パシファエ症候群 ~愛しのミノタウロス~
「ちょいとちょいと、旅の者」
「私は旅の者ではない、アガマナスの司祭だ。トゥルットゥーッ!」
「嘘ばっかし」
ん? デジャビュ?(。-`ω´-)
オークレストの市場をうろついていたところ、一人の女性に話しかけられたぞ。
俺って話しかけやすいようなオーラをまとっているのだろうか?
エロイン・ブリジットと名乗った女性は、俺になら頼んでも良いかな? とか考えた上で、依頼を持ちかけてきた。
何でも町に心から信頼できる人が居ないからという理由だそうだが、こんな行きずりの旅人なら良いのか?
一応アークメイジやっているけどね。
何やらエロインは恋に落ちたらしいのだ。
相手はとっても大きくて、力強くて、格好良くて……
アンドレ・ザ・ジャイアントかな?
でも彼と話をするのは本当に難しいらしい。だから彼も私と同じ事を思っているのかは分からないらしい。
う~む、この世界に言葉の壁ってあったっけ?
…………(。-`ω´-)
あった。
トゥルットゥーッ!
「それに、一部の人達は私達の愛を認めないかもしれない。世間は偏見で一杯なの。変わっているなぁ、とか、下手したらもっと酷いことを言ってくる」
「……で、彼の名前は? 手伝うにも名前も知らない相手では手をつけようがないぞ」
「分かりません……、私は、ええと……、ミノタウロスとは話せないから……」
「みのたうろす?」
分かりました、それではミノ=タウロスさんを探してきましょう!(`・ω・´)
――じゃなくて、ミノタウロス?!
なんと、エロインの愛する人(?)は、ミノタウロスだった。
エロインは、彼が牛だからといって、一緒になっちゃいけない理由は無いはずよ! などと息巻いてくる。
そりゃまぁ、蓼食う虫も好き好きという言葉もあるけどさ、ミノタウロスねぇ……(。-`ω´-)
そしてエロインは、なんとかして彼らの言葉を話せる人を見つけて、話してきて欲しいと言うのだ。
「分かりました、微力を尽くしてみましょう……(。-`ω´-)」
「ありがとうございます! 彼の家はオークレスト居住区、宮殿の南側です」
さて、どうするか?
「こんにちは!」
「…………」
「ぼんじゅーる!」
「…………」
「ぼあたるで!」
「…………」
「まえごばんねん!」
「…………」
「きえて、こし、きれきれて!」
「…………」
だめだこりゃ……(。-`ω´-)
素直にミノタウロスの言葉を知っている人を探そう。
俺は、前回のネズミ騒動で、ミノタウロスの飼育をしている人を知っていた。
彼ならミノタウロスの言葉が分かるはずだ。
「えーと、ミノタウロスの言葉を知っていますか? いや、別に俺はミノタウロスを愛したわけじゃないよ、ちょっと興味が沸いただけなんだ」
「おう、少しなら話せるべ。けど忙しくってそんなヒマはねぇ。代わりにオークのアバズレと話してくれ」
「誰だそれは?」
「酒場に居るよ」
というわけで、今度は酒場だ。
これもネズミ騒動で立ち寄ったことがあるね。
「えーと、ミノタウロスの言葉を知っていますか? いや、別に俺はミノタウロスを愛したわけじゃないよ、ちょっと興味が沸いただけなんだ」
「ああ、それなら産婆のモガ・ドラ=ガーシュなら詳しいよ。あの婆さんはミノタウロスと取り引きすることで知られているからね」
「それはそれですごいな」
ミノタウロスは、集落を作ったり偶像崇拝をしたりして、それなりに文明があることがわかった。
オークレストでは、取り引きまでしている人がいるじゃないか。
町中をミノタウロスがうろついているのも不思議じゃなくなってきたな。
というわけで、今度はモガ・ドラ=ガーシュの家だ。
「えーと、ミノタウロスの言葉を知っていますか? 以下省略――」
「連中はまともな言語ってのを持ってないよ。だから用件は単純に。そうだね、単純な情動や行動、そんなところだね」
「ではこの家までお願いします」
そんなわけで、モガ婆さんを、町に住んでいるミノタウロスの所へと連れて行くことになった。
しかし、モガ婆さんの家にあるこれは何だ?
これも魔女の類じゃないのかねぇ……
………
……
…
さて、ここがエロインが恋するミノタウロスが住んでいるという家だ。
オークレストでは、ミノタウロスも一人前に家を持っているというから驚きだ。
ひょっとして、ミノタウロスの集落で争ったのはまずかったかな? 向こうから襲い掛かってきたけどね。
本当にミノタウロスが住んでいるねー。
家の中で巨大な斧をつかんでいるのが、ちょっと危ないけどね。
「こいつと何を話したいのだね?」
「えーと……、この町に住んでいるエロイン・ブリジットという女性が、この人――ミノタウロスに恋したらしいんだ。それで、愛していると伝えて欲しいと言っていたんだよ」
「ふむ、それはまた妙な頼みだねぇ……。でもまぁ分かった、やってみるよ」
こうして、モガ婆さんはミノタウロスと話を始めた。
「ハテク、テマセハネノテ、トゥルットゥー」
「グルルルウ、ガウ、トゥルットゥー」
「キルイテリ、トゥルットゥー、タルカク」
ちょっと待て……
アガマナスの司祭が話していた言葉は、ミノタウロス語だったのか?
この二人の会話から、トゥルットゥーと聞こえるのは気のせいだろうか?
「ありゃりゃ、牛ちゃんちょっと混乱しとるな」
「俺も混乱しとるわ、トゥルットゥー!」
「でもあの娘に会うことには同意したよ。もっとも土産を持って来なきゃ駄目だろうけどね」
「その土産はトゥルットゥーですか?」
「外で渡すから後でおいで」
「ほいほい」
……明らかに俺、混乱しとるな。
ミノタウロスの家を出て、再びモガ婆さんの家に向かった。
そこで貰ったものは、モガの特製煮というスープだった。
モガ婆さんは、いつもミノタウロスの血とミルクの瓶を、こいつで取り引きしているらしい。
このスープは、ミノタウロスを鎮め、従順にするという。ということは、これがあればエロインもミノタウロスと近づきやすくなるだろう。
でもモガ婆さんは、最後にこう付け加えた。
「でも、後は彼女の腕次第だよ」
まぁそういうことになるだろうね。
………
……
…
「えっと、ミノタウロスは君と会ってくれるらしいよ」
「ほんと?! それは最高の知らせだわ、本当にありがとう!」
「このスープをプレゼントするといいみたい」
「うわぁ、すごく緊張するけどワクワクするわ。そのうちまた会いに来て下さいね、どうなったかを話したいから」
こうしてエロインは、ミノタウロスと出会うことに成功したのだった。
この恋が発展するかどうかは、彼女次第。
かつて人と牛が交わることで、牛人が生まれた。しかし人と牛人が交わればどうなるのだろうか?
牛人人かな? サ○リーマンマンみたいな……(。-`ω´-)
この時俺は思った。
オーガの言葉を学ぶことができたら、奴らとも仲良くできるのかな? と。
仲良くしたいとは思わないけどね!
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