犯人は誰だ ~そして誰も居なくなった~
「死のパーティに参加する準備は出来た? 契約が待っているわよ」
オチーヴァは、いつものように俺の元へと契約を持ってくる。
死のパーティとは何だろうか?
痴のパーティなら知っているが、サングインが主催する……
何でも、他の招待客を皆殺しにするパーティに出席せよとのことらしい。
さすが闇の一党だな、サングインの裸パーティを上回る凄惨なパーティを演出せよとの契約だ。
哀れな五人の参加者全てを、秘密裏に一人ずつ殺していく事が今回の任務、全ての招待客が死ねば、任務完了といった具合だ。
パーティの主催者が依頼人で、参加者は過去にその主催者を虐げていた事があるらしい。そこで彼は、復讐を求めて闇の一党を頼ったのだ。
復讐、よろしい。
だが自分でやらないとな。
パーティ会場は、スキングラードのサミットミスト邸。
門番に会えば、細かい説明は彼がしてくれるという手はずになっていた。
サミットミスト邸は、スキングラードにおける自宅のお向かい近くに建っていた。
そして門番、彼も闇の一党にまつわる者なのだろうな。
「最後の客がやっとついたようだな。お前が中に入ったら俺はドアに鍵をかける。全てが終わるまで出られない。わかったな」
俺はだまって頷いた。
いよいよパーティの始まりだ。
屋敷に入ると、マチルドと名乗ったおばさんが話しかけてきた。
彼女は仲良くしましょうと言ったあと、自己紹介をしてきた。
そして俺に対しても、自己紹介を求めてきたのだ。
招待客は、建物の中に金貨の入ったチェストが隠されていると信じているそうだ。
そこで誰かがそれを見つけ出すまで、建物に鍵をかけて閉じ込めることとなっている。
ということは、俺も金が目的でパーティに参加したことにしなければならない。
だからこう答えた――
「赤ちゃんが病気なのに、お金が無い哀れな男です。レイジィ・マーと申します」
アークメイジだのシロディールの英雄などとは言わない。
参加者も、本当の俺の姿は知らないようだな。
「なんて気の毒な人! でも私も他の皆と同じで金貨を見つけたいのよ。どこに隠されているのかしら……」
ただし、金貨の入ったチェストなど存在しない。
全ては闇の一党が仕組んだ罠なのだ。
こうして、参加者五人を消す仕事が始まったのである。
さて、どうしたものか。
まずはこの衣装を着替えて、パーティに相応しい正装となるべきだな。
そうしないと、誰かが殺されたときに真っ先に疑われてしまう。
そこで俺は、部屋に置いてあった礼服に着替えてみた。
これで何処から見ても、ハシルドア伯爵――にはなれないな。カラーコンタクトとやらでも用意しなければ。
準備ができたところで、早速屋敷の中を見て回る。
すると、客室の一つで金貨探しに参加せずに、暢気に眠っている者が一人。
部屋の中には他に誰も居ないし、扉を閉じれば他の者に気づかれることはない。
こうして一人ずつ始末していくのが、簡単なやりかたかもしれないな。
さらば、貴族らしき人。
プリモ・アントニウスという名前らしいが、今更どうでもいいだろう。
まずは一人片付けた。
あまり長居すると疑われてしまうので、さっさと居間へと向かう。
プリモが殺されたことは、誰も気がついていないのだろうな。
居間には三人が集まっていたので、地下室へと向かってみた。
するとそこには、元帝都軍将校のネヴィルが一人でうろうろしていたのだった。
地下室に置いてある食料を、つまみぐいしようとしているのだろうか。
とまぁ、二人目の始末も終わった。
だんだんと、罪も無い人間を殺すことに抵抗が無くなっている俺が怖い。
だが気にすることはない。どうせ緑娘の居なくなった世界だ。奇麗に飾る必要は無い。
せいぜい、意味不明に、狂おうではないか……
居間に戻ると、そこには二人しか居なくなっていた。
最初に挨拶をしてきたマチルドの姿が無い。
二階に行ったということは、そろそろ参加者は異変に気がついて動き出す頃か。
最初にプリモを片付けた部屋に行ってみると、そこでマチルドは大慌てのようだった。
「なんてことかしら?! プリモが殺されている、ここでいったい何が起きているの?!」
「死のパーティが行われているのさ」
「な、なんですって――」
三人目、仕上がり。
居間を避けて、地下室と個室を往復するだけで、一人ずつ確実に、誰にも見られることなく片付けられそうだな。
残るは、ダークエルフの女性ドヴェシと、飲んだくれのネルズの二人だけ。
この二人のどちらかが居間から離れてくれたら、別々の場所で一人ずつ始末できるのだが。
しばらく様子を見ていたが、ドヴェシの方は、最初からずっと椅子に腰掛けたまま動こうとしない。
だが、ネルズの方が地下室へと向かったので、少し待ってからこっそりと後をつけていった。
ネルズは最初からずっと酒を飲んでいたので、無くなったから地下室にある樽へ汲みに行ったのだろう。
「おい、大変だ! ネヴィルのやつが殺されている!」
「そんな馬鹿な事があってたまるか」
俺はわざとらしげに言ってやったね。
しかしミルズは、完全に怯えきっていた。
「以前にもこんな死に様を見た事があるんだ。昔、村にやってきた山賊に俺の娘が殺されたんだ」
「娘が寂しがっているぞ、傍に行ってやれ」
四人目、仕上がり。
後は、何も知らないであろうドヴェシだけだ。
居間に戻ると、ドヴェシは酷く怯えたように隅でうずくまっていた。
俺が近寄ると、彼女は俺にすがってきた。
「二階でプリモとマチルドが殺されていたわ、ひょっとして私達の中に殺し屋が紛れ込んでいるのかもしれないわ!」
「そうか――」
「お願い、他の者が無事か確かめてきてくれないかしら? ネヴィルは? ネルズは? 脱出しないとダメかもしれないわ! 次に狙われるのは私達よ!」
しかし俺は、そんな彼女を冷たく引き剥がす。
「知らんな――」
「えっ? そんな……、助けて! 私は死にたくない、帰りたいだけなのよ! 帰りたい……」
そして誰も居なくなった……
こうして、哀れな五人のパーティ参加者は、死のパーティの名にふさわしく、全員死を迎えたのであった。
ふと思ったのだが、屋敷から外に出ることはできない。
五人を全員始末してしまえば、目撃者は誰も居なくなる。
一人ずつコソコソと片付けなくとも、一気に五人をまとめて始末しても、たとえ参加者に俺が犯人だと気づかれたとしても、すぐに殺されるのだから関係なかったのではないか?
これから死にゆくものに気がつかれることが、闇の一党にとって何がマズいのか?
よくわからないので、あまり深く考えないことにしよう。
しかし、サミットミスト邸から立ち去り際、ドヴェシの最後の言葉が頭の中で繰り返されていた。
死にたくない、帰りたいだけだと……
緑娘も故郷に帰りたかったのだろうな――
死にたくなかっただろうな――
あはは……
やっぱり闇の一党は、完全にその組織を壊滅させなければならないと、改めて心に誓うのであった。
まともな人間に勤まるものではない、奴らは狂っているのだ。
客観的に見て、俺の行動はどうだ?
きっと俺も、狂いつつあるのだろうな……
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