ウシュナールの恐怖 ~カジート怖い症候群~
クルーシブル地区にて――
ブリス地区の門前には、マーメイドを模った噴水が置いてあった。
一方のクルーシブル地区では、なんだかよくわからない物を彫られた石と、それを彩る青白い炎があるのだ。
「おいっ、助けてくれっ!」
石のモニュメントを眺めていると、不意に後ろからガラガラ声が投げかけられたりする。
そんなガラガラ声に聞き覚えは無いけどな。
振り返ると、そこにはオークの姿が。
ちなみにオークは善良、オーガは野蛮人。
どちらも顔は怖いが、そこは間違えてはいけない。
「えっと――?」
「ウシュナール・グロ=シャドボルゴブだ」
「はい! ウシュナール卿! サー!」
「俺は騎士ではない! そんなことよりもだ! ネコの乞食が後をつけてくるんだ! きっと俺を食べるに違いない……」
えっと、オークを見るとどうしても騎士扱いしてしまうのは、あのお方の所以だとして――
オークが全て勇ましい者とは限らないのだな。
ネコの乞食――つまりカジートのことだろうが、それを恐れているのだから。
この地区でのカジートは、なんでも屋の店主アージャズダしか知らないが、他にも居るのかな?
「えっと、カジートの事ですか?」
「そうだよ! カジートのビーシャだよ! 怖ぇよ、誰か消してくれよ!」
「カジートだからと言って、差別したら良くないよ」
「なんだよ! どうせお前もネコ好きだろ!」
声はでかいのに、肝っ玉は小さいオークだな!
そんなにカジートが怖いのなら、なんとかしてやってもいいけど、とりあえずはカジート側の話も聞かないとな。
一方的にカジート出ていけでは、それこそ差別である。
「わかったよ、話してみるよ」
「おおっ、頼めるか?! 奴を追っ払ったら何でもするぞ! お前の見たことも無い方法でな!」
というわけで、ウシュナールと名乗ったオークが怖がっているカジートを追い払うこととなったわけだが、ビーシャ?
なんかパンダさん抱えた少女を思い出すが、カジートと言えば先輩だからなぁ……
「うわおっ、びっくりした!」
門のすぐそばに、みすぼらしい恰好をしたカジートが立っていたのだ。
そのカジートは、「主の耳に口づけを」などと牧師みたいなことを言ってきたりする。
「えっと、お前がビーシャか?」
「いかにも俺がビーシャだ」
「ウシュナールに何か用があるのか?」
「ビーシャは、ウシュナールの飼っている犬がいいなぁと思っている。ビーシャも犬が大好きなのだ」
「犬だぁ?」
猫だの犬だの、なんだここは動物園か?
そういえばカジートは猫だけど、犬が進化したような種族は居ないね。
居るとしたら、ラウルフってところかな?
「えーと、ウシュナールが怖がっているので、付け回すのはやめてもらえないかな?」
「やだ。ビーシャはウシュナールの犬が大好きだ」
「そっか……(。-`ω´-)」
「君も犬好きだろ? いいねぇ、いいねぇ」
犬とか猫とか考えたこと無いな。
緑娘なら羊と答えるだろうがな。
なるほど、ビーシャは犬目当てか。
それをウシュナールがつけられていると勘違いするのも無理はないか。
「ねぇ、羊さんはどうなったの?」
「羊さんは元気だよ! それよりも、あれどうしよう?」
「他の町にもっと可愛い犬が居るよ、って言えばいいんじゃないかしら?」
「そんな単純な誘導に乗ってくるとは思えんが、まぁ先輩とか見るに単純だからなぁ」
あれがジ・スカール先輩なら、金塊が他の場所にもっとありますよ、と言えば飛んで行くに違いないね。
そこで、ウシュナールが酒場に入ったところで、ビーシャを再び捕まえるのだった。
「なんだよ? ビーシャは君か犬を嫌いだと賭けてもいいね」
「俺も犬が好きだよ。ブリス地区には、ウシュナールの犬なんかよりも、もっと可愛いのとかかっこいいのとか居たけどなぁ。この100Gを賭けてもいいぞ」
「本当か?! そんなにステキな犬が居るなんて! 見てこよう!」
やはり単純な奴だった……(。-`ω´-)
ビーシャは金を受け取ると、ブリス地区へ向けて駆けていくのであった。
居ないと分かるとすぐに戻ってきそうだけど、その時はまたその時考えよう。
まぁ犬なんてどこにでも居るし、ブリスの犬を気に入れば、ビーシャもそこに留まるだろうということで。
もしも戻ってきたら、金を返せと凄んでやろう。
俺たちは、酒場に入っていったウシュナールを追いかけた。
確かここって病弱なバーニスの酒場じゃなかったっけ?
本当にバーニスが病気なら、伝染るぞ……
「どうだ? あの汚ねぇネコは追い払えたか?」
「ビーシャならブリスに行ったよ」
「本当か?! どうもだよどうも!」
まぁこれだけで人助けになるのなら、簡単な話だ。
ウシュナールも安心したし、ビーシャも新しい犬を求めて旅立った。
俺も人助けができていい気分、三方一両――じゃなくて、俺だけ100G失ったけどな!
「あんたも犬が欲しいんだろ? 丁度昔飼っていたやつが要らなくなったからな、あんたにやるよ」
「いや、別に俺は犬は――」
「そう言うなって、お礼に受け取って欲しいんだ。酒場の外に待たせてあるから、仲良くやってくれよな」
なんだか知らないが、別に要らないのに犬を押し付けられてしまった。
まぁいいか、ペットとして一匹連れて行くのも悪くない。
犬は人類最良の友と言われることもあるからな。
「うわっ、何よこいつっ、きしょっ!」
「…………(。-`ω´-)」
いや、こいつ犬じゃなくてケルベロスだから!
ひょっとしてウシュナールって、ああ見えて実は死霊術師とか?!
こんな奴を押し付けられてどうしろって言うんだよ!!
待てよ、見たことも無い方法で礼をするって言ってたような……
狂ってんな! この狂気の世界は!!ヽ(`Д´)ノ
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