ゼディリアンの遺跡にて ~罠にしかける餌~
ゼディリアンの遺跡にて――
3つのフォーカス・クリスタルを判断の接続器に設置し直し、判断の減衰器を使って巨大な水晶の塊を調律したところだ。
これでここでの任務は終わった。
後はニュー・シェオスに戻って――
「入り口が閉まっておる……」
「とじこめられたの?」
「う~む……(。-`ω´-)」
一番奥の間に入ってきた時の入り口の門が閉じていて、戻れなくなってしまった。
その代わり、別の部屋に通じる門が開いていて、その中には、床に妙な顔が?
「何らかの転移装置みたいだな」
「転移先は、戦慄の島かしら?」
「それだと何も変わっていないね」
とりあえずこの装置に飛び込むしかないので、思い切って上に乗ってみる。
次の瞬間、俺たちは別の部屋へと瞬間移動していたのであった。
「ようやく、シェオゴラス神が援軍を送ってくれたのか!」
「誰だお前は?!」
「おっと、これは失礼。私はゼディリアンの管理人、キリバン・ニランディルだ」
「訪問者のアクセスカウンターを睨んでいて、777番とか1000番とかの訪問者にコメントを強要するのか?」
「別に私は、踏み逃げなど禁止していない」
転移先で待っていたのは、キリ番睨んでいる――ではなくて、キリバン・ニランディルという者だった。
彼はこの遺跡の管理人で、ゼディリアンのすばらしさをいろいろと語ってくれた。
曰く――
ここは戦慄の島に立ち入ろうとする恐れ知らずな冒険者共に試練を課す場所。
ゲートキーパーが造られて以来は放置されていたことが忌々しかったこと。
フォーカス・クリスタルをグラマイトに動かされたことが忌々しかったこと。
しかし俺たちがやってきて、ここを復旧してくれたことがありがたいと。
「わかったから、ここから出るにはどこに向かえばよいのだ?」
「まぁ待て。君は100番目のシェオゴラス様の使いだ」
「キリ番睨んでいるじゃん」
「いかにも私はキリバン・ニランディル。君が送られたということは、冒険者がこのダンジョンに踏み入ったとしか思えんな」
「踏み入る――、つまり踏み逃げは許さないってことだな?」
「その通り!」
むっちゃ禁止しとるやん。
絶対こいつの作ったサイトには行かないようにしないとな。
その後も彼は、ゼディリアンの仕組みについていろいろと語ってくれたが、要約すると、冒険者の一団を狂気に落とすかあの世に落とすかしなければならないようだ。
冒険者が部屋に入ってきた時に、ディメンシア式に肉体的なダメージを与えるか、マニア式に精神ダメージを与えるか選択できるというのだ。
部屋の監視場所みたいな所に行ってみると、確かにボタンが二つある。
「まずはナールの間だ。冒険者にナールの大軍を仕向けるか、幻覚を見せてナールを巨大化させるといい」
できることは二つ。
一団を殺してしまうか、狂気に囚われさせて住民にしてしまうかだ。
そうしているうちに、三人の冒険者が部屋に入ってきた。
リーダーのオークらしき人物と、ダークエルフとインペリアルかな?
そして部屋の中央には、小さなナールが一匹。
そこで俺は、緑娘に助言を請うてみた。
「さて、どうすればいいと思う?」
「殺したらそれまでだけど、住民にしたらいずれはあなたの臣民よ」
「そうだな、ならば殺さない方向で」
山賊や死霊術師ならともかく、冒険者は一概に悪とは言えない。
そういう者の命は、なるべく奪いたくないってものが、人情である。
俺は、巨大ナールの仕掛けを発動させることにした。
片方のボタンを押すと、床から胞子ガスが噴き出てきたのだ。
実際にはそのガスの影響で幻覚を見ているだけだ。
冒険者視点で見ると、こんな感じだけどね。
三人の冒険者は、逃げまどっているだけだ。
巨大な敵に恐れているようでは、ミノタウロスやオーガと戦えんぞ。
俺なんか帝都アリーナで、ベアー・ザ・ジャイアントという巨大な熊と戦ったこともあるのだ。ショーマッチで……
あとはエルスウェアで巨大ネズミとか?
