暗殺された男 ~暗殺の偽装~
「レイジィ殿、君の能力を頼りにしている、特別な契約があるのだが」
「俺じゃないとダメなのですか?」
「実のところ、この契約は他のメンバーには頼みたくないと思っているんだ」
「また脱退者の始末ですか?」
「脱退者の始末? またとは?」
「いや、何でもない。引き受けましょう、話を先へ」
闇の一党の聖域には、謎の旗が飾られている。
人の手のひらだけが描かれた旗、これが闇の一党のシンボルか?
俺がその旗を眺めていたところ、いつものようにヴィセンテが仕事を持ってきた。
脱退者の始末かと思ったが、ヴィセンテは先日のテイナーヴァからの依頼は知らないようだ。
テイナーヴァが個人的と言っていたのはアルゴニアンだけの問題で、気にしていたのはオチーヴァとテイナーヴァの二人だけだったのか。
今回の任務は、暗殺の偽装。
命を狙われている男の暗殺を、偽装するというものだ。
コロールの町に住むフランソワ・モティエールという者は、タチの悪い連中から多額の負債を抱えており、処刑人を送り込まれたのだ。
そこで処刑人が現れたとき、特殊な毒を塗ったナイフを使い、モティエールの死を偽装するのが今回の任務だ。
それがこのナイフ、弛緩ワインを塗布した短刀だ。
しかしモティエールとは何者だろうか? 闇の一党にとって死んでもらいたくない人とは、どういったものなのか?
ヴィセンテの言うように、異例の契約である。そしてひの契約を成立させる為に、モティエールは特別な取り決めを飲んだというのだ。
毒付きの短刀で切りつけると仮死状態となるので、後で解毒剤を使って復活させればよいというものだ。
「あなたのプロの技を信頼しておりますぞ」
「問題ない」
俺は、短刀と薬をヴィセンテから受け取ると、聖域を後にした。
………
……
…
そして俺は、コロールの町へと向かった。
モティエールの家の前でオレインとすれ違ったが、彼は俺だと言うことに気がつかなかった。
俺はラムリーザではない、暗殺者レイジィなのだからな。
しかしモティエールはとんでもない奴だった。
ヴィセンテの話では、モティエールはこの契約を結ぶとき、闇の一党に命を要求され、モティエールの実の母を差し出して契約を成立させたのだという。そして母は、ルシエンの手によって執行されたのだ。
狂ってやがるな……
自分の命を守るために、実の母を差し出すとは。
闇の一党が闇の一党なら、依頼主も依頼主だ。何もかも狂ってやがる。
緑娘の依頼をした奴も、恐ろしく高慢的な態度で、目上の人にも暴言を吐き、無能なくせに偉そうに指図してくるような奴だろうな。
モティエールの家に入ると、すぐに彼は俺に駆け寄ってきた。
「どっ、どうもっ! ルシエンが言っていた者だね。あまり時間がないんだ」
モティエールは裏社会の組織から金を借りたこと、返済期限に間に合わなかったために組織から刺客を放たれたことを語った。
そして今すぐにでも刺客がここに向かってきているので、死を偽装してくれと言ってきた。
この話は、ヴィセンテの言っていたことと同じだ。
「刺客の処刑人があらわれたら私は一芝居打つ。そこで君が短刀で切りつけてくれたら、処刑人は私が死んだと思うだろう」
「そう思い通りに行くかな?」
「やってみるんだ。次に君はすぐにコロールから脱出するんだ。処刑人は殺さずに、私が死んだことを雇い主に伝えてもらう為にね。そして翌日、コロールの地下墓地に安置されている私に解毒剤を使ってくれ」
ここまでモティエールが語ったとき、突然表の扉が外から激しく打ち付けられた。
「モティエール! 居るのはわかっているぞ! 今から行くからな!」
そして、激しく扉が開かれ、アルゴニアンの戦士風の者が現れた。
さっそくモティエールは、予定通り芝居を打ちはじめたようだ。
「ひえぇ、どうしろっていうんだ! 鬼の取立て屋に闇の信徒の暗殺者、二人ともこの哀れなフランソワを殺しに来たのかい?」
「闇の信徒だって? 悪い子にしていたんじゃねぇのか? 悪いがこいつの命は俺がもらうぜ、依頼主のご要望でな!」
後は聞いていなかった。
俺は契約に沿って、弛緩ワインを塗布した短刀でモティエールを斬りつけた。
死んだように動かなくなるモティエール、これでよいのか?
