ヴァッサの秘密 ~セランデル・ポーレの罠~
さて、ヴァッサ・タルナビエの探索だ。
古代の遺跡は、ヴァッサの上層部へと通じているのと、その入り口を開くためのものであった。
入り口を入ってすぐ場所は、先ほど探索した上層部を下から覗き上げるような場所であった。
上層部にあったボタンで通路を確保していたので、迷うことなく奥へと進めるはずなのだ。
それでも迷路状になっていることには変わりない。
上から見下ろしながらだとある程度楽だが、同じ目線で進むとよくわからなくなってしまうことすらある。
そんなわけで、迷路を抜けた先は、よくあるアイレイドの遺跡の広間になっていた。
広間に入ると、先客が居たらしくてこちらへ向かってきたのだ。
「アークメイジよ、よくここまで辿りついたな」
「むっ、ちゃんと俺のことを正確に認識しているお前は誰だ?」
「私はセランデル・ポーレ、ポーレ金鉱の所有者で経営者でもある。君に会うことは大変名誉だと思っているよ」
「出たなポーレ、ここで会ったが百年目、成敗して――」
――と言いかけて、ふと言葉につまった。
よーく考えてみたら、俺自身はポーレから何の迷惑をかけられていない。
ポーレは鉱夫を奴隷のように扱っているだけで、客人に対して失礼な態度を――というより今ここが初対面だ。
「この先に席を用意しておいた。そこに座って待っていてもらえないかな?」
ポーレは、あくまで紳士的に振舞っている。
俺のことをアークメイジと呼んだのは、評価できる部分である。
毎回毎回全く同じ台詞でグランドチャンピオンを褒め称える民衆より、確かに知的だ。
ポーレの言うとおり、広間の中央部はまるで応接間のように向かい合わせで四つの座席が並んでいた。
「どうする?」
「待つしかないだろう」
エウリウス兄弟は何の迷いも無く椅子に座ってしまった。
ログクロズ監督の方は、何かいろいろと思うところがあるような表情を見せていたが、続いて座る。
こうなると俺も座るしかないのかな?
椅子は四つだから一人あぶれてしまうけどね。
こうして代表四人は、椅子に座ってポーレを待つことにした。
しかし――
「はっはっはっ、ひっかかったな!」
その時ポーレは、笑いながら広場に入ってきた。
「君達はよくやってくれた。私は何年もの間、この遺跡を探していたんだ」
「なんだとーっ?」
立ち上がろうかと思ったが、まるで椅子に吸いつけられたかのように立ち上がれない。
ここにきて、ポーレの罠だと気が付いた。
これで俺にも被害が出たが、ここから立ち上がれないには何もできない。
まずいな、天井から恋人の生首が降ってきて噛み付かれるかも……
「おい緑娘、こいつをやっちまえ!」
「あっ、また緑娘って言った!」
「まぁ待て、私の話を聞いてもらおうか」
緑娘をけしかけようとした俺を制して、ポーレは頼みもしないのにいろいろと語りだした。
所謂「冥土の土産」とでも言うものだろうか、こんちくしょう。
ポーレは、最初にスターク島へやってきた時、すぐに金鉱脈の存在に気が付いた。
そしてアレニオンと同様、彼もここにアイレイドの要塞があることがすぐにわかったそうだ。
それからは、アレニオンとどちらが早く遺跡の謎を解き明かせるかという勝負になったらしい。
だが、鉱夫を持っていたポーレの方が、一歩リードしていたわけだ。
そこに、ログクロス監督が騒ぎ出す。
「では何故アンブロギオ神父を殺害して、礼拝堂を焼く必要があったんだ? 神父は遺跡と何の関係も無かっただろ?」
「私は知っているのだよ、お前とアンブロギオが交渉をして、金を横流ししようとしていたのを。それが神父を殺さなければならなかった理由さ」
「なっ、俺はそんなことはやってないぞ! このクソッたれめ!」
そしてポーレは、俺の方へと向かいなおって言った。
「そしてアークメイジよ、君は運の悪いときに入り込んできたのだよ。君の噂を聞くと、私は不安になった。クヴァッチの英雄にして、グランド・チャンピオンよ」
「話を先へ(。-`ω´-)」
「私の野望のためにいろいろと手伝ってくれたことを感謝する。君や鉱夫たちは、私の手のひらの上で踊っていたのだよ」
ポーレのおしゃべりの間、俺はあくまで冷静を装う。
アイレイドの遺跡の奥に隠されたものが、そんな生易しいものではないはずだ。
俺は、ウンバカノの件を思い返していた。彼は古代のアイレイド王に取り憑かれてしまった。
ポーレもまた同じ運命を辿るのではないかな、と。
「君達は殺しはしない、奥へ進むのに必要だからね。ここにある四つの玉座すべてに人が座ることが、最後の扉を開けるための鍵となるのだ。だが立ち去られたら意味が無い。そこで私は立ち上がれなくなる呪文をかけておいたのさ。それで君達は椅子に縛り付けられたのだ」
「卑怯者め!」
ログクロス監督はじたばたともがくが、呪文から逃れられることは無い。
慌てるな、今は負けていても、最終的に勝っていればいいんだ。今はポーレに押されているが、いつまでも思い通りにはさせないよ。
「それではさらばだ。永遠にご機嫌よう!」
そう言い残して、ポーレは奥の部屋へと向かっていってしまった。
………
……
…
「――で、どうするのかしら?」
「待ってみようと思う。何が起きるのか――」
ベンベン、ベンベン――
The Thing 完
………
……
…
しばらくたった後、奥の間からリッチが姿を現した。
やはりポーレは、奥の間に潜んでいた太古の霊に取り憑かれたか、予想通りだ。
「ついに、五千年以上の時を経て、マウグルエはアイレイドの捕獲者より解放された!」
なるほど、ここにはマウグルエという者が封印されていたのか。
ウンバカノの時は、リンダイだったっけ、ネナラタだったっけ?
