ニュー・シェオスもう一つの顔 ~ディメンテッド派地区クルーシブル~
ニュー・シェオスは、宮殿地区とブリス地区とクルーシブル地区に分かれている。
明るい屋根の建物が並ぶ方が、マニック派地区ブリス。
そして壁で仕切られていて暗い色の屋根をした建物が並ぶ方が、ディメンテッド派地区クルーシブルだ。
その中間地点に、シェオゴラスの宮殿、教会が存在している。
ブリスは一通り見て回ったので、今度はクルーシブルだ。
シェオゴラスから命じられたことはあるが、慌てる必要も急ぐ必要もない。
今はとにかく、この世界を隅々まで知ることが先決だ。
「この地区は、あまり衛生状態が良くないみたいだな」
「酷い色の下水、そのうちクルーシブル病とか発生するわ」
「すでに骨が浮かんでおりますやん」
下水なのかどうか知らんが、やたらと黄色い水が流れていたりする。
これは全部小便かね?
汚い町だなぁ……
とりあえずは、酒場から情報集めを始めよう。
病弱なバーニスの酒場という名前らしいが、病弱ってところがいかにも陰気なディメンシアっぽい。
普通こんな名前を付けるかねぇ? ――って、ブリスにあった難癖乞食亭という名前も大概だけどな。
う~ん、陰気な酒場だ。
マスター以外、人の気がなに一つ無い。
それともあまりの陰気さに、存在感すら超越して視界に入らないと言うのだろうか?
そしてそのマスターも、相当顔色が悪い。
いや、ダークエルフなだけかもしれないけどね。
「こんにちは、もうかりまっか?」
「マスターの病弱なバーニスよ。あまり近づかないで、伝染っちゃうから」
「自分で病弱なって名乗るのな」
酒場の名前はマスターの名前から来ている物で、そのマスター自体が病弱であった。
いよいよ陰気ですなぁ……(。-`ω´-)
たぶんあんな汚れた下水に囲まれているから、病弱になるんだよ。
「で、何かの病気ですか?」
「ええ、死期が近いみたい。そうね。今日がこの世界で過ごす最後の日かもね」
「おいおい、流石に陰気すぎるだろう!」
「はぁ、楽しい人生だったわ……」
やっぱり俺、マニック派かも。
ディメンシアの住人第一号から、もう嫌な予感がしまくりだ。
やっぱこちらがわの世界には、こんなのばかり居るのかね?
これだと「にーにーにーアルゴニアン」の方が、まだマシだ。
「お願い、私のために薬を見つけてきてもらえないかしら?」
「治す薬があるのか? シンデリオンの作ったエリクサーとか、リエセリで見つけた神聖な水とか?」
「私を治せる薬が手に入るのは、ねじれ窟――ノッティー・ブランブルよ。地図だとここだわ」
「ずっと南だね」
「ここの最下層に、奇跡の水が湧き出ているの。言い伝えでは古い像の周りにね」
「覚えておいて、そのうち立ち寄ってあげるよ」
ディメンシアは、いずれ隅々まで探索する。
そのうち、そのノッティー・ブランブルにも立ち寄るとしよう。
この人がそれまでに生きていれば――だけどね。
「ふぅ、陰気なところだな」
「あなたは陰気より陽気が好きそうね」
「にーにーにーにーにー……」
「陰気に狂わないでよ」
なんか俺、双方の影響を受けてたちが悪いような気がする。
うつむいてトボトボと歩きながら、にーにーつぶやく……
こわっ!
次に立ち寄ったのは、お探し物商店。つまり、なんでも屋というわけだ。
店主はテムテムかな?
黄金の剣や、炎魔獣の設計図、魔獣族の情報などを売っているのかな?
店主はカジートの女性でしたとさ。
さて、この世界のアルゴニアンは妙な奴が多かったが、カジートはどうでしょうか?
