肩書きの象徴 その1 ~シェオゴラスの消滅~

 
 ハイクロスからニュー・シェオス、ブリス地区に着いた時には、もうすっかり夜になっていた。
 そこで「難癖乞食亭」というろくでもない名前の宿に泊まり、その翌朝――
 

「ニュー・シェオス宮殿もよいが、内部にオベリスクを二つも抱えているのが気になるぞ」
「火薬を腹に抱えて、撃ってくれと言わんばかりかしら?」
「そうなる恐れが大いにあり得るのだよなぁ」
 
 以前もそう思ったこともある気がするけど、オーダー軍の侵攻が本格的になった今、このオベリスクも十分に警戒しておくようシェオゴラスに献策しておくか。
 どうもあのじじい、後手後手に回りすぎているような気がする。
 そもそもじじいが毅然とした態度を取っていれば、少なくともブレラック砦問題は発生していなかったはずである。
 
 
 さて宮殿に入ったが、シェオゴラスに会う前に進捗確認しておこう。
 

「ん、今度は鐘が追加されたぞ」
「欠けている部分も忠実に再現しているね」
「しかしこの周囲、俺の功績を集めてどうするつもりなのだろうか?(。-`ω´-)」
 
 シェオゴラスもひょっとして俺の熱狂的なファン――というのはやめてくれよ。
 壁の向こうから、フォーカス・クリスタル、反転の盃、ウルフリの兜、ブレラックの鐘と並んでいる。
 これまでの航跡が、くっきりと浮かんでいるね。
 

 そしてシェオゴラスは、玉座から降りた場所、中央でハスキルと向かい合っているのだった。
 俺の帰りが待ちきれなくて、思わず玉座から飛び降りたか?
 その時、ハスキルが俺が戻ってきたのに気がついて話しかけてきた。
 
「時間は僅かですぞ、すぐにでもシェオゴラス様とお話しください」
「んや、ブレラック砦は奪還したよ」
「それはお見事。しかし……」
 
 なんだろう、いやに焦っているように見えるが?
 まあいいや、とりあえずじじいにオベリスクについて注意を喚起しておこう。
 

「戦況報告の前に、言っておくことがあります」
「時間――。時間とは、人工の概念。万物は常に前へ生じるという考えに基づいた、根拠なき体系」
「は?」
「常に進むが、戻りはしない。時間の概念は正しいのか? 時間の意味は? いや、そんなことはどうでもいい。ともあれ、わしは時間切れを懸念していた」
「はぁ。それよりも、庭にある二つのオベリスクについて――」
「懸念通り、計画は失敗した!」
「いや、ブレラック砦は奪還――」
「グレイマーチが訪れた。わしは行かねばならん」
「は?」
 
 どうした?
 今日のじじい、悟りの境地に達しているのか?
 時間の概念について、俺にも考えろと言うのか?
 時間、時間ねぇ……
 この世で唯一、誰にでも平等に与えられている物――、そんなところか?
 
「時間はあった……、チャンスもあったのに。計画も我々も、終わりじゃ……」
「いや、ブレラック砦奪還してきたんだけど?」
「楽観的だなおぬしは! ほれぼれするわい! 最後までお前は笑わせてくれる――とでも言うと思ったか?」
「知らんがな」
「ちっとも面白くないぞ」
「それこそ知らんがな……(。-`ω´-)」
 
 計画も何も、あんたのやってきたことの方が楽観的だと思うけどな。
 前にも考えたが、俺がシェオゴラスなら、セイドンが裏切った地点で丸焼きにしてやるぞ。少なくとも放置して立ち去らせることはしない。
 偉大なるかがり火についても、あんたの寵愛を得る事が原因で内乱が起きていた。
 真の支配者なら、そこはお触書の一つで治められるはずだ。
 結局じじいは、自分が寵愛を受けることにいい気になりすぎて放置していたのだ。
 俺がシェオゴラスなら、寵愛を得るために自分の子供でも食べるなどと、とんでもないことを抜かす奴は、ヘッドバット三連発後パイルドライバーだ。
 
「ま、どうでもよい。じきにおぬしも、皆も死ぬことになる。そしてわしは、『死んだ』王国の統治者たる狂神の座を退くのじゃ。――再びな」
「なんで今日はそんなに悲観的なんだよ。俺がディメンシア公爵を選んだから、それに合わせているのか?」
「わしは滅びる。消える。王国は死ぬからじゃ」
「いよいよディメンシアやのぉ」
「お前もそうなるぞ」
 
 日を改めるか?
 今日のシェオゴラスはおかしい。
 いや、もとからおかしいけど、どちらかと言えばマニア的おかしさが強かったが、今日は思いっきりディメンシア的おかしさが強くなっている。
 まだ陽気な方がマシだ――と、ディメンシア公爵を選んだ俺が述べてみる。
 いや、俺はマニアに行きたかったのだが、この流れは緑娘の策略であって、俺の意思ではないから。
 俺はあくまで、マニア的な考えの方がマシだと今でも思っている。
 いや別にワ=マワーレ、ランズ=イン=サークルに惚れたわけではないからな。あいつから勝手に抱きついてきただけで、俺は知らん。
 
