狙われたリリィ ~デイドラの攻撃目標~
現在クヴァッチの再建について、手伝いをしているところだ。
スキングラードで働き手を得る為にハシルドア伯爵と会う必要が出てきたが、それは明日の夜10時頃に来てくれという話になったので、少し時間を持て余している。
というわけで、リリィさんの所を訪れてみようと考えたわけだ。
リリィの住む場所は、人里離れた場所になっている。
場所はスキングラードの南東辺り、九大神修道院からちょっと東に行ったところだ。
以前死霊術師、主にファルカーと対決した遺跡、シローン辺りまでは道があるが、その先は林の中を抜けていくことになる。
九大神修道院を通り過ぎたところで違和感を感じる。
何か燃えてないか?
急いでユニコーンをかっ飛ばして、一軒家へ向かった。
山賊の襲撃か?
やっべ……、オブリビオン・ゲート……
リリィさん、デイドラに襲われてしまった……
やはりリリィさんの力は、デイドラも無視できないものだったのか?!
その場所にはアトロナックや、スパイダーデイドラが居るだけで、誰一人いない感じだった。
まさかリリィさん、やられてしまったんじゃ……
これでは魔術師ギルドにとって、痛い損失になってしまう。
デイドラの死骸が転がる中、黒焦げの人間の遺体も転がってた。
遺体は二つ、ここに居たのはリリィさんと助手が二人。その二人の助手は、俺の護衛によって届けた記憶があるので覚えている。
だが二人分の遺体しか無いのだ。もう一人は何処へ行ってしまった? ゲートの中にさらわれて監禁されているケースか?
「まいったな、こりゃ。まさかここが襲われるなんてね」
「あっ、リリィさんあそこに倒れてるわ」
「どこだ?! 無事かっ?!」
「待って! あなたは入っちゃダメ!」
「なんでやねん」
「スケベ」
「こんな非常事態にスケベも何も無いだろうが。そんな考えを持っている奴が居るから、AED処置の男女格差が生まれるんだよ!」
「何よそれ意味わかんない。あ、そうだあなたクヴァッチで隊長から鎧もらってたでしょ? それ貸して」
「リリィさんをクヴァッチ兵にするのな」
助手の二人が黒焦げにされている中、リリィさんだけが丸裸で無事だったのも不思議だが、とりあえずそのままでは緑娘が近づけさせないので素直に鎧を渡しておく。
鎧を着せたことでリリィは裸ではなくなり、ようやく俺の前に姿を晒したのであった。
いや、リリィが俺に裸を見られるのを嫌がったわけではないぞ。緑娘が俺に見せるのを嫌がっただけ。リリィさんは意識が無い。
緑娘は自分は扇情的な格好をしているくせに、妙なところで常識人ぶるのな。
「大丈夫、気を失っているだけみたいだわ」
「それは不幸中の幸い。とりあえず介抱は君に任せよう」
「あなたはどうするのかしら?」
「これをなんとかしないとダメだろう」
ゲートを放置していたら、どんどんデイドラが沸いてくるかもしれないのだ。
その為、ゲートは見つけ次第閉じておくのがベストなのだが、どうもここのところボコボコ沸きすぎていて手に負えないというのも事実だ。
そんな非常事態の中、晩餐会を優先するハシルドア伯爵であった。
さて、三度目になるかな? オブリビオンの世界だ。
ボエシアとペライトを加えたら、五度目となるのだ。もう慣れたかな。
この世界は、中央に塔があるが、そこまでの道は門で封鎖されている。
回り道をしてどこかで門を開けなければだめだね。
基本戦術は同じだ。
いちいち戦わない。どうせゲートを閉じれば、こいつらはこの世界から出てくる術を失うのだ。
クランフィアやアトロナックを振り切って、別の場所で先ほどの門を開けるスイッチを動かして戻ってきた。
この間随員がどんどん増えていくが、全部無視して走り去る。
ドレモラなどとまともに戦ったら――いや、一対一なら全然問題ないよ。ただ数が多いとめんどくさい。
しかも大将格のズィヴィライは、クランフィアを何度も召喚してくるから、まともにやりあっていたらきりがないのだ。
中央の塔は同じ構造。
そして展開も同じ状況。
不気味なしわがれ声で掛け声を上げながら襲い掛かってくるドレモラ軍団。
ふと思ったりする。ひょっとして深遠の暁教団が着ているローブを身にまとっていれば、こいつら襲い掛かってこないのでは? と。
アチョーッ(┌゚ω゚)┌
とまぁいろいろ敵を無視して、一気にシジルストーンを奪い取ってやりましたとさ、まる。
「あなた、いつも不思議なポーズで出てくるのね」
これが難点だ。
シジルストーンを取った時、そのまま外に出てしまうため、外から見ていたら突然現れる感じになるらしい。
「あ、リリィさん復活したのですね」
「ありがとうアークメイジ、お手数をおかけします」
「一体何があったのですか――ってそれは見たらわかるか」
「ええ、どうやらデイドラ軍は、この国の要人を狙い撃ちして潰しにかかっているみたい」
「それでクヴァッチのマーティン、そしてこの離れ里のリリィさんですか。俺や緑娘は襲われないのな、アークメイジと戦士ギルドマスターなのに」
「いえ、襲われているわ」
リリィさんはそう言うが、別に大学が襲われたりしているわけではない。
「それよりも、助手達は黒焦げなのにリリィさんはよく無事で」
「この家の中に居たときに、突然周囲が真っ赤になりゲートが現れた――ってところまでは覚えているけど、どうやら身にまとっていた物のおかげで助かったみたいです」
「以前着ていたあの踊り子の服みたいな?」
「あれは布地は少ないけど、その代わり巨大な魔力で保護されていたの。流石にゲートの威力で魔力は吹き飛んだみたいだけど、そこまでがやっとだったみたいで本体は無事だったようです」
「それはなにより」
ビキニアーマーは魔力で守られているという言い訳のような物を聞いたことがあるが、そこはさすがマジッククリエイターのリリィさん。
本当に魔力で守るタイプの防具を開発していたのだ。
気の毒なのは、通常装甲だった二人の助手。おそらくゲートが出現したときに、一瞬で黒焦げにされたのだろう。
しかしこれで、ゲートの威力も十分にわかった。デイドラ軍、侮れない。
そんな中、晩餐会を優先する以下同文――
「先ほど俺も襲われていると聞いたけど、別にゲートで狙い撃ちされてないですよ」
「とりあえずここを離れましょう」
リリィさんの提案で、一旦この場を離れることにした。
幸いスキングラードにも、魔術師ギルドの支部がある。一旦そこに避難してもらおうか。
手負いのリリィさんにユニコーンを譲って、俺たちは歩きだ。
「あなたは最近オブリビオン・ゲートをどのくらい見ましたか?」
「クヴァッチやここ以外では、スキングラードからクヴァッチにかけての街道で、三つほどゲートを確認しましたよ。あとブルーマでも」
「私や皇帝の隠し子と違って、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしているから、デイドラ軍もあなたを狙い撃ちできないのでしょう。だから数てば当たる戦法で、あなたの周囲にゲートを無秩序に出現させているのだと思います」
「なっ……、それだと例えば大学に長時間留まったら?」
「恐らく大学内に、ゲートが出現すると思います」
「ヤバいなそれは」
「ヤバイですね☆」
「――リリィさん?」
「なんでもないですよ」
そんなわけで、人里離れた一軒家を放棄して、一旦スキングラードへ身を潜めたのであった。
デイドラの侵攻は、予想以上に深刻で、辛辣な物なのかもしれない……
前の話へ/目次に戻る/次の話へ