「ちょうどいい所に来たわ! 災厄と戦うのを手伝って欲しいの」
「ク=シャーラの予言系でしたか……(。-`ω´-)」
そうだった、カジートはこういう面もあるのだった。
店主のアジャズダは、災厄の到来を信じており、その為に備えなければならないと言ってきた。
とりあえずシェオゴラスを黙らせていたら、災厄の七割は防げると思うけどね。
そしてその災厄を乗り越えるために、いくつかの物資が必要なのだそうだ。
崩壊のアミュレットに、乾きの指輪、そして沈静のズボンを探しているというのだ。
アミュレットとか指輪はまだ「おまじない」の雰囲気があるが、スボンねぇ……
とりあえず、この店でも見たことのない錬金素材を買っておいたりする。
「君は災厄って信じるかい?」
「そんなのただの思い込みよ。災厄のせいにする前に、立ち塞がる困難を力でねじ伏せなくちゃ」
「なんというか、君らしいな」
なんとなく緑娘に災厄について聞いてみたが、ある程度予想通りの返事が返ってきた。
羊に毒を与えて始末する災厄だけは、本気で抵抗するだろうな。
武器屋とか民家とかは置いといて、次に気になった施設はここだ。
奇異な物、すなわち珍品を扱った博物館である。
こういった施設は、これまでお目にかかったことは無いですな。
「ようこそ、奇異の博物館へ。私は館長の、ウナ・アーミナです。あら、お知り合い?」
「いや、初めてですよ」
「そなた……、そなたには見覚えがある」
「ユリエル・セプティムですか?」
なんだかデジャヴを感じるような物言いをされてしまった。
結局のところは気のせいだったけどね。
ウナは、いつも新しい展示物を探しているらしく、珍しいものを見つけたらぜひ見せて欲しいと言ってきた。
なんだろう、シェオゴラスの形をした琥珀とか、ディンの遺灰とかが欲しいのかな?
「初めてでしたら、博物館の見学ツアーはいかが?」
「折角だから見ていくか。ミテフラ行くぞ」
「またミドリムスメと言いそうになる!」
こうして、初の博物館体験、どんなものが展示されているか見て回ることになったのである。
「ごらんなさい、目を凝らすとちっちゃなドクロが見えるでしょう? グルマイトに食い尽くされるまで戦慄の島に住んでいた小人族よ」
「ボズマーのことですか?」
「いえ、もっとちっちゃいわ。かわいそうに……」
「なんだろう、森の木陰でドンジャラホイかな? それともピコットさん?」
広い棚に、握りこぶし大の頭蓋骨が一つ。
幸運をもたらす干した首みたいだね。
「これはゲートキーパーの腕よ。かわいそうに、この子は誰かに殺されて――あなたも認める奇異でしょう?」
「認めないぞ(。-`ω´-)」
「伝書バトの手紙を読みましたよ」
「認めません(。-`ω´-)」
この館長は嘘をついている。
俺がゲートキーパーを退治したと言いたげな視線を向けてくるが、俺が退治したゲートキーパーの腕はこんなではなかった。
巨大な剣が生えている感じで、こんな斧など付いていなかった。
だれか知らない人が、ずいぶん昔に退治したゲートキーパーだろう。
「そしてこれは乾燥の指輪よ。水上歩行と水中呼吸が同時にできるの。変でしょう?」
「確かに変だな。矛盾みたいな感じだね」
「ツアーは以上よ、お楽しみ頂けたかしら? 自由にゆっくり見ていってね」
「たった三つの珍品かよ」
「だからこそ、珍しいものを見つけてきて欲しいのよ」
博物館とはすごいなとワクワクした俺が大袈裟だった。
こんなの個人の収集家みたいなものじゃないか。
こんなんなら、俺の集めたデイドラ製品の方が、質も数も上だね。
ワバジャックとか飾る?
「ねぇあなた?」
「なんぞ?」
ウナが立ち去った後、緑娘が俺に聞いてきた。
「さっきの災厄のカジート、乾燥の指輪を欲しがっていたじゃないの」
「ああそういえばそんな話もあったな」
「これを持っていってあげたら、助けてあげるんじゃないかしら?」
「うむ、アジャズダは助かるかもしれんが、ウナは困るぞ」
「後でカジートからもスリ取って、琥珀とか遺灰と一緒にどさくさに紛れて返せば良いと思うの」
「俺にどろぼうさんをやれと?」
「何よ、グレイ・フォックスのくせに」
「……(。-`ω´-)」
嫌なことを思い出されると同時に、グレイカウルを破壊することでグレイ・フォックスが伝説となったことを認識した。
あのカウルを被った間だけ俺はグレイ・フォックスとなり、その正体はバレないはずであった。
それがバレたということは、カウルの神通力も潰えたということなの――だろう。
そんなわけで、今までのように緑娘に陽動作戦を実行してもらい、その隙に指輪を盗み出すこととなった。
「キャー! どちかん!」
「なんですか! 博物館ではお静かに!」
「あなたさっきあたしのお尻触った!」
「何をそんな人聞きの悪い!」
「…………(。-`ω´-)」
緑娘は、相手が女性でも陽動作戦で引き付ける時は「どちかん」なのな。
そんな煽情的な格好しているから、お尻を触られるのだよ。
いや、この場合は明らかに冤罪――というか単なるでっち上げ事件だけどな!
こうして、アジャズダに依頼された乾燥の指輪を手に入れたのであった。
出会いのその日からだな――ってこれは歓送の歌だ。
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