名誉が問われる日 ~凄腕商人を始末せよ~
レッドマン砦にて――
次の報酬と指令書は、レヤウィンから少し北へ行った場所、ノクターナルの祭殿がある辺りの川岸に建っているレッドマン砦にあると言う。
近くに見覚えがあるキャンプがあると思ったが、そこは以前マゾーガ卿と野盗退治で訪れた漁師の野営地だった。
そして報酬と指令書は、その砦の入口付近にある棺のような箱に入っていた。
第五の指令書は、やたらと文章が長いので要点だけを述べるが、今回の標的はアルヴァル・ウヴァーニというダーク・エルフの商人。
今はレヤウィンに家を借りているが、元々はモローウィンドに住んでいて尊敬を集めていた商人だったらしい。
しかし、商売に熱心すぎて家を空けることが多かった。今現在レヤウィンに家を借りているのもそれに拍車をかけている。
そこで困ったのが、アルヴァルの奥さん。夫の不在に対して幻滅したため、結婚を解消したいと思うようになったのだ。
そのために、闇の一党に力添えを求めてきたということだ。
…………?
離婚じゃダメなのか?
モローウィンドという国では、一度結婚してしまえば、お互いを死が分かつまで別れられないというのか?
いや、とりあえず誓約として「お互いがお互いを必要とし、死が二人を分かつまで、共にあることを願う」という宣言はあるけど、モローウィンドでは絶対にそれを破ってはいけないということなのだろうか?
文字通り、死が二人を分かつまで……、これがダーク・エルフの風習なのか?
なんか怖いな……
まあいいか、深く考えないようにしよう。
とにかく、奥さんの結婚を解消したいという要望を叶えるため、夫のアルヴァルを始末せよということだ。
夫が殺されることで、晴れて別れる事ができるというものだ。
いろいろ思うところはあるが、もう一度述べる。深く考えないようにしよう。
改めて任務に取りかかるとする。
問題は、アルヴァルが世界を股に掛ける凄腕商人というところだ。
彼は特定の場所に留まって商売をしているのではなく、シロディール中を行商して回っていると言う。
そこで役に立つのが、指令書と一緒に入っていた「アルヴァル・ウヴァーニの予定表」といった書類だ。
それによると、モーンダスとティルダスには、ブラヴィルにある独り身求婚者旅館。ミッダスとトゥルダスにはスキングラードにある西ウィールド亭。フレダスとロアダスには、ブルーマにあるオラヴのタップ&ダック。そしてサンダスに、レヤウィンにある借家ということらしい。
うん、ちんぷんかんぷんである。
確か以前の話で、サンダスとかモーンダスが曜日だということはわかっている。サンダスが日曜日で、モーンダスは月曜日といった具合に、な。
しかし、今日が何曜日かはさっぱりわからん。
この国にはカレンダーという物は無いし、曜日ごとに行動を変えない者もたくさん居る。
仕方が無いので、予定表に書かれている場所を一つずつ回っていくことにした。
そうすれば、いずれどこかでぶつかるだろうということで。
………
……
…
まずは、スキングラードにある西ウィールド亭へと向かってみた。
見た感じでは、客は誰も居なさそうだが、どうだろうか。
「アルヴァル・ウヴァーニはここに泊まっているか?」
「いえ、今は泊まっていません。数日前にここを発ちました」
「そうか……」
ここは外れだったようだ。
今日は何曜日ですか? と聞けば済むことだが、なんだかそれだとずっと篭っていた奴と思われてしまうので言いたくない。
カマかけてサンダスか? と聞いてみようと思ったがやめた。
いずれどこかでぶつかるはずなのだから。
………
……
…
次に訪れたのは、ブルーマにあるオラヴのタップ&ダックだ。
この国に初めて来た時、しばらくブルーマに滞在していた事があった。
その時は、ここに食事によく訪れていたっけな。ただし、今は遠い昔の話だ。
「アルヴァル・ウヴァーニはここに泊まっているか?」
「いや、先日ここを発ったぞ」
「そうか……」
ここも外れである。
このまま南下して、ブラヴィル、レヤウィンと移動しよう。
ひょっとしたら街道で出会うかもしれない。
その方が仕事はやりやすいかな?
………
……
…
というわけで、今度はブラヴィルにある独り身求婚者旅館。
ぬっ、ス=クリーヴァが居る。
俺はもうグレイ・フォックスではないのだ、盗賊ギルドなど知らんぞ。
そういうわけで、満面の笑みで対応している宿の主人に問うてみた。
「オークの旦那、アルヴァル・ウヴァーニはここに泊まっているか?」
「んや、少し前にここを発ったぞ」
「そうか……」
ということは、今日はサンダス。
アルヴァルは、レヤウィンの借家で休んでいるということだ。
「ちなみに今日はサンダスだったよな?」
「そうですが、それが何か?」
「いや、なんでもない……」
間違いない。
俺は急いでレヤウィンへと向かった。
………
……
…
レヤウィンにある、アルヴァルの借家がここだ。
「こんにちは、黒馬新聞の配達です」
とりあえず、そう言ってから家の中へと入り込んだ。
これで俺の行動を見ていた奴も、新聞配達人がアルヴァルの家に届けに来たという風に捕らえるであろう。
借家にしては良い場所に住んでいる。
俺がレヤウィンで買った家は、結構ぼろっちい家だった。
帝都もそうだが、なんで俺にはそういった家しか売ってくれないのだろうか。
逆にスキングラードは結構な屋敷だけどね。
一階には誰も居なかったので、二階へと向かう。
すると、アルヴァルは昼寝中だった。
これは仕事がやりやすくで楽だ。
気づかれないように、こっそりと接近する。
今日はサンダスと言うが、13日のフレダスではないだろうか?
いや、なんとなくそう思っただけ。
とにかくこれで、アルヴァル・ウヴァーニはデリートされたのであった。
この時、俺は寝室の壁に掛けられている絵画がどうも気になった。
何かを隠しているような、そんな気がしたのだ。
予感は当たり、絵画は裏に金庫を隠していた。
そして中には、ブラックハンドのローブ一式と、闇の一党五教義。
んんん?
なんでこいつも闇の一党のローブや五教義を持っているのだ?
ひょっとしてこいつも闇の一党を何度か返り討ちにしてきたのだろうか?
いや、それはどうだろうか?
ジ=ガスタは確かに格闘技の達人だったが、こいつはただの商人のはずだ。
闇の一党を返り討ちにするような戦闘力は持ち合わせていないと思うのだが?
んんん?
こうしてアルヴァル・ウヴァーニは始末されたのだが、俺の中に妙な違和感のようなものが芽生え始めていた。
こいつ、ひょっとして闇の一党の仲間なのか?
そして今現在、仲間割れでも引き起こしているのだろうか?
そういえば、シェイディンハルの聖域を壊滅させた理由は、ルシエンから裏切者が居るようだという判断を受けたからだ。
つまり、聖域には裏切り者は居なかったが、こうして裏切者は存在していて――
いや、俺に指令を出しているのルシエンだ。
ということは、こいつがルシエンの言っていた裏切者なのだろうか?
そして何らかの方法で裏切者が判明したので、その始末を俺に任せたと。
もしそうならば、始末する前に話を聞いてみてもよかったかもしれない。
しかし――
何だか気味が悪いな……
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