帝位継承者の捜索 ~オブリビオン・ゲート~
元の衣装を取り戻し、羊も預けた。
これでいよいよ皇帝の最後の依頼を遂行する時がやってきた。
まずは、謎に満ちた街、クヴァッチへと向かわなければならない。
魔術師、戦士、盗賊とギルド関係で一度も話題に上がらなかった、謎の街である。
場所はコロールから南だと言っていたので、スキングラードとアンヴィルの間ぐらいだろう。
そういえば以前、外壁を眺めたことがあったっけ?
その前に、リリィさんの所を訪れておこう。いろいろと話しておきたいことがあるからね。
リリィ・ウィスパーズは、魔術師ギルドに所属する、マジックアイテムクリエイターだ。
スキングラードの南東辺り、エルスウェアとの国境付近にぽつんとある一軒家に住んでいる。隠者みたいになっているね。
そしていろいろと知恵やアイテムを頂いていたりする。
緑娘が気に入っている魔剣を作ったのもリリィだし、マジック・ガンなるものも発明していた。
そして、盗賊ギルドを潰す作戦も彼女がたてたもので、それはギルドマスターになって乗っ取るというものだった。
「久しぶりね、盗賊ギルドは乗っ取ることができましたか?」
「ギルドマスターにはなったけど、グレイ・フォックスは消滅したよ」
「そうなのね。ここはあまり盗賊とか関係ないから実感できないけどね」
「ところで皇帝が暗殺されたのだけど、帝国を乗っ取るとかできますかねぇ?」
「皇帝は代々ドラゴンボーンと呼ばれるものが就いているの。シャウトとか使えないと、認められないわ」
「シャウトですか。ツイスト・アンドですか?」
「いえ、私が知っているものは、まずフス。これは力を意味するわ。そしてロー、バランスという意味ね。そしてダー、押すという意味よ」
「フス・ロー・ダー、ですか」
なんだか皇帝になることは難しそうだ。やめておこう。
ドラゴンボーンか、七人集めたら願いが叶うのかな?
「ところでリリィさん」
「なんでしょうか?」
「この衣装に見覚えはありますか?」
俺は、念のために剥ぎ取っておいた暗殺者のローブをリリィに見せてみた。
彼女なら何か知っているかもしれない。
「深遠の暁……、かしら?」
「え? 深遠の暁? なんですかそれは? 暗殺集団ですか?」
「メエルーンズ・デイゴンを崇拝する宗教団体よ」
「ああ、デイドラの狂信者か。暴挙に出る理由も納得できる気がするよ」
皇帝やジョフリーの言っていた、破壊の君主メエルーンズ・デイゴン。
どうやらデイドラに対する認識を、一部修正するへぎだな。
これまでは三大悪のデイドラと勝手に呼んでいたが、これからはデイドラ悪の四天王と呼ぼう。
まずは俺をそそのかして変態犯罪者に仕立て上げたサングイン。
そして俺に強引に命令して、村に災厄を引き起こさせたシェオゴラス。ネズミ騒ぎや羊を毒殺、まずいな、あの時緑娘が居なくてよかったぜ。
そしてこれまた強引に命令して、同じく村に災厄を引き起こさせたメファーラ。暗殺までやらせた分、シェオゴラスより悪質だ。
最後に最近加わった、皇帝暗殺を教団に実行させるに至ったメエルーンズ・デイゴン。
こいつらには要注意、気をつけねばな。後者ほど危険だ。信徒の変態度ではシェオゴラスがダントツだけどな。
まぁ見ておれ。
テロで歴史は動かないことを実証してやろうではないか、深淵の暁とやらよ。
精々停滞させるのが関の山だということをな。
………
……
…
というわけで、スキングラード西側の街道を進んでいく。
しばらく進むと見えてくる、丘の上にそびえる城壁。
周囲が枯れ木と化しているのが気になるな。既に争いでも起きているのだろうか?
