帝都インペリアルシティの囚人
俺の名前はラムリーザ、シロディールという国の首都、帝都インペリアルシティの囚人である。
――ぬっ、第三章と同じ始まり方になってしまった。
話のタイトルも全く同じとなってしまうが、仕方が無い。事実、そうなのであるから……
グレイ・フォックスとして帝都の牢屋に囚われてしまった俺は、そこで結構長い期間無駄に過ごすこととなってしまった。
もっとも、逮捕されたのはグレイ・フォックス、グレイ・カウルを身に付けし者だ。しかしその頭巾を外してしまえば、グレイ・フォックスとはみなされなくなってしまう不思議な頭巾だ。
その頭巾の魔力のために、本来善良な市民であるはずの俺は、こうして牢屋の中にぶちこまれてしまったというわけだ。
そんなある日、俺は何故か正面の牢屋に入れられている奴になじられるハメになっていた。
奴はおれの事を珍しい種族などと挑発してくる。
「俺ら平凡な民族でも生きてここから出られないんだからな! そうだよ、お前はここで死ぬんだよ!」
「調子に乗るなよな、いまに思い知らせて――」
そっちがその気なら、こんな扉こじ開けてそっちに行ってやろうか?
盗賊ギルド潜入作戦も伊達ではなかった、今ではピッキングもお手の物――って、不壊のピックが無い! ダメじゃん!
元々持っていた荷物は、牢屋に入れられる前に全部取られたのだった……(。-`ω´-)
その時遠くから誰かが、一人ではない、複数の足音が近づいてきた。
「せがれは……みな殺されてしまったのだろうか?」
「我々には分かりかねます、陛下。使者は彼らが攻撃を受けた、とだけ言っておりました」
何か小声で話しているようだ。衛兵だろうか?
なにやら「陛下を安全な場所までお連れする」などと言っている。
へいか? 陛下? 塀か? へ~
「おい、聞こえるか? 衛兵が来たぜ……、お前の牢に! へっへっへっへっ――」
「黙れ。不壊のピックが無くても、開錠の魔法がある」
「こらっ! この囚人はここで何をしている?! この檻は立入り禁止のはずだが……」
そういえば衛兵が近づいてきていたのだった。
衛兵は、俺の入っている牢屋の前で立ち止まり、怒鳴りつけてきた。
グレイ・カウルを身に付けていない俺は無実なはずなので、ここは冤罪を主張してみよう。
「俺も知らんよ! 出してくれ、俺は無実だ!」
「黙って窓まで下がれ。邪魔をするようならば、躊躇いなく貴様を殺すぞ」
「ほーお」
なんともまぁ好戦的な衛兵だが、ここは素直に下がっておくか。
扉を開けてくれないことには、どうしようもないからな。いや、開錠の魔法で出られるけど、できることなら合法的に出たい。
何しろ俺はもう、グレイ・フォックスではないのだからな。
衛兵は、俺をじっと監視しながら鉄格子を開く。そしてなだれ込むように次々と牢屋の中に入ってくるのだ。
しかし、衛兵に率いられて入ってきた高貴そうな人物を見た瞬間、俺は驚いたね。
「へー、おっさんが――じゃなくて、あなたは皇帝陛下! 一期一会のトゥルットゥー!」
素早く頭を下げてみせる。
誰が来たのかと思えば、現在この国の皇帝陛下であられるパルパ――じゃなくてユリエル・セプティムではないか。
皇帝陛下に無礼な態度を取って、ほっほっほっと許されることは普通有り得ない。この世界はガキの書いた物語ではないのだ……
しかしなぜ陛下がこんな牢屋などに?
「顔を上げよ」
「なんでしょうか?」
「そなた……、そなたには見覚えがある」
「他人の空似でしょう、何処にでもある顔ですよ」
「いやその声も――、ではなくて君はアークメイジのラムリーザではないか? こんな所で何をしておる?」
「あっ、俺の事――、いや私の事をご存知なのですね。それなら話は早い、陛下の権限でなんとかここから出してください」
「私の権限は手順を守らせる為にあるのであって、手順を破るところにはないのだよ」
「そんな本部長みたいなこと言ってると、臨機応変とか言ってる奴に暗殺されますよ」
「何てことを言うのだ!」
おっと、ちょっとふざけすぎたか、衛兵に怒られてしまった。
しかし、暗殺と言っただけで陛下も含めて顔色が変わりすぎ。そうビビることも無いでしょうに。
いや待てよ、確かに不吉なことをいい過ぎて無礼に当たるか。これは反省……(。-`ω´-)
「それで、陛下がこんなところに何の用ですか?」
「せがれたちが暗殺者に襲われたのだ、次は私の番かもしれない……」
暗殺者? 暗殺?
冗談で言ったことだったが、まさに今その事態が起きているとはな。
俺は一瞬緑娘の顔がちらついたが、彼女がそこまでやるとは思えない。
いや、俺が投獄されて居なくなってしまったので、自暴自棄に陥っている可能性もありかねん。
そういうわけで、皇帝陛下ユリエルは、護衛に守られて秘密の脱出ルートを通って避難しているのだとか。
「しかしアークメイジがこんなところに居るとはな。何か我々を巡り合わせるために、神々がそなたをここへと導いたのだろう」
「悪いのはグレイ・フォックスですよ」
「グレイ・フォックス? 奴は伝説に過ぎないと、クインティリアス隊長は言っていたぞ」
護衛の兵士は、グレイ・フォクスの名を聞くと、帝都の衛兵長の名を挙げて否定してきた。
もう別にそれでもいいよ。グレイ・カウルはぺっちゃんこになって、部屋の隅に転がっている。グレイ・フォックスは二度と世界には現れない、はず。
そして護衛は皇帝を先へと促した。
「追跡はされておりません、陛下。先をお急ぎください」
「あ、ちょっと待ってください。俺――私はここから出てもいいですか?」
「自らの道を見つけるが良い。だが気をつけよ、終焉に至る前に、流血と死が待っているだろう」
「物騒だなぁ……」
そう言い残すと、皇帝ユリエルは、牢獄の壁にできた隠し通路へと向かっていったのだ。
まあよい。
表から合法的に出て行くとするか。
閉じられているじゃないか!
そういえば、護衛は追跡者を防ぐとか言っていたので、後方の扉を閉じていったのだろう。
「あんたみたいな犯罪者は帝国に汚名を残すぜ、分かるだろ? 一番良いのはお前が消えることなんだよ」
「お前も犯罪者だろ? ってか、衛兵来たけどお咎め無しだったぞ」
「法が何と言おうと、奴等があんたに何と言おうとも、お前はここで死ぬんだよ。死ぬんだ!」
「はいはいわかったわかった」
正面の奴は、まだ憎まれ口を叩いている。
長期間の牢獄生活で、心に余裕がなくなっているのね、気の毒なことだ。
しかし正面から出ようとしたら、皇帝陛下を追っている暗殺者と正面衝突するかもしれんな。
やはり彼らの後を追う方が、どちらかと言えば安全かもしれない。
少なくとも、背後を取られることはないのだからな。
こうして、再びラムリーザを取り巻く周辺の歴史が動き出した――
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