はぐれた羊探し ~巨大羊~
今日は魔術師大学の傍にある水辺でのんびり過ごしていた。
今現在この国は、オブリビオンの動乱の脅威にさらされている。
しかし一時の休息ぐらいあったもよいはずだ。
滝の音は心が洗われる。
世の中には滝つぼの下に立って、滝を浴びる修行もあるようだが、やりたいとは思わない。
こうして昼寝しているのが一番だ。
ミーシャもこの場所は気に入ったみたいで、動物達に囲まれて楽しそうだ。
この位置なら、よっぽどのことが無い限り、オブリビオン・ゲートも開くことは無いだろう。
ブルーマを侵攻する作戦として、囮のゲートを開くという情報が入ったりしていたが、今すぐには動くことは無いようだ。
王者のアミュレットが敵の手にある以上、こちらから先手を打ってゲートに対処することはできないからね。開いたゲートを閉じるしかできない。
「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹――」
緑娘が羊の数を数えている。
ん、寝るぞ。敵襲以外、起こすな。
「あれっ、羊が四匹しか居ないわ。ミーシャちゃん、五匹目の羊はどこにやったの?」
「ミーシャ四匹しか羊預かってないよー」
「違うの、今五匹居るはずなのよ!」
「五匹目の羊なんか預かってないよー」
なんだか緑娘が騒いでいる。
羊が四匹だろうが五匹だろうが関係ないだろうが。
ひょっとして、ウォーターズ・エッジでの一件がばれたか?
「ちょっと起きて!」
「何ぞ?」
「羊が足りない!」
「ちゃんと四匹おるやん」
「五匹居るはずなの!」
んー、よくわからん。
筋道立てて、詳しく説明してもらおう。
緑娘の話では、現在羊が五匹居るはずで、ここに四匹しか居ないのが気に入らないらしい。
レヤウィンからミーシャをこちらに連れてくる時、確かに羊は四匹だった。
「俺の記憶では、ウォーターズ・エッジに連れて行ったのと、最近増えたので四匹なのだが?」
「港から三匹連れて行く前に、一匹買って連れて行った!」
「あれ、そんなことあったっけ?」
「その後アンヴィルの港から三匹連れて行った!」
「しかしその三匹は――っと、そうだったね!」
危ない危ない、ウォーターズ・エッジの惨劇を口走ってしまうところだった。
ということは、最近増えたのを合わせると、確かに五匹居るはずだ。
「レヤウィンに置いてきちゃった、どうしよう」
「しょうがないなぁ。またダケイルさんに予言してもらって探しに行くか」
そんなわけで、せっかくの休日は潰れてしまったのであった。
「ダゲイルさん、予言お願いします! レヤウィン郊外の近辺で、一匹だけでうろついている羊は居ませんか?」
「アークメイジの頼みじゃ、無下にすることはできん。待っておれ、ぴてか~んとろぷ~すえれくと~す――」
「占いの時の呪文は、やっぱり謎なのですね」
「わなわな~げたげた~ふ~にょふ~にょ~と」
「わかんない言葉でしゃべっているよ……(。-`ω´-)」
以前、と言ってもだいぶん昔だが、推薦状を集めていた時に一時レヤウィンの支部で寝泊りしていたことがある。
その時は、朝起きたらいっつもダゲイルさんが予言を持ってきて、あっちへこっちへ帆走させられたものだ。
しかし実際に予言を占う現場に立ち会ってみると……
カルタールが造反したのも、このあたりに原因があるのかもしれんな……(。-`ω´-)
「予言が下ったぞ。東の森、水辺と出た! 不可思議と出た! 魁偉と出た! 遺跡と出た!」
「ありがとうございます!」
「ところで別の予言がそなたに下っておるのじゃが――」
後は聞かなかったことにする。
俺は急いでレヤウィン支部から飛び出していった。
さて、キーワードは、東の森、水辺だそうだ。
不可思議とか魁偉とかはよくわからんが、ブラックウッドの森にある水辺のどこかということだろう。
しかしこの辺りは森と言うものの、実質は湿地帯。水辺と言える場所は、いくつかあったりするのだ。
