盗賊ギルド物語最終話 ~グレイ・フォックスの最後~
俺の名前はラムリーザ。シロディールという国のアークメイジであると同時にグランドチャンピオン。しかし裏の姿は盗賊ギルドマスター、グレイ・フォックスだ。
先代グレイ・フォックスから、帝都港湾地区にある盗賊ギルドの本部へと行ってみることを勧められたところだ。
ギルドの本部はここ、一番最初に入団試験をやった時、アーマンド達が集まっていた所だ。
ここでどろぼうさん競争をやったのが、つい昨日のように思えてしまう。
本部はそこに入り口のあるダレロス邸だ。恐らくグレイ・フォックスも、ここに潜んでいたに違いない。
ダレロス邸の奥にあった私室は、特に何の変哲も無い部屋だ。
壁にはグレイ・フォックスの手配書が貼られていたりするが、自分の手配書を貼ってどうするのだろうか?
自分をなかなか見つけ出すことのできない衛兵をからかっていたのか?
棚の上には、見覚えのあるサヴィラの石が飾られてあった。
これは占いに使えるそうだが、俺も使いこなせることができるのだろうか?
その隣にある机には、本と二枚の手紙。
一枚は、港湾地区の徴税記録。そしてもう一枚は、レックスの異動指令書であった。
なんだか思い出の品物がいろいろと並んでいるね。
しかし、盗賊ギルドは今日で終わりである。
グレイ・フォックスとなった俺にどこまで権限があるのかわからないが、ギルドマスターには解散の権利もあるはずなのだ。
そんなことを考えながら、階下へ降りる。
私室の下が、ギルドホールとなっているらしい。
「おお、君はラムリーザじゃないか!」
「げっ、アーマンドさんにメスレデルにアミューゼイ、俺はグレイ・フォックスでありギルドマスターだぞ」
「またまたー、君はグレイ・フォックスではなくてラムリーザじゃないかー」
「む、ひょっとしてこれは……」
俺は担がれたのか?
それとも……
「これでも俺がグレイ・フォックスでないと言うのか?」
「おお、グレイ・フォックス!」
「わが主!」
途端に皆態度を変えて、俺を賞賛し続ける。
こいつらの目の前でグレイ・カウルを被ってやったのにな。
「ところでさっきまで居たラムリーザはどこに消えたのだ?」
アミューゼイの奴が変なことを聞く。
俺が仮面を被っているところを見なかったのだろうか?
いや待てよ……
俺は、先代のグレイ・フォックスが言っていたことを思い出していた。
呪いは解けたものの頭巾の魔法により、頭巾を被っていればギルドの盗賊たちはギルドマスターの交代には気付かない。
しかし不思議なことに、頭巾を外せばその瞬間自分はグレイ・フォックスではなくなる――、と。
そこで一つ試してみた。
今度はこいつらの目の前で頭巾を脱いでやる。
「おおラムリーザそこに居たのか」
「グレイ・フォックスは行ってしまわれた、なんとも神出鬼没な方だ……」
こいつらは俺を本気でからかっているのか、それとも魔法の力が本気ですさまじいのかわからん。
大体首から下は元の姿のままなのに、ラムリーザとグレイ・フォックスを見分けているのだから不思議すぎる。
まぁ世の中には首から上がグレートのマスクで、下はテリーマンのままなのに――いや、なんでもない。
これは緑娘にも試してみようかな?
