記憶が戻るまでなんとか生活するしかない
ここがどこだか分からないが、俺の知っている世界ではないことがわかった。
記憶が戻る方法がすぐに見つかるわけでもないし、こうなったらこの地で一から生きていくしかないと、なんだか事情が把握できた今、開き直りのような心境になっていたりする。
こうなったらここで何日も、何年も生きてやる。
しかし問題は、意思疎通のできる相手が居ないことだ。
これまでに出会った生物と言えば、話の通じぬ野蛮なずんぐりむっくりと、遺跡の中の骨だけだ。
骨は流石に魔法生物だとわかるが、野蛮な種族は一体何だ?
この世界には、ああいう奴しか存在しないのか?
考える時間はいくらでもある。この世界には俺一人しか理性を持った奴がいない。つまり、一人で考えることしかやることがない。
あの野蛮人も自分の意思を持って襲い掛かってくるのだとしたら、理性の欠片もない原始人みたいなものだ。
待てよ?
ひょっとしてこの地の文明レベルは、俺が元居た国よりもずっと遅れていて、原始時代のようなものだろうか?
――などと思ったが、とりあえず間借りして住み着くことにした塔の内部は、普通に文明的だ。
まずは荷物整理。
今日一日かけて探索した遺跡で、骨を退治するたびに剣を手に入れることができた。
俺にとって剣は珍しいもので集めていたのだが、本数がかさばると重くなりすぎて全てを持ち帰ることができなかった。
とりあえず持ち帰った分は、塔の中にあったショーケースの中に入れてコレクションすることにした。
これで持ち物整理はできた。
さて、次は問題点だ。
俺はこの地に来てから、丸一日何も食べていない。とりあえず塔の中に、食べるものが無いか探してみる。
塔の入り口の側にあった部屋の中には、植物などがあり、物もあったがこれは食べるものではない。
たぶん薬の類だ。蒸留器など置いてあるし、この塔の住人は錬金術師だろうか?
壁に描かれている文字は、さっぱりわからない。
別の部屋は貯蔵庫になっていて、様々な物が保管されている……
……と思ったが、中身はすべて空っぽだった。
食い物は無いのか……
と思ったら、普通に用意されていた。ずいぶんと用意のいい塔だな。
ひょっとして罠か? それともやっぱりこれは悪い夢か?
こんなご馳走を残して、この塔の住人はどこへ行ったのか?
まさか外をうろついている野蛮な奴に殺されたのか?
などと考えながら、しばらくは食事に専念することにした。
地下にはワインがずらりと並んでいる。
絶対この塔は不自然すぎる。何のために作られた塔なのか、さっぱり見当がつかない。
しかし、住むには快適な場所なので、持ち主が不明なのを良い事に、好き勝手させてもらうことにする。
塔の中を調べて回ると、興味深い物を発見した。
この左下の物は、外をうろついている野蛮な奴の生首を剥製にしたものだよな?
つまり、あの野蛮な奴は理性的な生き物ではなくて、この地では狩られる対象ということらしい。
よし、決めた!
今日の仕事は、あの野蛮な奴らを駆逐することだ。
これまでは、この国の住人だと思っていたので、穏便に済ませて殺すことは避けていたが、剥製にされるような奴なら容赦する必要はなさそうだ。
そもそも出会ったらすぐに襲い掛かってくる奴だ、危険な生物なんだろう。
戦うと決めたら怖いものではない。
俺は、見つけた端から得意の破壊魔法で退治して回った。
衝撃波を発する魔法で、どんどん退治していく。
この魔法の名前? さー、適当につければ?
ショック・ポムポムとかでもええんでないか? わからんけど……
遠慮が要らないのは愉快だねぇ。
どうせ話しかけても通じない、降伏勧告にも応じない。狩るしかない。
とくにやることも無い今、俺はモンスター狩りをしばらくの間楽しんで回った。
………
……
…
朝一から狩り続けると、昼前には塔の近辺をうろついている魔物は全て片付けることができた。
魔物の上に座ってしばらく休憩。
いったいこいつは何者なのだろうかねぇ。
さて、危険は排除できたが、塔の中の食料が尽きたらそれはそれで終わっているので、次に食料探しを始めることにした。
しかしこの地はあまり良い土地ではないらしく、目に付く植物はキノコぐらいだ。
これは食えるのか? うまいのか?
取れるものは取っていくしかないが、いざとなったら退治した魔物を食べるしかないだろう。
火を通せばなんとかなる……はず。
となると、食糧事情が解決するまでは狩り尽くさなかった方がよかったかもしれない。
そんなこんなを考えながら過ごした一日だった。
他にやったことと言えば、塔の中にあった釣竿を持って、最初にたどり着いた海辺へ向かい、釣りとかしてたよ。
魚でも釣れるなら、しばらくは生きていけそうだからね。
あ、そうそう。
遺跡にまた潜って、回収できなかった分の剣も持ち帰ったよ。