
「ふっふっふっ、飽きさせないねぇ、この国は」
別に誰に頼まれたからというわけではない。
ただ、今の俺は何もやることがなくなると、緑娘との思い出しか頭に浮かばなくなる。
それはそれで悪いことではないのだが、ふと生きる意味を見失う時が現れたりするのだ。
例えば緑娘の後追いをするとか――
そんな自己破壊的な考えを持つよりは、何か有意義な目的を持って動くほうがよいというのは百も承知だ。
恐らくリリィさんは、そんな俺の心情まで読み取って、この事件の噂話を提供してくれたのだろう。
ならば、その期待に答えなくてはな!
それが罪滅ぼしの一つになるかもしれない!
「おいマシュー、この事件を捜査するぞ」
「はいっ、ラムさん!」
俺はマシウを率いて、アンヴィル教会から飛び出した。
ちなみにマシューとマシウは同じ奴な。表記の上ではマシウなのだが、呼びにくいのでマシューと呼んでいるだけだ。
アンヴィルの教会から出ると、目の前の――なんだろう?
広場というか舞台というか、なんだかよくわからん演説場所のようなところで、一人の爺さんがギャーギャー演説していた。
「タロスが昇華し八大神が九大伸になる前、タロスは我々と共に歩まれた、偉大なタロス、神としてではなく、人間として! 無敵のタロス! 的確なタロス! 難攻不落のタロス! あなたを称賛する!」
――というタロス賞賛な内容ではない。
「何を騒いでいるのですか、お爺さん」
「私は卑しき予言者に過ぎませんですぞ。何のお役に立てましょう?」
「それじゃあ、アンヴィルの教会を襲撃した奴は何者か予言してもらいましょうかね」
「任せておけ。くろまによ~ん くろまによ~ん、ねあ~んで~るた~る、そしてあんたはなや~んで~るた~る!」
「オマエモカ!」
予言者として名乗った地点で思い出すのだった。
この国の予言者と言えばあの人じゃないか。そう、ダケイルさんという魔術師ギルドレヤウィンの支部長!
「出たぞ! これは始まりに過ぎぬ! ペリナル・ホワイトストレークが死の間際に予言したように、ウマリルが再来したのだ!」
「犯人はウマリルとか言う奴ですか? どんな奴ですか?」
「羽根を失いしウマリル……、人類が台頭する春か昔、大陸全土を支配していたアイレイドの魔術王ですぞ! ペリナルにより打倒されたが、ウマリルの魂は滅ぶことなく、神々に復讐すべく蘇ったのだ!
「古代の魔法王の類か……」
どこにでも居るよな、復讐する奴。
俺は自分の行動を否定したくないので、復讐は否定しない。
だが、無関係な物まで復讐の対象に挙げるべきではない。
ペリナルというものに打倒されたのを恨むなら、ペリナルやその一族に対して復讐すべきだ。
アンヴィルの聖職者は関係ないはずだ!
――などと、復讐のための礎としてドラコニス一家を惨殺した俺が言ってみるテスト(。-`ω´-)
「復讐はしゃーない。で、誰が教会を襲撃したのですか? ――ってか最初にそれ聞いたよね。ウマリルが犯人?」
「あの血文字が語っているのに、何も知らぬのか?」
「いや、怪しいと思ったけど、意味不明な文字だから」
「あれはアイレイド語だ。意味は『ウマリルの永遠の力により定命の者の神は打ち倒されるであろう』となっておる。ウマリルの宿敵に対する冒涜、そして挑戦なのじゃ」
「んじゃやっぱりウマリルなんじゃないですかー。予言者はどうしてこう回りくどい言い方をしますか?」
「聖騎士の遺物を手に入れるのじゃ!」
「は?」
「神の力、聖騎士の遺物無しにはウマリルは止められん!」
「話をそらしたな、このじじい!」
まあいいや。
じじいの予言に俺の考察も交えて要約すると、教会はウマリル自身、もしくはウマリルを崇める者が襲撃してきた。
しかしウマリルの力は強大だから、聖騎士にしか打倒は果たしえぬ。
そこで聖騎士の遺物を手に入れなければならない。遺物、すなわち聖騎士の装備だ。
だが、聖騎士の装備を纏うに値する勇者が、どこに居るのか? という話になっているのだ。
「わかったよ、聖騎士の遺物探しをするよ。勇者の存在はそれから考えよう」
勇者の存在――
俺はかつて友と呼び合った男のことが脳裏に浮かんだ。
彼は勇者だった、そして真の皇帝陛下だった……
「ほう! 汝はペリナル・ホワイトストレークの聖なる鎧を探す旅に出るおつもりか? 勇敢なる戦士達が、幾世紀にわたって捜し求めてきた伝説の遺物を!」
「前人未到の地の探索なら任せてください。マシューお前もこの旅に参加するよな?」
「うん、もうしばらくはラムさんの手伝いをさせてほしいな。いつまでも頼っていられないのはわかるけど、もう少し……。辛い記憶を過去に追いやれるまで」
「俺もそのつもりだ。よし、予言者の爺さん、その遺物はどこにあるのかな? ついでに予言してください」
しかし予言者は、占う代わりに意外なことを尋ねてきた。
「汝は相応しき騎士か?」
「は?」
「聖騎士の装備は、真の騎士しか身に着けられぬ。もう一度問うぞ、汝は相応しき騎士か?」
「俺はアークメイジですが、何か?」
俺は堂々と答えてやった。
他にもシロディールの英雄、グランド・チャンピオンといろいろと肩書きはあるが、俺の本職はアークメイジなのだ。
それだけは、誰にも否定はさせない。
「するとあんたがハンニバル・トラーベンの後継者であることは間違いないのですな。あんたの魔法の技術は、たちどころに失われし遺物を見つけるでしょう。というよりもあんた――!」
「なんぞ?」
「あんたがグレイ・プリンスと戦うのを見たよ。オークが――」
「見んでええ!」
ここにも居たか、熱狂的ファンが……
どうせ俺とグレイ・プリンスの戦いを予言したから知っているだけだろ?
それだと八百長まで普通はバレないですかねぇ?
「しかし我々のような者が、真の騎士と言えるのだろうか?」
唐突に、マシウは暗い顔をしてつぶやく。
――そうか、俺達は復讐の為に表面的だけとは言え、闇の一党として動いていたことがある。無益な殺しもやった。
そういえば俺は、グレイ・フォックスの後継者でもあったな……、奴は伝説になったけど。
「そのことは、神々に判断してもらおう。わしには人の心は読めんからな。わしは、言葉と行いのみを見るゆえに」
そうか、心が読めないのなら、グレイ・プリンス戦の八百長は見抜けぬか。
ボルケーノ、ど派手な火山の魔法に目を奪われた表面的な部分しかわからぬのであろう。
ならば闇の一党とか気にしなくても――って、神々の判断か……
メファーラやシェオゴラスなら、今の俺達を認めてくれるだろうけど、な。
「まあいいや、遺物を探し出すにはどうすればよいのでしょうか?」
「神々に認められた者は、悟りを与えられる。その理由と方法は、神のみぞ知る!」
「役に立たない予言者だなぁ……」
「わしに教えられることは、遺物探求を臨む騎士たちは、伝統的に巡礼者の道を歩んできた、ということじゃ」
「巡礼者の道――?!」
新しい旅が、幕を開けようとしていた――
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