俺は、グレイ・カウルを再び被り、港湾地区の自宅へと戻った。
「ちょっとグレイ・フォックス! あたしの家にかってに入ってこないでよ!」
「いや、俺ラムリーザなんですけど……」
「ふざけないで! さっさと出て行かないと、目に物を見せ付けるわよ!」
「わかったよ」
そこで俺は、グレイ・カウルを外してみた。
「あれ? ラムリーザお帰り」
「ん、なんだか騒いでいたみたいだが?」
「さっきこの家にグレイ・フォックスが勝手に入り込んできたのよ」
「何かを盗みに来たんじゃないかな?」
「それで、盗賊ギルドはどうするのかしら?」
「ああ、そうだったな」
そこで俺は、もう一度グレイ・カウルを被ってみた。
「またグレイ・フォックス! さっき出て行けって言ったでしょ!」
「これは本物だな……」
「早く出て行け!」
「はいはい」
俺は緑娘に追い払われるように、自宅を飛び出すのであった。
これは本物だ。
緑娘が俺を担ぐとは思えない。
これを被った瞬間俺はグレイ・フォックスとなり、脱いだ瞬間ラムリーザに戻るのだ。
さしずめ、ラムリーザ博士とグレイ・フォックス氏といったところか。
薬ではなく仮面と言うところがよい。仮面がある限り元に戻れるし、仮面を失えばグレイ・フォックスが消えるだけで本体には影響は無い。
これが薬の場合だと、段々と悪が強くなってしまい、元の自分に戻れなくなるという悲劇があったようななかったような……
こうして、俺の第二の顔、グレイ・フォックスとしての人生も始まったのだ。
どろぼうさんも、この仮面を被ってやれば、ラムリーザではなくグレイ・フォックスがやったことになる。
ん、心が悪に傾いておるか?
「やあみなさん、しっかりやっとるかね?」
「お、お前はグレイ・フォックス!」
「ほー、魔術師ギルドの人にも俺の正体は分からんと見えるな」
「通報しろーっ!」
やれやれ、グレイ・フォックスの悪名も散々たるものだな。
……?
「グレイ・フォックス! ついに見つけたぞ!」
「衛兵はやっ! こんな時だけ機敏に動いてないで、普段からだな!」
「今度こそ逃がさないぞ!」
「まあ待て、俺はアークメイジのラムリーザ――」
めんどくさいので仮面を外そうとしたが、衛兵達に腕を抱えられてそれも叶わなくなってしまった。
ちょっと待て! このままだと俺がグレイ・フォックスとして逮捕させられてしまう!
「待ってくれ! クインティリアス隊長はグレイ・フォックスを信じてなかったじゃないか!」
「だがこうして目の前に居る!」
「ついにグレイ・フォックスを捕まえた! レックス隊長は正しかった!」
「…………(。-`ω´-)」
………
……
…
こうしてグレイ・フォックスは逮捕され、伝説も終焉を迎える時が来たのであった。
そして指導者を失った盗賊ギルドは混乱をきたし、その活動にも陰りを見せ始めるのだった……
「――じゃねーよ!」
なんで俺がグレイ・フォックスとして逮捕されなくちゃなんねーんだよ!
確かに窃盗はやった!
帝都の宮殿に忍び込んで、エルダースクロールを盗み出してやったりもした!
しかし容疑は窃盗、横領、偽造、スリ、贋金製造、不法侵入、窃盗共謀、重窃盗、脱税、虚偽の流言、詐欺、背信行為、不敬となっているが、この中には俺には心当たりが無いものまで含まれているのだ。
これらは全部、先代以前のグレイ・フォックスがやってきたこと。
俺はこれらの罪を全部一人で被ってしまったのだ……
もうグレイ・フォックスなんてこりごりだーっ!
盗賊ギルドなんか知らん! 勝手につぶれてしまえーっ!
俺はグレイ・カウルを牢獄の地面に叩きつけ、踏み潰してしまうのだった。
これでもう、グレイ・フォックスはこの世界に存在しないことになるのだ。
こうしてグレイ・フォックスの伝説は、あっけなく終わった……
「お前は何だ? 今までにお前みたいな変なのは見たことがないぞ」
「なんだと?」
気がつけば、向かいの牢獄に閉じ込められている囚人が、俺に罵声を浴びつけてきていた。
「なんとも珍しい種族を、奴等は檻に捕らえたもんだな。そんな珍しいのを、奴等がそう簡単に檻から出すわけないよな。末永~く飼うんだろうな」
「違うぞ、捕まったのはグレイ・フォックスであって俺ではない!」
「馬鹿にするな、俺はグレイ・フォックスを知っている。お前みたいな奴じゃねーよ」
「……まぁそうなるわなぁ、仮面を外すと」
「俺ら平凡な民族でも生きてここから出られないんだからな! そうだよ、お前はここで死ぬんだよ!」
「…………(。-`ω´-)」
どうしてこうなった?
どうしてこうなった?
「おい、聞こえるか? 衛兵が来たぜ……、お前の牢に! へっへっへっへっ――」