「今のうちに逃げるのじゃ、定命の者よ。次に会う時はお前が誰かも忘れ、他人同然に葬るだろう」
「いや、その時は遠慮なく返り討ちにするから。――ってか、腹の探り合いも疲れる。俺に何をやってほしいのですか?」
「わしはのぉ、おぬしならわしの後継者に相応しいと考えておった。だから我が地位の象徴である杖を、お前に与えるつもりだったのじゃ」
「ワバジャックなら既にもらってますよ。あなたにそそのかされて、ネズミ騒ぎや羊毒殺や燃える狼を降らせたりししてな!」
「あんなのはただのおもちゃじゃ。象徴の杖はそんなものではない。しかし、わし同様その杖からも精気が失われた。役に立たぬただの棒きれになってしまったのじゃ」
 
 そういえば、いつも手遊びしている杖を、今日は持ってないね。
 
「杖がある限り希望はあった。だが今や、希望は死した。わしは死した……」
 

「王国は死した!」
 
 シェオゴラスは、そう叫ぶとうずくまってしまった。
 

 そして――
 

 ――シェオゴラスの身体は光に包まれて――
 

 ――消え去ったのである。
 
「シェオゴラスが消えた。――って緑娘?!」
「何よ、またミドリムスメと言う!」
「よかった、消えてない。ハスキルの言った通り、シェオゴラスのじじいとは関係なかったんだ」
「それよりも、羊毒殺って何かしら?」
 
 細かいところ、よー聞いとんな!
 
「シェオゴラス(の使者)がやったんだよ」
「なにそれ、あのじじい許さない!」
「俺もお仕置きしたいところだが、消えてしまったからなぁ……」
 
 ――ってか、シェオゴラスが消えた?
 これは何を意味するのか?
 俺の知らないところで、オーダー軍が勝ってしまったとでも言うのだろうか?
 
「ラムリーザ殿……」
 
 ん、ハスキルが俺を呼んでいる。
 

「あの方は去りましたが、望みは失われていません。数少ない手段ではありますが、本当に実行すべきかどうか……」
「すでに戦略的に、オーダー軍に負けていることにならないかな? ここまで戦ってきたのは、シェオゴラスを守るためだろう?」
「その通りです。ただし、まだ負けたわけではないのです」
「伺いましょう」
「ジャガラグが宮殿を襲った時に、狂気の玉座が空位のままなら、奴の勝利です。しかし、玉座が空位でない可能性もあるのです」
「なるほど、影武者に代行をさせるのだな」
「影武者である必要はありません。グレイマーチから王国を守る唯一の方法は、誰かを狂気の玉座に据えるのです」
「いったい誰が? ハスキルが?」
「いえ、もちろん貴方ですよ。貴方が新たな狂神となることが、終始シェオゴラス様の意図だったのです」
 
 この時俺は確かに聞いたね。
 緑娘が息を飲むのを。
 この世界の支配が現実の物に近づいたことで、緑娘の高揚する心が感じ取られるわー。
 さあ、剣を取れ! 高揚感を俺に叩きつけるのだ。そうすれば狂気にとらわれるであろう。
 
「俺はデイドラ・ロードではないですよ」
 
 しかし俺は冷静だ、たぶん。
 やったぜ! などと簡単に叫ばない。
 そもそも人間が狂神になれるのか?
 タロスは戦の神になったが……
 
「いかにも。ですが、王位に就くことは可能でしょう。正当な地位の象徴を身に付けたなら」
「その象徴とは? まさか王者のアミュレット?」
「それアカトシュ。狂神に必要なのは、シェオゴラスの杖です」
「でも杖の精気は失われたと言ってましたよ」
「はい、残念ながら。しかし、失われたものは作り直せばよいのです」
「いいねー、建設的なのは俺も好きだよ」
「しかしながら、杖を創造する秘儀は失われております」
「だめじゃん!」
 
 期待させておいてこれだ。
 だからぬか喜びにならぬよう、俺は慎重になっているのだ。
 全てを手に入れる寸前になっているからこそ、これ以上の慎重さが必要となるのだ。
 俺だけが勝っても意味が無い。
 今度は緑娘と共にゴールラインを切るのだ。
 
 ハスキルの話では、秘儀は失われたが、新たな杖を作るための力となり得る存在が、この戦慄の島に居るのだと言う。
 ナイフポイント・ホロウと呼ばれる洞穴内の遺跡は、かつて大図書館として使われていた。
 そこで、答えを目にすることができるはずだと言うのだ。
 
「しかしお気を付けください。過去の秘密はジャガラグに味方するもの。しかし他に道はありません」
「かまわんよ。なんなんらジャガラグも退治してこようか?」
「さて、それはできますかな? ただご注意を。あの地で見知る物、図書館はオーダーの産物なのです」
「問題ない、任せておけ」
 
 

 場所はここ、ディメンシア経由で、スプリットの村に行くつもりで途中で東に向かえば楽そうだね。
 
「よし、最終局面は近いぞ」
「こんどはあたしも最後まで同行するわ」
「頼むぞ! 俺たちはまだまだ終わらんぞ! ペヤングだペヤング!」
「なにそれ?」
「…………(。-`ω´-)」
  
 さてと、そんなわけで、シェオゴラスは消え去ってしまった。
 そして本格的に俺が後継者となるために、シェオゴラスの杖を作り直すこととなった。
 目指すはナイフポイント・ホロウにある、ジャガラグの大図書館だ。
 
 最終局面は近い。
 気を抜くなよ――!
 
 
 
 




 
 
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Posted by ラムリーザ