代理人 前編 ~奇妙な赤い液体~
深遠の暁経典解読には時間を要するので、現在マティウス隊長より依頼された、クヴァッチ再建作戦に取り掛かった。
まず最初の任務は、スキングラードから働き手を集めること。
吸血鬼であるハシルドア伯爵へ、依頼しに行くのだ。ん、伯爵が吸血鬼ということはオフレコでな。
そんなわけで、スキングラードへ向かったのだが、途中で困ったものを発見。
南の方角、ヴァレンウッドとの国境方向に、また別のオブリビオンゲートが開いているではないか。
いろいろな所に、ぽこぽこ沸いてる。早く王者のアミュレットを取り戻さないと、この世界がゲートだらけになってしまう。
困ったことになったよ。
気を取り直して、スキングラードの城。
しかし、アーナンドと名乗る牧師に呼び止められてしまった。
「伯爵現在忙しいのだ。謁見などしている暇はない」
「なんだよ、泥棒ギルドの入団テストや新人教育役みたいな名前しやがって。だいたい伯爵の面会を取り仕切っていたのは、ハル=リューズというアルゴニアンだろうが」
「彼女は現在帰省中だ。その間、代理として私が伯爵への取り次ぎを引き受けている。私の許可無く、伯爵への取り次ぎはできん」
「そうか、じゃあ許可してくれ」
「ダメだ。だが、もしもお前が伯爵の所望される晩餐の準備を助けてくれるのなら、手引きをしてやろう。さあ、どうする?」
「なんだろう、血液でも集めてきたらよいのか?」
「大きな声で言うな! スキングラード郊外に住んでいる、農夫のソミュティウス・エンティウスにある品を注文したのだが、まだこちらに届いていない。伯爵の夕食に必要な物だ。彼の所に行って、早く届けるよう促して欲しい」
「わかったよ」
なぜ牧師風情が仕切っているのかわからんが、伯爵が困っているのなら仕方ないな。
伯爵の夕食に必要な物……、やっぱり血液しか思い浮かばんぞ?
さて、エンティウスの家は、農場の傍にあった。
一般人は城壁内部に住むというが、人口過密であぶれると外に住まざるを得なくなるらしい。
たとえばとある王家に仕える、まな板をなくした事のある使用人とか、その人だけが城壁外に住んでいたりするのだ。
「はい、私がソミュティウス・エンティウスです。なんでしょう?」
「なんでしょう? って、アーマン――いや、アーナンドがあなたに会うように」
「ああ、例の品物のことですね。そろそろ使者を送ってくるころだろうと思ってましたよ」
「何だ? 着服したのか?」
「と、とんでもない。ゴブリンの群れに襲われて、盗まれてしまったのですよ」
「それならさっさと取り戻してこんかい」
「私もそうしたいのですが、ゴブリンの奴が放った矢が膝に――」
「わかったわかった、行ってやるから。どこや?」
「ここからすぐ北にある洞窟に住みついています!」
全くどいつもこいつも、俺が居ないと何もできない奴らだ。
クヴァッチを再建させる為に、働き手を集める為に、伯爵に会うために、晩餐に必要な物を取り戻す為に、ゴブリンの巣へと向かう。
いろいろと省略して言ってみるぞ?
クヴァッチを再建させるために、ゴブリンの巣へと向かう。
意味がわからんわ!
ちなみに、スキングラードに西側にも、オブリビオン・ゲートが開いている。
ゴブリンの巣から眺めると、街道を挟んでゲートが二つ。
クヴァッチ再建している暇はあるのかね?
伯爵も、今夜の晩餐に必要な物とか言ってないで、ゲートを閉じる為に兵士を送り込んだらいいのに。
ん、イレンド・ヴォニアスの二の舞か。
つくづくこの世界の人間は、俺が居ないと何もできない奴らだ。
緑娘が俺に皇帝になれとそそのかしてくるのも、それなりに根拠があっての誘惑なのかもしれん。
マーティンよ、せめて君だけは自力で帝国を守ってみせたまへ――
ゴブリンごときは俺の敵ではない。
霊峰の指改の改で、四体同時に串刺しだ。
なんかかすっただけの奴も居るみたいだが、この改良の改良版は、かすっただけでも元祖と同じ威力があるのだ。
なにしろ雷を圧縮に圧縮を重ね、プラズマ化しているからな。
例えばプラズマと言えば、核融合炉にかすってしまって無事で居られるか? という話になる。
さて、ゴブリン共が盗み出したものを探す必要がある。
晩餐に必要な物、例の品物とあいまいな内容しか語られていないので、何が正解なのかわからない。
恐らく食い物か飲み物だと思うが、リンゴやトウモロコシなど街のタルにでも入っているようなものを、わざわざ特別扱いすることもなかろう。
となると珍しい酒、ゴブリンが酒を飲むのかな?
ゴブリンも欲しがるようなもの、肉かなぁ……
奥には牢屋があり、犠牲者が死んでいたが、これかな?
この人の血を吸う……って、晩餐にこんなの出したら大惨事。
可哀想だがこの人はそのままにしておこう。(^人^ (^人^ ) なんまいだー
「あたしこれだと思う」
「伯爵は、頭蓋骨が好きで、酒を飲みながらそのつまみにポリポリと……、あまり考えられないなぁ」
「じゃあそっちの石は?」
「伯爵の正体はロックバイターで、石灰岩が好物であった。しかしこれはソウルジェム、じゃなくてロックバイターなわけがない」
「じゃあこの奥に生えているきのこはどうかしら?」
「伯爵はたけのこ派だったような……」
「なによそれ。あなたはどっちなのよ」
「俺はすぎのこ派だ」
「意味わかんない!」
結局の所、何が必要としているのかわからんのが問題。
キノコだろうがソウルジェムだろうが、ある物は持ち帰ることにした。
「あ、この箱怪しい」
「中身は何だ?」
奇妙な赤い液体?
血液じゃねーか!
たぶんこれだな……(。-`ω´-)
そんなわけで、エンティウスの所へと戻る。
彼の前でキノコとソウルジェムと奇妙な赤い液体を並べてみたところ、やはり例の品物とはこの液体のことだった。
「で、この液体の正体を君は知っているのか?」
「トマトジュースでしょう」
「気楽な奴だなぁ……」
まあいいや、吸血鬼が血を飲むのは自然。
A型の血液と、O型の血液を同時に飲んだらどうなるのだろうか?
そもそも吸血鬼は何故血を欲するのか?
色々と謎の多い存在だ……
グレイ・プリンス曰く、汚らわしい悪魔だそうだがな。
「ほら、奇妙な赤い液体を持ってきてやったぞ、伯爵に会わせろ」
「おおそれだ、ありがとう完璧だ。これで伯爵は大喜び、明日の夜10時ごろに来てくれ。必ず会えるように手引きしておこう」
「今夜はいかんの?」
「今夜は晩餐だ。そのために、この品物が必要だったのだ」
「さいでっか」
各地でオブリビオン・ゲートが開きまくっている。
クヴァッチは再建に向けて一生懸命だ。
そんな中、ハシルドア伯爵は、暢気に晩餐ですか。
まあいいや。
別にスキングラードがデイドラに侵攻されても、クヴァッチの再建が遅れても、あんまり俺には関係ないからね。
――で、ギリギリになってから「助けてくれ」だろ?
ん、近くまで来ているからついでにリリィさんに会っておくか。
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