イタズラ後編 ~獣族?!~
「おい、ラムリーザ君だったかな? 午後十時になったぞ」
突然耳元で声をかけられて、俺はびっくりしてしまった。
ハッ、寝てた?!
午後十時までがあまりにも長くて、ギルドの居住区で一眠りしていたら、どうやら約束の午後十時になったようだ。
ヴォウラナロが「ジ=スカールを探す用意は出来たか?」と聞いてくるので、「たぶん出来ている」と答えた。
別にこっちは何も用意していたわけではないのだが、出来たか? と聞いてくるので一応同意してみたわけだ。
「見てなって、いくぜ」
ヴォウラナロはなんだか得意げにそう言うと、俺の目の前で何かの呪文を唱えた。
たぶん解呪の魔法だろう。
しかし、ヴォウラナロの手が光った先に、突然――
――獣族?!
俺は思わず身構えてしまう。
異なる見た目をした生き物は、あの野蛮な奴で懲りているので、こいつもまた?! と思ってしまうのも仕方が無い。
「どうか気を悪くしないでくれ、悪気はなかったんだ」
しかし、こいつは普通に意思の疎通ができるようだ。やっぱりあの野蛮な奴がおかしかっただけだということね。
えーとこいつ――、じゃなくて彼がジ=スカールだそうで、やっぱりギルドマスターのジーンヌが気に入らなくてうんざりしていて、時々いたずらを仕掛けて楽しんでいるんだとか。
なんだ、こいつら共犯か。
四人しか居ないギルド、しかもギルドマスターを除くと過半数に嫌われていてこうしていたずらを仕掛けられてしまうジーンヌには同情を禁じえないが、こいつらの言っていることが本当なら、上にこびへつらって手に入れた地位だから、部下には恵まれなくても仕方ないか、と思う。
しかもこいつらは、「そろそ次のイタズラを考えようと思ってたんだ」などと言っている。さらに「彼女を困らせる方法を考えると退屈しないよ」とまで言いのける。
やれやれ、ジーンヌに幸あれ……、だ。
「ジーンヌには俺を見つけたって報告していいよ」
ジ=スカールの言葉を背に、俺は早速報告へと向かった。
「ブルーマギルドは退屈だなぁ……」
閉まりかけた扉の向こうから、ジ=スカールのぼやきが聞こえてくる。
うむ、あれだ。小人閑居して不善をなすってやつかな、全く。
本来の意味と違う? 気にするな、ニュアンスが伝わればそれでいいんだよ。
しかし今度は、ギルドマスターのジーンヌがおらんようになった。
探し続けると、二階の自室で既に就寝中だった。
ああ、午後十時を過ぎていたっけな、早寝をする人はもう寝ている時間か。
それなら俺も寝て、報告は明日の朝一でいいか。
そう思って居住区に戻ったが――
さっき俺が仮眠していたベッドは、ジ=スカールに占領されていた。
しっぽがある、こいつしっぽがあるぞ?
時々ぴくぴく動いてやんの。俺はしばらく、ジ=スカールのしっぽを眺めて過ごしていた。
「ジ=スカールって人――かなぁ? はおったよ、うん。確かにおった、なんかよからぬ企みをしているようだけど、一応おったよ」
翌朝、俺はジーンヌにジ=スカールが見つかったことを報告した。
ジーンヌは、「実は大事な物がなくなってしまって……」と浮かない顔だが、あれだな「魔術の手引き」のことだろうな。
それはそれで置いといて、約束を果たしてあげたので、ブルーマの推薦状を書いてくれることになった。
ラミナスという人に推薦状を送るそうだ。ラミナスって誰だ? まあいいか。
最後にジーンヌは、「訓練を終えても私のことを忘れないでね、きっとお互いに助け合えるはずよ」と言ってきた。
う~ん、この人と助け合うより、あの二人とイタズラの作戦を助け合う未来しか見えないが、まあいいだろう。
こうして俺は、ブルーマの魔術師ギルドを拠点に、この国で生きていくことにするのだった。
前の話へ/目次に戻る/次の話へ