悪夢の闇を超えて 前編 ~夢の世界~
「ところでラムリーザ、あなたなら私の友人のヘナンティアを探し出せると思うのですが、どうかしら?」
推薦状は後回しにして、ギルドの中でのんびりとしていたら、マスターのクッド=エイから相談事を持ちかけられてきた。
どうやらそのヘナンティアという者は、不注意な実験をやらかしてしまったのだという。
それと、探し出せるか? と聞いてきたが、実際のところは失踪しているわけではなく、ある場所に閉じ込められているのだという。
そして助け出す術は、マスターには無いらしい。
ギルドマスターにできないことが、準会員にできるかもしれないと考えること自体が無謀なような気がするが……
とりあえず心証を良くするために、助けてあげましょうと応えたのだが――
いや……、何でもすると言われても、トカゲさんじゃあなぁ(。-`ω´-)
クッド=エイは準備ができるまで待つと言うが――
他のメンバーは無関心ですか?
これなら俺がなんとかしてあげるしかないのだろうな。それともみんな、トカゲさんは嫌ですか?
というわけで、クッド=エイと共にヘナンティアの家へと向かった。
ヘナンティアは、自宅で危険な実験を行っていたらしい。しかしその行為は、ギルドでは規則で禁止されていた。
危険な実験は、同僚の立会いの下、ギルドで行わなければならないのだと言う。
俺は家はいくつか持っているけど、アリーレさんやマゾーガ卿に譲ってしまったようなものだがまだない。
北の果て、最初に意識を取り戻した地点に塔の家があってそこに住んでいたけど、ここのところずっと戻ってないし、誰の塔かもわからんから違う。
ん~、ギルド以外の場所では宿無しだ。そろそろ名声もたまってきたことだし、家を買うときかな?
そんなわけで、ヘナンティアの家。
なんかいろいろと継ぎ足したような家だなぁ。
その家の中で、ヘナンティアは眠りについたままうなされていた。
クッド=エイの話では、彼は夢の世界に閉じ込められたのだという。
彼の作った夢界のアミュレットという魔法装置を使えば、自分の精神世界に入り、夢として体験できるらしい。
そんなこと言っててもさ、実はヴァーミルナが絡んでいるんじゃないかねぇ?
ただし、その夢界のアミュレットを使えば、夢に似た仮想現実で自由に行動できるらしい。
思考やスキル、能力も現実のままで、心の中の異世界に飛び込むようなものだと。
異世界か、チート能力はくれないのね。あくまで自力異世界なのね、異世界の意味がないね。
それはさておき、ヘナンティアを助けるには夢界のアミュレットを身に付けて眠りにつくしかないそうだ。
しかしクッド=エイ自身がやらないのは、彼が知っている人間では助けられないと考えているからだ。知っている人が夢に現れても、自分の記憶から夢が作り出した空想だと思って相手にしないかもしれない。
でもさ、知らない人だったら、知らない人だから相手にしないという可能性もあるんじゃないですかね?
というわけで、俺は眠りについてヘナンティアを助けることになったようだ。
「これでいいですか?」
「痔が痛くて仰向けでは眠れないのですか?」
「いいからアミュレットをよこせ」
「ああそうそう、夢の中で彼が死んだら、彼の夢の中に居る人も一緒に死ぬらしいから用心してね」
「先に言えっ!」
とまぁ、そんなこんなで夢の世界である。
ヘナンティアは俺を見て「幻じゃないのか?」と言っているが、夢も幻も似たようなものだ。
しかし殺風景な夢だな……
とりあえず、この夢の中でヘナンティアはいろいろなものを失ったので、それを取り戻さなければならないらしい。
待てよ、俺裸じゃないか!
なんだよ、ヘナンティアは裸の男を夢見るのか?!
変な奴だな!
とまぁ愚痴ってても仕方が無いので、周囲を見渡して行ける所から行ってみようと思う。
最初の部屋は、知覚の試練。
たいまつを片手に、通路を進んでいかなければならない。
道の途中では、空から岩が降ってきたり――
――ゆらゆらとゆれる刃があったりと物騒。
これがヘナンティアの夢か、殺風景に加えて暴力的だな……
こんな仮想現実はお断りしたいところだが、この試練をなぜ彼自身でやらないのだろうか。
これ絶対ギロチンの刃みたいなのが降ってくるだろうな。
一気に駆け抜けるしかないようだ。
そんな感じに数々のトラップを潜り抜けた先に、青白く輝く球体を見つけ出した。
これは知覚のエレメントで、ヘナンティアが置き忘れたものの一つのようだ。
どうやら彼は、こういったエレメントを精神から欠いてしまったので、混乱してしまったようだ。
他にいくつあるのかわからないが、全てのエレメントを取り戻せば、彼も正気を取り戻して目を覚ますことができるかもしれない。
続く――
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