そして街道の分かれ道、クヴァッチの方向へ進路を向けたとたん、駆けてくる者が現れたのだ。
「何だお前は、何逃げておるか?!」
「あんた知らないのか? クヴァッチは昨夜、デイドラに制圧された! 城壁の外に赤いゲートが出現したんだ!」
「デイドラに制圧されただと? あいつらにそんな組織力は無い。深遠の暁じゃないのか?」
「じゃあ行って見てみろ! クヴァッチは焼け野原だぞ! 皆死んでしまった!」
「こら待て、マーティンって者も死んだのか?」
「あのお坊さんか、もう死んでいるのは間違いない。全滅だよ、分からないのか?」
「なんとまぁ」
「サヴリアン・マティウス隊長が押さえている間に、あんたも逃げるんだな!」
そう言い残すと、彼は何処かへと走り去ってしまった。
しかしマーティンは既に死んでいたとは、これはまずいな……
「最後に残された後継者は死んだわ」
「いや、まだ分からない! マーティンは生きているかもしれない!」
緑娘の野望がむくむくとせり上がってくるので、ありもしない希望にすがって先へと進んでいく。
いいか、むくむくはダメだからな。
少し進むと、そこは集落になっていた。
ここがクヴァッチか? 妙に殺風景だし、住民はそわそわと落ち着きが無いものの、平穏そのものではないか。
とりあえずユニコーンはここに置いておこう。
そして俺は、近くに居た人に尋ねてみるのだった。
「おい、ここがクヴァッチですか?」
「違う、ここから登った先がクヴァッチで、ここは避難場所だ」
どうやらここはクヴァッチの住民が逃げてきた避難場所のようだ。
話の内容はさっき逃げて行った奴と同じで、夜更けに突如オブリビオン・ゲートが開いて、そこから飛び出したデイドラが街を火の海にしたのだとさ。
そして大勢が死んだが、逃げ延びた人も居るらしい。全滅じゃなかったのか。
「マーティンって人はまだ生きているのか?」
「あのお坊さんなら、脱出できたかどうか不明です」
「やっぱダメだったか」
「詳しくは、サヴリアン・マティウス隊長に聞いてください。彼なら何か知っているかも」
どうもサヴリアン・マティウス隊長という人が、ここではキーパーソンみたいだな。
あとマーティンは、お坊さんらしい。お坊さんといえば……
「なぁ、お坊さんって言えば、どんなの想像する?」
「頭ツルツルで光っていて、念仏を唱えている人」
――だそうだ、緑娘の想像ではな。
避難場所から続いている坂を登っていくと、目の前にバリケードが並んでいる場所に辿りついた。
遠くに衛兵の姿も見えるが、逆ではないだろうか?
クヴァッチを囲むようにバリケード、そしてその外側に衛兵が居るのだ。まるでクヴァッチを包囲しているかのように。
そしてそこは、戦場だった。
クヴァッチの城壁の前には、見たことも無いような赤く輝く門のようなものが出来上がっていた。
そして衛兵は、これまでに何度も見てきたまるで怪獣のようなデイドラ、ディードロスと戦っていた。
「いったい何が起きているのだ?!」
「ここは君の来る場所ではない、キャンプに戻るんだ!」
「ひょっとしてあなたがマティウス隊長?」
「いかにも、私の名はマティウスだ。 何故、私を知っている?」
戦いながらだとろくに会話もできないので、霊峰の指改を放って一気に片付けておく。
ディードロスと戦っていたのが噂のマティウス隊長で、一部の者が教会に逃げ込んだまま街に閉じ込められていると語った。
そして城には、伯爵と配下の兵が篭城しているのだとも。
教会が無事なのなら、マーティンはまだそこに残っているかもしれない
「そうだ、マーティンという者は無事なのか?」
「あのお坊さんのことか? 彼ならアカトシュ礼拝堂の方へ向かっていたぞ」
「そけならば急いで彼らを救出しなければ」
「ではゲートを閉じる方法があるはずだ、それを探ってくれ」
「ゲートなんて無視していけばいいのに」
「ダメなんだ。あのオブリビオン・ゲートがあるかぎり、街には近づけないのだ」
「なるほど、ゲートを閉じればよいのだな」
どうやらマーティンはまだ無事のようだ。ここでもお坊さんと呼ばれているけどね。
彼を救うためには街へ行かなければならない。しかしそれにはまずあのゲートをなんとかしなければならないと言うのだ。
そこで、一気にゲートへ近づくことにした。
蜘蛛みたいなデイドラも居るが、衛兵と協力して蹴散らしながら先へと進む。
そしてこれがオブリビオン・ゲートだ。
ボエシアの時は、もっと小さくて色も青白かったはずだ。しかしこのゲートはその数倍は大きく、色も赤白い。
敵はここから現れ、街を破壊したというのだ。
ゲートを閉じるにはどうすればいいのか? 外側の枠を破壊してやればいいのかな?
「とりあえずゲートは俺がなんとかするから、テフラは周囲のデイドラを駆逐してくれ」
「わかったわ」
俺は、ボエシアの時と同じようにゲートの内側に広がっている幕のようなものを触れてみた――
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