孤独な放浪者 ~スクゥーマ中毒者の始末~
「あなたをヴァンパイアに変身させてあげましょうか?」
「要らん」
闇の一党で任務をこなしていくと、ヴィセンテから自分から与える契約はないと言われた。
これからは、オチーヴァから契約をもらうこととなったのだ。
そしてヴィセンテ組卒業の報酬として、ヴァンパイアに変身させてもらえるということになったのだが、それは断わった。
ラムリーザをやめてレイジィとして働いているが、人間までやめるつもりはない。
緑娘の居ない世界で永遠に生きてどうするのだ? 緑娘と一緒なら永遠も悪くないが……
「ずっと待ってましたよ、これからは全ての任務を私から直接受けることとなるでしょう」
オチーヴァを探したところ、訓練場で訓練中だった。
俺みたいに魔剣を使用するのは邪道なのだろうな、本来なら剣を使って人をやつけるためには、それなりに訓練をつまなければならないのだ。
「帝都に、存在を消されるべきハイエルフが住んでいるの。このターゲットを見つけるのはかなり困難かもしれないけど、いかがかしら?」
帝都か、ハイエルフか、誰かいたかな?
亜人以外は、グラアシア人を除いて見分けが付きにくいのが難点だ。
ハイエルフと言えば、のっぽな奴だったっけ。
今回の標的は、フェイリアンという男。
帝都に住んでいるという以外、何も情報がない相手だ。
殺すだけが目的なら、帝都に行って片っ端から「お前がフェイリアンか?」と尋ねて、そうだと答えたらその場で斬ってやればよい。
しかし、オチーヴァはアダマス・フィリダという者に口実を与えないために、目撃者の居ない場所で始末しなさいと言ってきた。
俺も白昼堂々と殺しなどやる気はない。別にやってもいいけどね。ただ闇の一党の全貌を知るまで、目立った行動はやりたくない。
アダマス・フィリダとは、帝国軍の隊長の一人で、闇の一党撲滅に一生を捧げていると言う。
そのため、帝都で暗殺を行ってみせるのはマズいというのだ。
つまり、この隊長は味方だ。彼に協力して、闇の一党撲滅のために協力を――
――やらないよ。
盗賊ギルド撲滅に向けて、レックス隊長に協力しようとしてどうなったか。
他人の力など借りられない、俺一人でやるのだ。やらねばならないのだ、緑娘のためにも。
緑娘はこんなこと望んでないだって? それは聞いてみなければわからないだろう?
俺が復讐したいのだよ……
………
……
…
というわけで、俺は再び帝都へと戻ってきた。
港湾地区でリリィさんと待ち合わせをして、情報集めと近況報告をしておく。
「アークメイジよ、闇の一党の任務はどう?」
「今の所順調じゃないかな。リリィさんの作ってくれた魔剣のおかげで楽できますよ」
「それで今度は帝都で仕事?」
「そうです。リリィさんは、フェイリアンという男を知っていますか? もしくは帝都に住むハイエルフを」
「フェイリアン――知りませんね。ただ帝都のエルフ族は、エルフによる一つの共同体を作っていると聞きます。オカトー大議長にでも聞いてみたらいかがかしら?」
「オカトー大議長ですか……」
大議長には、闇の一党の姿で会うわけにはいかないな。
一旦普段着に戻るとしようか。
「それとリリィさん、俺に代わってアークメイジになってもいいですよ」
「何を言うのですか。私達にとって、アークメイジはあなただけです」
「そうか……」
俺はリリィさんと別れて、オカトー大議長にエルフの共同体について尋ねることにした。
海賊船マリー・エレーナ号の前を通ってみる。
船の周りはなにやら騒然としていた。どうやら船長殺しの犯人を探し出そうとやっきになっているようだ。
俺は知らんよ、たぶんレイジィって奴がやったんじゃないかね?
オカトー大議長は、神殿地区にある最高神の神殿に居ると聞いた。
神殿からは巨大な竜、アカトシュの姿が確認できる。
マーティンよ、君の望んだ国はどんな国なのだい?
君が生きていたら、俺はもっと別の人生を歩めたのかな?
