ある魔導師の営み ~決意の砂~
「次の契約は、ここから南東にある英雄の丘に隠された指令書で明らかになるだろう」
闇の一党の聖域での活動は終わり、俺はブラックハンドの一員として働くこととなった。
しかし今後はルシエンから直接契約されることはなく、今後はシロディール中の至る場所に散らばった指令書で承る流れとなっている。
そこで俺は、英雄の丘と呼ばれる場所へと向かった。
英雄の丘、確か以前訪れたことのある場所だ。
魔術師ギルドで大学の仕事を請け負ったときに、ヴァータセンに赴いた後に北へ向かった時に行った記憶がある。
あの時は何が所以で英雄の丘と名付けられていたのかわからなかったが、今もわからずじまい。
ブラックハンドの伝達手段として造られた物なのであろうか?
サイレンサー宛の指令書では、リーフロット洞穴に向かってリッチになろうとしている古代の死霊術師を始末せよというものだった。
死霊術師が標的ということは、魔術師ギルドの誰かが闇の一党に依頼したということになるのか?
馬鹿な奴も居たものだな、直接アークメイジの俺に頼むか、魔術師ギルドで問題にしてくれればよかったのに。
それならラミナスさん辺りが、「アークメイジよ困った事があります」と俺に丸投げでもして来ただろうに……
ただ、魔術師ギルドの誰かがこうした依頼をするのも、この世界に闇の一党というものが存在するからなのだ。
この仕組みを破壊する為に、もっと組織の内側を探るべく、俺はルシエンの任務をこなす。
死霊術師が潜んでいるというリーフロット洞穴は、地図で言えばカヌルス湖の町から少し南に行った場所にある、辺境の洞穴だ。
こういったところにも死霊術師は隠れ住んでいるわけなのだな。
相手が死霊術師だとすれば、今回の任務は気が向かないということにはならないだろう。
洞穴の中は、入ってすぐの場所がちょっとした居住区となっていた。
そしてそのテーブルに、死霊術師のセレデインが書いたと思われる記録が残っていた。
ルシエンからの指令書にもあったとおり、まずは記録を探して弱点を探すこととしたのだ。
もっとも死霊術師程度など俺の敵ではないので、普通に正面決戦をしても問題ないのだが、たまには弱点を攻めるというのも面白いだろう。
記録には、ファルカーのことが書かれていたり、実験の事が書かれていたりした。
そして何よりも斬新だったのは、死霊術師の最終目的が不死の物であるリッチと化すことが目的であると書かれていたことだ。
これが本当の事なら、これまでに始末してきたリッチは、死霊術師の成れの果てということになるのだろうか……
そして最後の方のページには、リッチになるための具体的な方法が書いてあったりした。
ただし、そのリッチ化には時間がかかるようで、その間は「決意の砂」という魔法の砂時計を肌身離さず持っていなければならないというのだ。
つまり、セレデインからその決意の砂というものを奪ってやれば、戦うことなくリッチは滅びるというものであった。
これが、ルシエンの指令書に書かれていた、リッチの弱点というものだった。
ただし、完全にリッチ化してしまえば、その決意の砂は不要となるらしい。だからそうなる前に、奪うのだ。
そして洞穴の奥で、死霊術師を発見した。
セレデインはまだリッチ化しているわけではなく、見た目は人間のままだ。
奴に上手く接近して、砂時計のようなものを奪ってやればよいのだな。
これだとどろぼうさんだね。
元グレイ・フォックスの俺にとって、それほど難しい仕事ではない。
こっそりと懐を探ると、確かに砂時計の形状をしたものがある。
この砂時計の中に、普通の砂ではなく決意の砂という物を隠しているのだろう。
そして俺は、セレデインから決意の砂を奪い取ってやった。
それだけで、セレデインは動かなくなってしまった。これは暗殺と泥棒の複合系だね。
今後は死霊術師を見かけたら、決意の砂を持っているかどうか確認することとしよう。
死霊術師の殲滅は、先代アークメイジであるハンニバルの悲願ださたわけで、俺はその意思を引き継いでいるわけだ。この仕事に関しては、魔術師ギルドの仕事でもあるのだ。
ただし、この仕事を闇の一党に依頼した奴は許せないな。誰だろうか……?
死霊術師同士の内ゲバかな?
とりあえずまあ相手は死霊術師ということで、洞穴の奥に骨塚があったりするわけだ。
まるで飾りのようにしていることからも、死霊術師だという事がよくわかる。
奴らは遺体を弄ぶが如く振舞うからな……
別に俺は死霊術を否定しているわけではない。
ただこのような悪趣味を受け入れる事ができず、先代の悲願を引き継いでいるというのが本音であった。
以上、ブラックハンドのサイレンサーとしての最初の任務は終わった。
一見魔術師ギルドの任務のような内容、俺にとってやりやすい仕事であったな。
死霊術師退治なら、山賊狩りや海賊狩りと同じなので、悩むことなく遂行できるというものだ。
そしてルシエンからの指令書にあったように、次の指令書が隠されているというコロールへと向かうのであった――
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