完全犯罪の絵 前編 ~何度も言うが、俺は探偵じゃないんだけどな~
この世界には探偵という者は居ないのだろうか?
俺は、コロルの地で再び探偵として働いていた。
事の発端は、ただなんとなくコロルの城でも見物に行ってやろうか、そんな気持ちで城を訪れた時だった。
この国は、城があって領主が居て臣民が居て、いわゆる封建制度になっているようだ。
ブルーマの城にも行ったことはあるが、どうも牢屋しか記憶に残っていない。
そういうわけで、領主に挨拶をしておくことにした。
領主はヴァルガ伯爵夫人。主人が亡くなって以来、彼女が領主を引き継いでいるようだ。
そこで突然現れた俺に、「亡き主人の描かれた絵画が盗まれたので、犯人探しをして欲しい」と依頼を持ちかけてきたのだ。
専門の探偵は居ないのか?
それでも、絵と犯人を見つけ出すことができたら相応の報酬を差し上げると言ってきたので、探偵じゃないが探偵の真似事をすることにした。
執事や衛兵は居るようだが、彼らは犯人を捜す気はあるのだろうか?
まあいいや、とりあえず聞き込みを始めましょう。
ヴァルガ伯爵夫人の話では、犯人は城の居住者に絞られるとのことだ。それは助かる、世界中から探せと言われても大変だからな。
要するに、この城の中で犯人は知らぬ顔をしてうろついているわけだ。
まぁ殺人鬼ってわけじゃなくて窃盗犯、身の危険は無いだろう。
城の居住者は、伯爵夫人と執事、後はシャネルとオーグノルフ、衛兵隊長のビッテネルド、この辺りから聞き込みをするべしとのことだ。
ではまずは、衛兵隊長からだ。
こいつは自分で自分のことを、「呪いをもたらす」ビッテネルドなどと語っている。
もうこいつが犯人でいいんじゃないか?
絵画を盗まれたのも呪いのせいだよ。
とは言うものの、伯爵夫人から冤罪には気をつけろと言われていたので、そんなことで怪しんでいたらいけない。
変な肩書きで犯人にされるのなら、俺などは「謎の放浪者」ラムリーザだからな、一番怪しい奴だわい。
ビッテネルドの話では、その夜は城には居ずに、コロルをパトロールしていたという。信じてよい物やら?
それと、シャネルが最近なんだかおかしいようで、西塔で長い時間を過ごしているらしい。
彼女の話では、呪文の研究に熱中していると言うが、まさか霊峰の指のことじゃないだろうな? あの呪文は俺が言うのもなんだが、かなりヤバいぞ?
後で西塔も調べておくか。
伯爵夫人の側に居た、最高紋章官のレイセにも話を聞いておく。最高紋章官ってどんな仕事をするのかさっぱり分からないけどな。
わけわからん職業のこいつを犯人にするか?
と思ったけど、俺などは魔術師ギルドの準会員を名乗っていて、二度もギルド内で盗みを働いている。俺の方がよっぽど怪しい職業だ。
彼の話では、オーグノルフのアルコール依存症が最近ひどくなって、様子がいつもと違うという。それで、何度も金を無心しているとか。まさか絵画を盗んで売って、酒代にしたとでも言うのだろうか?
というわけで、次はオーグノルフに当たってみたのだが、全然話を聞いてくれない。
何か隠しているのか? お前を犯人にするぞ?
こんな時は、魅惑の術だ。こんな呪文で相手を惑わす俺が、いちばん怪しい奴だけどな!
しかしこうして魅了することで話を聞いてくれて、オーグノルフはいろいろと話をしてくれた。
盗みがあった夜は、ブラヴィルから配送に来ていた少年と言い合いをしていたり、その後は自分の部屋でずっと過ごしていたとか。
自分の部屋に居たかどうかは誰かか証明しないとアリバイにならないんじゃないかね?
次はシャネルも魅了して話を聞きだす。罵声を聞くのもめんどくさいので、今後は話す前に魅了しちゃおう。
彼女は、絵が盗まれた夜に、星を詠むために城の中庭にいたとか。
あのクソゲーの「ほしをみるひと」だというのか? そんなクソゲーを楽しそうにプレイするこいつが犯人でいいんじゃね? って何の話だ!
こいつらが集まって顔を黒く染めてグループを作ったら、ランナウェ~イって歌いだすか? ――ってだから何の話だ!
俺の記憶、なんか変なのが紛れ込んでいる感がぬぐえないぞ?
え~と、なんだっけ? それから大広間から食堂に向かい、寝る時間まで一人でワインを飲みながら星図を学んでいたとか。
こいつも一人か、誰かが証明しないとアリバイに――
執事のオログにも話しかけた。コロルに来る途中に出会った旅人のような、顔色の悪い怪物のような奴だ。
こいつは見た目が怖いから犯人にするか? ほら、ジェイソンとか顔が崩れていて見た目が怖いからやばい奴だろ――って、誰だそいつは!
あ、でもマイケル・マイアースは、マスクの中は見た目感じの良い好青年だから、見た目で決めるわけにはいかんな――って、だから誰だよそいつは!
レザーフェイ――しつこい! 第一今回は窃盗であって、猟奇殺人事件ではない!
というわけでオログの話では、その夜シャネルとオーグノルフの姿を全く見かけなかったという。
そうだろう、二人とも「一人で」自分の部屋や食堂に居たんだからな。
ただ、オーグノルフが西塔で隠れて酒を飲んでいたのを発見したとか。いや、酒はいいんだよ、問題なのは絵画だよ。
以上、城の住人への聞き込みは終わり。
さて、次回は証拠集めだ。
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