最期の正義 ~水中戦の達人を始末せよ~
帝都から南に離れた対岸にある古橋にて――
四番目の指令書を求めて、何度も渡ったことのある橋へと赴いていた。
この橋を見ると思い出される。羊を率いて元気良く闊歩する彼女のことを……
指令書と報酬は、その橋の下にある朽ちた箱に隠されていた。
町の中に隠されるよりは、こんなへんぴな場所に隠してもらった方がやりやすい。
こそこそする必要なく、堂々――橋の下を漁るのも変な話だな……
まぁ人に見られて「なんばしょっとね?」とか問われたとしても、ニルンルートを採集しているのですとごまかせばよい。
さて、第四の指令の内容はこれ。
標的は、シャリーズというアルゴニアンのハンター。
こいつは外の国でダークエルフの一家を残忍に殺害したので、その報復を闇の一党に依頼してきたわけだ。
ここでふと思った。
帝国のアークメイジとして、緑娘殺害の報復として闇の一党を標的に依頼したらどうなるのだろうか?
これも引き受けるなら、職人としての闇の一党は評価できる部分がある。逆に否定されたら、闇の一党は自分さえ良ければいい集団と化すのだ。
どっちみち、潰す必要のある集団には変わりないけどな……
さてこのアルゴニアン、極めて危険で熟練したハンターらしい。
ちょっと抽象的だな。
ジ=ガスタは格闘技の達人とわかりやすかったが、熟練したハンターとは何か?
ハンターと言えば狩人。街道から少し離れた場所で鹿を追いかけて「ふぉーじえんぺらー」などと叫びながら狂ったように矢を射って、見方同士誤爆してその結果殺し合いになるといった奴の事だろうか?
それなら確かに、「極めて危険」な奴だと納得できるが……
標的シャリーズが居るのは、ブラヴィルから少し北に行った岸近くにある浸水鉱山、別名水浸しの採掘坑。
一応鉱山らしいので、何か鉱石が取れるということだろう。
水浸し、水に近いもの――、アクアマリンかな?
――などと考えていたが、ただ単純に、文字通り浸水しただけの鉱山だったようだ。
この分だと、鉱山としてはすでに放棄しているのだろうな。
そして、水中での活動を得意とするアルゴニアンにとっては、絶好の隠れ家となるわけだ。
基本的に泳いでいくしかない。
しかし俺は、タスラの事件を解決したときに、深海のかがり火という明かりと水中呼吸の魔力が込められている指輪を貰っている。
この指輪を使えばたとえ水中、海底でも明るく、そして息継ぎの必要がなくなるのだ。
その代わりこの様子だと、隠密行動は不可能だね。シャリーズには見つかること前提で、奥へ進んでいくことにしよう。
突然水の底から俺に斬りかかってくる者が現れた!
アルゴニアン、シャリーズだ!
まずい、水の中だと魔法は使えない。
それに水中で戦うことは慣れていない。
魚退治ぐらいならできるが、極めて危険で熟練したハンター相手に水中戦はかなりこちらの分が悪い。
とりあえずここは――
――逃げることにした。
後ろから尻を何度か斬りつけられたが、そんなこと気にしている場合ではない。
陸に上がったらたっぷりと仕返しをしてやろう。
幸いすぐに洞窟内にある陸地へ辿りつけたので、上陸すると一気に駆け抜けてシャリーズと距離を取る。
「シシスの名にかけて、我の住処に侵入してきた者は始末する」
「悪いな、こちらもお前を始末するよう依頼されたんでな」
こうして、アルゴニアンのハンターシャリーズと、暗殺者レイジィの戦いが改めて始まった。
しかしこうなったら戦いの場所的には互角だ。
それに、こそこそした戦いよりも、派手に魔法をぶっ放す方が得意だったりする。
こんな洞窟の中だと、誰にも遠慮することなく全力で戦えるというものだ。
そして、互角の戦いに遅れを取るような俺ではない。
得意の霊峰の指改で先制攻撃。水中で既にシャリーズから先制攻撃食らっているだろ、といった突っ込みは却下だ。
俺はアルゴニアンでもエラ人間でもないので、戦いは常に地面の上と決めているのだ。それ以外の戦闘は、戦いとはみなさない。
いかにも即席の俺ルールっぽいが、それはジ=スカール先輩の受け売りだから文句を言うな。
むろんシャリーズは、マニマルコやデイゴンと戦ってきた俺に敵うはずもなく、激しい戦闘の末デリートされたのであった。
ドラコニス一家の始末は気が引けたが、ここのところ相手もそれなりに悪い奴になっているので任務がやりやすくなっている。
前回のジ=ガスタは野蛮なカジートだし、今回のシャリーズも危険なハンターだ。
こういった相手ばかりだと気分的に楽なのだけどね。
しかしまだか? まだ登り詰められないのか?
それとも一度闇の一党に入ってしまえば、永久に暗殺者として命じられるがままに殺しを続けなければならないのだろうか?
また、リリィさんなど見知った要人の暗殺を依頼されたりしたらどうしようか。
その時は、不本意ながらルシエンだけを退治して終わりにするか、それともリリィさんも手にかけるか……
この闇の回廊は、いつ終焉を迎えてくれるのだろうか……
前の話へ/目次に戻る/次の話へ