救世主の涙 ~クリスタルコレクション~
翌朝、俺はダケイルの予言が下る前に、レヤウィンの魔術師ギルドを抜け出すことにした。
夜逃げ……、はさすがに危険なので、朝一番に抜け出してこのまま帝都見物でもやりに行こうかと考えていた。
しかし――
「よお新入り、錬金術師のスドラッサだ。クリスタルコレクションの完成に力を貸して欲しいぞな、もし」
「急いでいるので要点をはっきり言ってもらいたい」
早朝だというのに、カジートにつかまってしまった。
ダケイルの予言とは関係ないので、話は聞いてあげることにしたのだが、どうやら「ギャリダンの涙」という一風変わったクリスタルを探しているらしい。
自分で探しに行けばいいのに、報酬を出すから取ってきて欲しいと言ってきた。
というわけで、いろいろと調べてみた。
ギャリダンの涙は青みがかった小さなクリスタルで、それははるか昔に実在していたギャリダン・スタルラスという名の騎士の凍りついた涙だとか。
そのギャリダンは、小さな農村を治める騎士で、その村が干ばつに見舞われた時、村を救うために永遠にあふれ出す水差しという遺物を探してこようとした。
しかし、その水差しを守っていた怪物にやられて氷付けにされたと。そして失敗したことにギャリダンは涙を流したと。
で、その涙が凍ったものが、ギャリダンの涙というクリスタルになっている。
――とまぁ、これが「悲運の騎士」という本を読んで知りえた内容だ。
さらに本には、ブルーマ近くにあるフロストファイア洞穴について書かれていたりした。おそらくそこに、あるのだろう。
………
……
…
というわけで、フロストファイア洞穴だ。
洞穴の中は、熊だの虎だの、そういう獣ばかりが住み着いていて襲い掛かってくる。
熊と虎は共存できているのか? とか突っ込みたいが、突っ込むのは霊峰の指だけにしておく。ほんと楽だわ、この魔法。
洞穴の奥には凍りついた扉とかあったりする。
この奥に、氷付けになったギャリダンが居るのだろうか?
熊や虎は、この扉を守っていたとか言うのだろうか?
扉を抜けた先は、普通の森の中だった。
凍りついた世界でも出てくるのかと思ったけど、なんてことはない、普通の場所なのが拍子抜けだ。
しかし森の中を進むと、なにやら凍りついた一角が現れたりした。
その中心部には、氷の中に閉じ込められた人が居るような気がする。
中央部に近づいていくと、氷でできたゴーレムみたいなのが襲い掛かってきた。
氷だから雷撃よりは火球こうげきした方がいいだろう。
ゴーレムを岩に引っ掛けて、こっちに向かってこれないようにして火球を打ち込む。
オーガといいこいつといい、なんで障害物を回避せずに直進しかしようとしないのだろうかねぇ?
まぁそのおかげで、全然被害を受けることも無く退治できましたとさ。
近くから見ると、確かに氷の中に閉じ込められた何かが居るようだ。
巨大なゴーレムと人の姿。よく見れば、水差しで防御をしているようにも見える。水差しがゴーレムに強打され、魔法の水によって周囲を全て凍らせてしまったとでもいうのだろうか?
そんな水差しを持って帰ったとしても、今度は村が氷付けになってしまうのではないかねぇ?
とりあえず昔のことはどうでもいい。今回の任務は、ギャリダンの涙を回収することだ。
それらしきものを探して、周囲をうろついてみる。
うん、これかな。
周囲に転がっているクリスタルを回収して、任務完了。
あとはこれをスドラッサに届けるだけだ。
………
……
…
「ほら見つけてきたぞ、それも五つも!」
「五つも見つけたのかい? よっし、それならボーナスを弾もう。2500Gぞな、もし!」
「おおう、追いはぎで得られる収入に匹敵するぐらいの額だね!」
そういえば、スドラッサは錬金術師だったな。道中で見つけた巨大な薬草についてたずねてみよう。
俺は、いくつか拾ってきた薬草をスドラッサに見せて、「これは何ぞ?」と聞いてみた。
すごいな! 笑顔が怖いよ獣族!
しかし見たことないのか!
スドラッサの話では、これはニルンルートという薬草で、スキングラード在住のシンデリオンに聞いてみるとよいと教えてくれた。
彼は珍しい植物を専門分野としていて、ニルンルートのことも知っているはずだと。
スキングラードか。
まあいいや、グラアシアはもう居ないからスキングラードは安全だ。後日また訪ねてみよう。
「ラムリーザ? ラムリーザはどこへ行った?」
……なんかダケイルの呼んでいる声が聞こえる(。-`ω´-)
やっかいな予言が下る前に、今度こそさっさとズラかろう。
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