「オカトー大議長!」
「おお、英雄殿ではないか! 今日はいったい何の用で?」
「ちょっとマーティンに会いたくなってね……」
「そうか……」
少しの間、二人の間はしんみりとしたものとなってしまう。
オカトー大議長は、公務の合間にこの神殿に来ては、アカトシュと化したマーティンに祈りを捧げにやってくるのだとさ。
「ところで大議長は、フェイリアンという者を知っていますか?」
「フェイリアン? もちろん知っているよ。タイバー・セプティム・ホテルに住んでいるはずだ。しかし英雄殿がなぜ奴に? かなり嫌な奴だぞ」
「嫌なことをするのはやめろと注意でもしにいこうかなと」
「それは助かりますな」
標的の居場所はわかったので、オカトー大議長にさよならをして別れる。
しかし、ここなのだよな――
この場所で緑娘は……
闇の一党は帝都では殺しはしたくないと言っていたが、緑娘があまりにも強敵過ぎたので、なりふり構ってられなくなったのだろう。
待っててくれよ緑娘、絶対に仇討ちしてやるからな。
というわけで、タイバー・セプティム・ホテルである。
そのうち、マーティン・セプティム・ホテルというのも建築されるのだろうか?
それにしても、まだグレイ・フォックスの手配書を貼ったままなのな。奴は伝説となり、二度と現れないのだけどね。
「こんにちは! フェイリアンはここに住んでいるのですね?」
「あらアークメイジじゃないですか、珍しいですね。ええ、彼ならここで愛人のアトレイナとともに住んでいます。哀れなアトレイナ、彼のどこに惹かれているのやら」
「そんなに嫌な奴なのですか?」
「フェイリアンも昔は財産を持っていたわ、それにかなりの身分でもあったの。でも彼がアレに魅入られる前の話」
「アレとは?」
「スクゥーマよ。今の彼は、外でスクゥーマをやっているか、それを求めて町を彷徨っているはずよ」
スクゥーマ、エルスウェア原産の麻薬のようなものとジ=スカール先輩から聞いたことがある。
それにエルスウェアには、スクゥーマを吸うための店とかもあったものだ。
俺は、受付嬢と別れて、フェイリアンの部屋へと向かってみた。
次に、アトレイナと会ってみた。
ファンタージェンを救う旅に出る少年みたいな名前だなとか思ったりするが、何の事やらさっぱりわからない。
「あらアークメイジじゃないですか、お会いできて嬉しいです」
「くるしゅうない、困っている事があったら言ってみろ」
「フェイリアンです、あなたなら信頼できます。フェイリアンをどうしたらいいのでしょう? 彼はスクゥーマのことしか頭にありません。今もスクゥーマを求めて町を歩き回っています」
「それで、スクゥーマをどうしましょうか?」
「彼は何時間かロルクミールの家に隠れている事があるの。きっとそこにスクゥーマを隠しているんだわ。あの恐ろしいスクゥーマに殺される前に、愛しのフェイリアンが改心するよう説得してください」
「わかった、話してみるよ」
ロルクミールの家ね、フェイリアンはそこにいるのだな。
俺は、アトレイナと別れてホテルを後にした。
そのロルクミールの家は、エルフ・ガーデン地区ですぐに見つかった。
さしずめここが帝都のスクゥーマ窟とでも言うのだろうか?
何も迷うことなく、この家へ突入してやった。
待ち構えていたのは、一人のハイエルフ。こいつがフェイリアンか。
「おっ、おい! ここで、何をしている? 君は僕の――、僕の友達じゃないぞ。な、何の用だ?」
「落ち着けフェイリアン、よい子は寝る時間だぞ」
「待てよ、僕のスクゥーマをどこに隠した? 君が独り占めにしようとしてた事は分かっているんだ、アークメイジ!」
「スクゥーマは無くなったよ。あんな薬、よくないからもうやめるんだ」
「嘘だ! スクゥーマはもっとあるはずだ、黙れ黙れ! 嘘をつくなアークメイジ! 君が隠したんだろう!」
スクゥーマ中毒の末期症状か、禁断症状かどうかわからないが、フェイリアンは突然俺に襲い掛かってきた。
あまり気にしていなかったが、スクゥーマって実はこんなにヤバい薬だったんだな。
「お前はいつもスクゥーマを盗もうとするからな!」
「そうか、わかった」
すまんな、あんたに恨みは無いが、緑娘はシロディールで殺された。
その連帯責任の一環として、犠牲になってもらう。
何か言いたい事があるのなら、俺も復讐が終われば死んでもよいと考えているので、その時に黄泉の国で聞いてやるよ。
一応スクゥーマを止めさせるよう説得もしてみたので、アトレイナに対する義理も通した。
フェイリアンはスクゥーマ中毒で俺に襲い掛かってきた、これは正当防衛なんだ。
一応証拠隠滅もしておく。
闇の一党の姿に戻って、ロルクミールの家付近をうろつくだけ。
これで後になってフェイリアンが殺害されたことに衛兵が気が付いても、そういえば怪しげな黒衣装の者がうろついていたな……、となるはずなのである。
最初から闇の一党の姿で侵入してもよかったのだけど、後で気が付いたのだから仕方が無い。
こうして、スクゥーマ中毒者フェイリアンは、人知れず葬り去られたのであった。
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