「そして親切にも、わしが復讐の軍隊を作り上げられるように、生贄をを用意してくれたようだ」
マズい、リッチのマウグルエは、俺達を殺して死霊軍団にしてしまうつもりだ。
しかし席から立ち上がれない!
そしてマウグルエは、アマリウス兄貴をあっさりと殺してしまった。
しかしそれが引き金となって呪文の効果が消え、俺は自由を取り戻せたのだった。
「そう思い通りにはいかないぞってんだ!」
アマリウス兄貴が犠牲になったのは残念だが、自由になったらこっちの物。
得意の霊峰の指改で、マウグルエを葬ってやったのだ。
今度こそ、永遠の眠りにつくがよい。
マウグルエの死骸を調べていると、我に帰ったアレニオンは言ってきた。
「アマリウス……! 私はこのような邪悪な物が島の地底に封印されていたとは思わなかった! 君はこのことを隊長に話すべきだ!」
「兄貴のことは残念でした……(。-`ω´-)」
「あなたのせいじゃありません。どうかこのメイスを受け取ってください。兄が大事にしていたもので、あなたなら使いこなせると思います。そしてあのリッチから私だけでも助けてくれて、ありがとうございます!」
とりあえずこれで、この遺跡の謎と自由を得る事ができたわけだが、もう一つ確かめておかなければならないことがある。
ポーレが、どうなったか、だ。
ここから奥に進んだところで何があったのか。このリッチに乗っ取られたのかどうかを。
俺は、遺跡のさらに奥へと向かった。
リッチのマウグルエを始末したことで、封印は解けた後のようで、何の問題も無く奥へと進む事ができた。
( ^ω^ )( ^ω^ )( ^ω^ )( ^ω^ )( ^ω^ )
人が死んでこんなに嬉しかったこと、生まれて初めての体験かもしれない。
こんな経験、たぶん一生でめったにお目にかかれない場面だぞ。
ポーレが殺された! ポーレが殺された!
大事なことなので、二回述べました。
そして思わず言葉に出していた。
「やった、ポーレが死んだ」
「無茶苦茶嬉しそうね」
「死ぬべき悪党が死んだ。そして彼は金鉱の経営者、これが何を意味するか分かるか?」
「はぁ……。その勢いであのマーティンが居なくなったら、帝国の支配権もさっくり横取りしてね」
こうして、ポーレは死んだ。悪党は受けるべき報いを受けたのだ。
俺は、ことの顛末を隊長に知らせる為に、地上へと戻った。
隊長って誰だ? と思ったが、最初に会った軍隊長キャプテン・カルリッリョ・スタークだということにすぐに気がついた。
「隊長! 島の地下には太古の呪い、マウグルエが潜んでいました。でも大丈夫、もう始末してきましたよ」
「えらいっ! 私はあなたの勇敢さについて皆に語るだろう! お礼として君にスタークの鎧と盾、そしてレイピアを差し上げよう」
「ありがとうございますっ」
「さて、金鉱山についてだが、閉鎖も考えている。ポーレには他に親類も遺書も無いので、財産を鉱夫に与えて鉱山は終わりにしようと――」
「待ってください」
そこに現れたのは、リリィさんだ。
「金鉱山は、魔術師ギルドが所有権を引き継ごうと考えております」
「そ、それは構わないが」
「鉱夫に苦労はさせないので、安心してください」
そんなわけで、最後の最後であっさりと鉱山の権利をポーレから奪ってやったのであった。
カルリッリョ隊長も、マウグルエ問題を解決したのが魔術師大学のアークメイジだったというのもあり、リリィの提案に強く反対できないというものもあった。
リリィは鉱夫の取り分を七割、魔術師ギルドに納めるのを三割といった具合に、年貢で米を納めるのと比べて割と民衆に負担の無い割合を設定してきた。
無論、薬や食料の差し入れも有りだ。ポーレが無茶苦茶だっただけなのだ。
こうして、スターク島での鉱山問題はいろいろとハッピーエンドを迎えたので、ある。
アンブロギオ神父、アマリウス兄貴、君達のことは忘れないよ、きっと。
おまけ