そのうち、ルーウィンと呼ばれていた盗賊が、巨大ナールに恐れをなして狂ってしまったのである。
「へっへっへっ、冒険者が巨大ナールから逃げ回る様は、いつ見ても滑稽だな」
「同感だ。冒険者を名乗るなら、巨大な敵など恐れない勇気が欲しいものだ」
二番目の部屋は、強欲の間。
見た通り、冒険者は檻の向こうに宝の山を目にするのだ。
しかし、その檻には鍵がかかっていて入れないため、己の欲望に打ち勝たなければならないという。
ピッキングさせてくれる機会さえ与えてくれれば、俺なら不壊のピックで時間さえかければどうとでもなるけどね。
しかしたまには、特定の鍵でしか開かない扉も存在するから、全てが思い通りになるとは限らない。
ここでは、檻の前で火の罠を発動させて冒険者を焼き殺すディメンシア式。
もう一つは、部屋を大量の鍵で満たして、その中から正解の鍵を探し出すうちに狂わせてしまえというものだ。
「くそっ、ルーウィンが居たら簡単に開けられたのに!」
「こじ開けることはできませんか?」
「こんなの無視して先に進もう」
「鍵さえあれば……、鍵さえ……」
冒険者の二人は、そんな会話をしている。
リーダーのオークは先に進もうとしていて、子分のタークエルフは、鍵を探そうとしているのだ。
俺は迷うことなく、無数の鍵を降らせることにした。
「鍵だ! このなかに本当の鍵があるんだーっ!」
ま、気の毒なことに魔術師らしきダークエルフは、鍵の山の中から本物の鍵を探しているうちに、気がおかしくなってしまったようだ。
これだけ多くの鍵を用意する側もすごいと思うけどね。
「とまぁ、正しい鍵は一つも無いのだがね、はっはっはっ!」
「お前性格悪いのぉ……(。-`ω´-)」
後始末はキリバンがやるようだが、まぁ精々がんばるこった。
というよりこの地点で俺は、ディメンシア派ではなくマニア派の方がマシだという結論を出したのだ。
スプリットの村も、マニア――マニック派の人だけにしてしまった方が良いみたいだね。
セディリアン第三の部屋は、大呪の間。
最後の試練に相応しいように、念入りに作られているそうだが、これは死霊術師の領分だからアカン。
ここでもディメンシア派のやり方では、大量のゾンビを呼び覚まして始末してしまうこと。
マニア派のやり方では、死んだと思い込ませて幽体離脱の幻を見せるというものだった。
これはディメンシア派はともかく、普通に死霊術師のやり方と同じになってしまうので、ここでも迷うことなくマニア派、亡霊化の幻覚を選択することにした。
「なんだ?! これは一体……、俺は死んでしまったというのか?!」
リーダーのオークは、崩れ落ちながら叫んでいる。
いや、死んだら叫べないからね。でも幻覚にやられてしまうのだろうなぁ。
「何故だ?! 戦ってもいないのに、なぜ死ぬんだ?!」
暗殺されたのさ……(。-`ω´-)
「違う! これは何かの間違いだ!」
「死なんか、ありえねえぇぇぇ!!!」
とまぁ、リーダーのオークも狂ってしまった。
どうやら自分が幽霊であると思い込んでしまったようだ。
とにかくこれで、侵入してきた三人の冒険者は、みんな仲良く狂気の世界の住民となったのであった。
「侵入者の相手、ご苦労だった。優秀な弟子が居て、シェオゴラス様も鼻が高いだろうね」
「いや、俺は奴に弟子入りした覚えはないぞ。そそのかされて災厄は引き起こしたが……」
「では歓迎の間に行こう。そこで君にプレゼントがある」
プレゼントと言っても、要するに冒険者から巻き上げた戦利品であった。
なにやらオークのリーダー、グロモックという名前らしいが、彼が持っていた珍しい武器を回収できたのだとさ。
あとは、このことをシェオゴラスに報告したら、任務完了だというのだ。
それよりも、珍しい形の剣を貰ったものだ。
「どうだ! ドーンファングという武器らしいぞ、かっこいいだろう!」
「ノコギリザメみたい」
「…………(。-`ω´-)」
ダメだった……
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