暗い森の中、不気味に赤く輝くキノコとか発見したが、こんなのドクキノコに決まっている。どうせカエンタケみたいなものだろう。
こうなると、不可思議とか魁偉は置いといて、遺跡というキーワードを探ってみよう。
この近辺にある遺跡、アイレイドの遺跡といえば、北からアタタール、アルペニア、そしてヴェヨンドとミリディス。
町の反対側も範囲に入れるならテリープという遺跡もあるが、そこは水辺ではない。
水辺の遺跡と言えば――
「やっぱりここかなぁ」
「水辺に囲まれた遺跡ね」
ここはミリディス。かつて、ダゲイルさんの予言でよくないことを調査したことがある。
結局は遺跡の落盤事故が発生しただけで、駆けつけたときには手遅れとなっていた。
そういえば巨大なカニも居たっけな。
巨大蟹がまた復活していないか、用心しながら遺跡へと向かうと――
「ちょっ、おまっw」
「うっわぁ、すっごいもふもふ~♪」
「いや、ぜったいおかしいってそれ!」
「うん、これがあたしの連れてきた羊の一匹に違いないわ」
「どう考えても違うだろ?」
そこには不可思議な現象が発生していた。羊が背丈で俺たちと同じぐらいになってしまっているのだ。
どうやらこの遺跡周辺には、生き物を巨大化させる何かがあるらしい。
カニが巨大化したように、この羊も何らかの力で巨大化してしまったのだろう。
草でも食べたか?
どっちみち、巨大化しすぎていて遺跡の壁の間を通れないから連れ出すことはできない。
連れて帰るには、元のサイズに戻すしかないと思われる。
たった数日でここまで大きくなるわけが無いから、何か魔力的な力が加えられているのに違いない。
そこで俺は、再びダケイルさんの所へ戻り、大きくなった羊を元に戻す方法を聞きに行った。
ああそうか、魁偉って巨大とかそういう意味があったんだね。
「ダケイルさん!」
「予言を受け入れる気になったのかえ?」
「巨大化した羊を元に戻す予言を受け入れます」
「変性術に関しては、シェイディンハルのディーサンを頼るがよかろう。ところでそなたの予言じゃが――」
「緑娘――いや、こっちのテフラの予言をしてやってください!」
「そっちの娘さんか? う~む、不敬は身の破滅と出ておる」
「心当たりありまくりなのが怖い所だ……(。-`ω´-)」
というわけで、変性術についての研究が盛んな、シェイディンハルの支部へと向かうことになった。
………
……
…
魔術師ギルド、シェイディンハル支部。現在は、ディーサンがマスターを務めている。
元々はファルカーというおっさんがマスターを務めていたのだが、彼は死霊術師と繋がっていたため、シローンの遺跡で対決した後、お星様になってしまった。
「ディーサンさんこんにちは」
「二重敬称みたいになるから、ディーサンでよい。ところでアークメイジがこんな所に何の様で?」
「魔力で巨大化してしまった生物を、元の大きさに戻す術か薬はありますか?」
「軽量化の術を応用すれば作れる。術を覚えるかい? 薬を使うかい?」
「あんまり汎用性無さそうなので、薬でいいです」
「では調合してあげよう。少し待っていなさい」
錬金術か、やるやる言っておきながら、全然やっていない分野の一つ。
召喚術と錬金術は、どうもいまいちやる気が出ない。
戦いなら、破壊術でどっかんがやっぱり気分良いからね。
「ほい、できましたよ。これをかけると、元の大きさに戻るでしょう」
「ありがとうございましたっ」
薬ができたので、再びレヤウィン地方にある遺跡、ミリディスへと逆戻り。
巨大化した薬に、元に戻す薬をかけてみる。
この遺跡近辺は、罠なのかもしれないね。
狭い隙間を通って遺跡の敷地内に入る。すると身体が巨大化して出られなくなってしまう。
ひょっとして、食糧難に備える為に作られた遺跡なのかもしれない。
こうして、羊は元の大きさに戻り、遺跡から連れ出すことができたのであった。
「これで全部だな?」
「ええ、羊は五匹。これで全部よ」
「よし、こいつを連れて戻ろう」