ここはやはり知らない世界のようだ……
俺は思う。
どうみてもここは住居じゃない、遺跡か何かだ。
人が住むような構造になっていない。
大体次から次へと現れるのが骨、というところが普通じゃない。
俺はこの世界に来てから、野蛮な奴と骨としか、動く生き物に遭遇していない。
いったいここは、どういった世界なのだろうか?
一応戦っているように見えるが、俺は剣を持ったのは今さっきが初めてだ。
だから実際は無茶苦茶に振り回しているだけ、全然戦闘になっていない。むしろ危ない……
というわけで、魔法で片付けることにする。
気がつけばここに居て、以前の記憶が全く無くなっている俺は、話ができる相手を求めて彷徨っていた。
しかしこの地に住んでいるのは、言葉が通じなくてすぐに暴力を振るってくる野蛮人と、遺跡の中をうろついている骨。
野蛮人も骨も、俺の姿を見るやいなや、ものすごい勢いで襲い掛かってくる。
さすがに穏便に済ますことができないと判断した俺は、実力行使、次から次へと沸いてくる骨を、片っ端から粉々にしている。
骨からは退治するたびに剣を奪っているが、攻撃魔法をぶっ放したほうが手っ取り早いので、既に剣は飾りとして扱うことになっていた。
遺跡の奥へ進めば進むほど、骨が襲い掛かってくる。
さすがにこれは、引き返した方がよいのでは? そういう考えも浮かぶが、ひょっとしたら一番奥に、話の分かる奴が居るかもしれない。
そうした期待のみに動かされて、俺は遺跡の奥へと潜っていった。
遺跡には罠もしかけられていて、壁から針のようなものが飛び出してくる場所もあった。
何だかよく分からないが、重要な遺跡なのだろうか……
しかしこの時俺は、一つの嫌な予感が頭の中に芽生えつつあった。
ひょっとしたらこの世界は、文明が滅んで数世紀も経った世界ではないのだろうか?
元々住んでいた人々は、こうして骨になって遺跡を守っているだけではないのだろうか?
それで残ったのは、表に居た話の分からない野蛮な生物だけとなってしまった世界なのではなかろうか?
俺が意識を失って倒れている間に、すさまじい時の流れがあり、その影響で記憶を失ってしまったのか?
脳裏に浮かぶ嫌な思いを打ち消すように、次々と現れる骨を、ちぎっては投げ、ちぎっては――、いや、破壊魔法をぶっ放しているだけだけどね。
気がついたら剣を持ちすぎて、重すぎて動けなくなったよ……
これ以上剣を集めるのは無理だな……、いや、剣を集めて何になるのかは分からないが、なにぶん初めて扱う剣でね、珍しくて集めてみたくもなるもんですよ。
俺は魔法が強いから、剣なんて必要は無いのだけどね、飾りのコレクションだよ。
どこか拠点を設けることができたら、拾った剣は一箇所にまとめて、またここに来て持ち帰られなかった剣を回収しようか。
なんか知らんが、サバイバルを楽しんでいる自分が居るような気がしてきた。
しかし何なんだろうね、ここはいったい。
何が隠された遺跡なのか、何の目的があって作られた遺跡なのか。
遺跡と言うものは、大概何かの意味があるものだ。誰かを葬った墓か、何か大事な宝を保管した場所か。
俺は、後者であることを望みながら、さらに奥へと進んでいった。
一番奥だと思われる場所には、青白く光る霊体のようなものが立っていた。
その霊体に近寄ると、「伝令よ、お前の到着を待ちわびていたぞ」と話しかけてきた。
やった、話のわかる奴が存在した!
幽霊みたいだかこの際何でもいい、話ができるなら何かこの地についてわかるかもしれない。
しかし俺の希望は失望へと変わった。
この霊体の言っている意味がわからない。いや、言葉は分かるのだが、話の内容がさっぱり分からないのだ。
話を要約すると、この霊体はレーマン軍とやらと戦っているのだが、物資が底をつきそうなのだとか。
それで、俺の到着を待っていたとか言うのだが、アカヴィル本国からの通達は何か? と聞いてきたのだ。
俺はレーマン軍なんて聞いたこともないし、アカヴィル本国の人ではない、というかアカヴィル国って何だ? これも聞いたこと無いぞ。
いや、ひょっとしたら知っているのかもしれない。しかし、何も思い出せなかった……
結局適当に答えると、その霊体とはこれ以上意思の疎通はできなくなった。
まぁ仕方が無いだろう、何かの残留思念ということだろう。幽霊と会話なんて、おとぎ話の世界だ。
ちょっと一休み。
この遺跡はここで終わりらしい。
あったのは残留思念が霊体となったものだけ。
そして分かったことは、やはりここは俺の知らない世界だったということだった。
………
……
…
有益な情報を得られぬまま遺跡の奥から戻ってきたら、外はすっかり夜になっていた。
結局事態は進展していない。
今夜もここに泊まらせてもらうことにする。
意思の疎通ができる人がこの塔の持ち主で、戻ってきてくれて話ができますように。
それか、これまでの出来事は悪い夢で、目が覚めたら以前の生活に戻っていますように。
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