狩られし者 前編 ~500Gの借金~
ブラヴィルに滞在して数日が過ぎた。
さほど大きな街でもなく、見るべきものは全て見たが、やはり幸運の老女像だけがこの街で浮いているような気がする。
何のための像なのか、また夜になるといつもこの像の前でたたずんでいる人物は何者なのか。
俺は、今日も朝から像の前で考え事をしていた。
「もしもし、押し付けがましいようですが、助けが必要なのです。主人のエイルロンが失踪してしまって……」
幸運の老女像の前に居ると、突然後ろから声をかけられた。
助け? 助けなら衛兵に、とでも思ったが、とりあえずは話を聞いてみようということにした。
話しかけてきたのは、ブラヴイルに住むアーサン・ロシュ。
なんでも主人がギャンブルにのめりこみすぎて、500Gの借金ができてしまったらしい。
ふむ、山賊狩りでもして、鎧の一つでも剥ぎ取って売れば返せる額ですな。
そこで、高利貸しのクルダンに、独り身求婚者旅館まで会いに来るよう連絡があり、それっきりなんだとさ。
また失踪か。
失踪が多いなこの国は。
まぁ借金のかたに、マグロ漁船にでも今頃乗っているんじゃないですかね?
そんなことせんでも、山賊狩りすれば一発なのにね!
「ところで、なんで俺に依頼するのですか? 衛兵とか助けてくれそうな人いっぱい居るのに」
「最初はクッド=エイに相談したのですが、ラムリーザという者が暇そうにしていると聞いたので……」
……(。-`ω´-)
というわけで、独り身求婚者旅館でクルダンに会ってきた。
しかしすごい名前の宿屋だな。結婚を考えたらここに来ればいいのか、覚えておこう。
しかしクルダンは、お前は気に入らないから何も教えないと抜かしやがる。
俺もお前は、オークだかオーガだかわからんから気に入らねーよ!
――などと喧嘩しても仕方が無いので、紳士な俺は魔法でサクッと片付ける。
魅了の魔法、かけられるところを見られていても好意的になってくれるという不思議な魔法。
そういうわけで、クルダンから借金をチャラにする方法を教えてもらった。山賊狩りですか?
クルダンの案は、ニーベン湾に浮かぶグリーフ砦から、ドレイゴル・アックスを持ち帰れば、エイルロンの居場所を教えてくれると言ってきた。
おまわりさん! この人が誘拐犯ですよ!
そう通報してもいいのだが、へたに騒ぐと人質を殺すかもしれん。というか、話を聞くとこいつ、殺しそうだ。
というわけで、用意されたボートに向かったわけだが、えーと、一人で漕いで行けですか?
動力もついていなければ、オールもついていない。手漕ぎかバタ足で行けということですか?
………
……
…
一応到着。どうやってたどり着いたかは、想像に任せる。
とにかくボートはニーベン湾を進み、ぽつん浮かぶ島、クルダンの言うグリーフ砦へと到着した。
砦の門は閉ざされていたが、すぐ傍にあるレバーを動かすと門は開いて中に入ることができた。
これって誰かが外から操作したら、閉じ込められるってことになりませんかね?
さらに砦の中は血が飛び散っていたりであまり良い雰囲気ではない。
いったい何が起きている砦なのだ?
――と、砦の中に一人の男性が居た。
誰かと思ったら、彼が失踪したというエイルロンだった。
なるほど、砦に閉じ込められていたんだな。それなら連れて帰ろう、これでめでたしめでたしだ。
ひとまず話を聞くと、彼もクルダンの斧の話に騙されてきたらしい。
え? あの話は嘘だったのか? ドレイゴル・アックスってのは存在しないって?
エイルロンもそのドレイゴル・アックスを持ち帰れば、借金をチャラにしてくれると聞いてやってきたらしい。
どうやらクルダンは、金貸しだけを仕事にしているのではなくて、ハンターの狩場と名づけた商売をしているそうな。
生きた人間を獲物として狩りを楽しめる、そんなひどいこともやっているというのだ。
そして今、この砦の地下牢が狩場になっているという……。
「そんな物に参加する必要は無い、ボートがあるからとっとと逃げ出そう」
「ダメだ、この場所への扉は今鍵がかかっている。出るためには、ハンターの狩場に行って、ハンターを殺すことだ」
「いや、さっき入ってきたばかりなんですがー」
そう思ってさきほど入ってきた門へとかけつけたが――
――誰かが閉めてしまっていた(。-`ω´-)
誰かが外から閉めたな?
ハンターを退治するしかないのか?
なんでたった500Gの借金で、ここまでしなくちゃならんのだ?
続く――
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