「貴様ーっ! 俺の獲物を横取りしやがったな!」
処刑人は逆上して俺に斬りかかってきたが、その攻撃を素早くかわすとそのまま表へと飛び出していった。
後は、言われたとおりにコロールの外まで撤退するだけだ。
これで処刑人は、モティエールが闇の一党から送られてきた暗殺者に殺されたことを報告するだろう。
あとは一日待って、コロールの礼拝堂地下に向かって、解毒剤を使ってモティエールを蘇生すればよいのだ。
一日待つと言っても、やることがないのでブラブラしていると、ウェイノン修道院へと辿りついていた。
そういえば、こんな場所があったな。
あの時のように、緑娘が羊を率いて歩いていたらいいのにな……
そんなことを思いながら、誰も居ない修道院に入り、ここで一晩明かすことにしたのだった。
ヴァーミルナよ、先日の願いを聞き入れて、俺に緑娘と一緒の幸福の夢を見させてくれ――
………
……
…
翌朝――
俺は、コロールの礼拝堂へと向かった。
そういえばここの礼拝堂に立ち寄ったことはない。
デイドラなんかにすがるようになってから、エイドラの礼拝堂に向かうことになるとは皮肉な話だね。
そして地下の死体安置所、そこでモティエールを発見した。
ヴィセンテから受け取っている解毒剤を彼に与える。これまでの任務が成功していたら、彼は息を吹き返すはずだ。
もっともこんなクズ野郎は、任務失敗して死んでしまっていてもよいと思うけどね。
親を売るにも友人を裏切るにも、理由の付け様はあると聞くが、親の命を差し出す正当な理由にはどのような物があるというのだ?
すぐに薬の効果が出て、モティエールは復活した。ちっ……
そして彼は、この地下墓所には彼の家族が埋葬されているのだと言い出した。
どういうことかと尋ねると、先祖は彼の復活を墓への冒涜と見るだろうというのだった。
それ以前に、母親の命を差し出したことには触れないのな。そっちの方が俺的には罰当たりだと思うのだけどな。
「ご先祖様の足音が……、守ってくれ。コロールを出るための通行手形を買う事ができるグレイ・メアまで護衛してくれ!」
「ほう、町から出るのに通行手形が必要だとは初耳だな」
「ほら来た! ははは、マルガルテ叔母さん、ずいぶんやつれたね、ははは」
振り返ると、本当に死体が動き出していた。
墓への冒涜ではなく、母親殺しの罪を問うているのだと思うけどな……
しかし、護衛まで任務だということで、仕方なくゾンビを退治することにした。
マルガルテ叔母さんごめんよ、知らんけど。何か言いたい事があるなら、俺もいずれそっちの世界に向かうから、その時に聞くことにするよ。
ゾンビは一体だけでなくいくつか襲いかかってきたが、その度に霊峰の指改を放って蹴散らしていく。
久しぶりに普通の戦闘をしている気がする。
ずっとこんな戦いを続けていたかったのだけどな……
「ここまででいいかな?」
「ありがとう! ここでシロディールを離れる移動手段の手配ができるはずだ! 世話になったな、アサシン!」
「シロディールを離れるのに移動手段が必要かね……? まあいいか、さらばだ。もう二度と会うこともなかろう」
俺はシロディールを離れてエルスウェアに旅したことがあるが、通行手形とか移動手段を必要としなかったけどね。
帝国も制度が変わったということかな?
こうして、暗殺の偽装を行う任務は終わった。
その功績を認められ、俺は闇の一党のエリミネーターへと昇進した。
ちまたではエリミネーターとは、その容姿を覆面マントにパンツ一枚と噂されている。
変態だな……
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