究極の強奪 最終話 ~グレイ・フォックスの正体~
さて、グレイ・フォックスから依頼された最後の大仕事を成功させ、星霜の書を帝都の宮殿から盗み出したところだ。
早速オスレロスの家で待つグレイ・フォックスの所へ向かうことにした。
「巻物を手に入れたのか?」
「ふっふっふっ、それはどうかな?」
「手に持っておるではないか! あっぱれな活躍だ、あっぱれ!」
「どうもこの人は、あっぱれが多いのぉ……(。-`ω´-)」
グレイ・フォックスは興奮を抑えきれぬようで、巻物についていろいろと語りだした。
曰く、巻物の解読法に7年を費やし、それでも捜し求めていたこれの判読には時間を要するだろうと。
判読するのは良いが、目が見えなくなっても俺は知らんからな。
「さて、これからどうなるのかな?」
「次はこの指輪をアンヴィルに居るアンブラノクス伯爵夫人に届けてくれ。ただし私のことはしゃべるな、彼女の反応を知りたいのだ」
「ではどうすればいいのですか?」
「そうだな、『コルヴァスに届けてくれと頼まれた』とだけ言うんだ。そして彼女の反応を報告してくれ」
グレイ・フォックスから、今回はすぐに次の指令がやってきた。
仕事の内容はどろぼうさんではなく、ただの届け物だ。結婚指輪らしいが……
俺も結婚指輪持ってるぞ、貰い物だが「深海のかがり火」という便利な指輪をな。
この仕事が星霜の書の解読と何の関係があるのかわからんが、とりあえず簡単な仕事だからアンヴィルへ直行っと。
「あっ、ラムリーザ。戻ってきたのね?」
「俺が戦いに出て戻ってこなかったことがあるか?」
「あるわよ」
「…………(。-`ω´-)」
たぶん俺の知らない過去の話だ。
「よっと!」
「何を鞍馬しよる」
「仕事じゃないなら一緒に行くわよ」
「一応仕事なんだがなぁ……」
「今度は何の仕事なのかしら?」
「グレイフォックスから、えっと――誰だっけ? コルヴァスだったかな? そいつにアンヴィル伯爵夫人に届けてくれと頼まれた」
「なんだか曖昧な指令ね、コルヴァスって誰よ」
「知らんよ」
まあいいか、アンヴィルにも自宅があるし、今回の仕事は伯爵夫人に会うだけだ。
緑娘が同行していても問題無かろう。
………
……
…
道中は割愛してアンヴィルに到着ね。
長々とエルスウェアに居たので、アンヴィルもすごく久しぶりだな。
もう町の中にマウンテン・ライオンが入ってこないようにできたかね?
エルスウェアでは知的な虎が居たけど、ここのライオンはダメだ。
アンヴィルの城へ向かう途中、珍しい人に出会った。
いや、厳密に言えば珍しい人じゃないけど、俺はこの人に負い目がある。
「自己紹介させてくれ。私はヒエロニム――って君はアークメイジじゃないか」
「レックス隊長、ご無沙汰でした」
「帝都ではまだグレイ・フォックスが暴れているのだろうな……」
「いや、それについてはもう少しで解決しそうな気が……」
「ん? 奴について何か分かったのかね?」
「う~む……(。-`ω´-)」
今ぶちまけても良いけど、指輪を届けてからでも遅くは無いだろう。
俺は適当に誤魔化すと、レックス隊長と別れて城へと向かうのだった。
やっぱしオーデンスを推薦すべきだったな……
ちなみに他の衛兵にレックス隊長のことを聞いてみると、「彼より立派な人物に会ったことはない」とか言っているのだ。
さすがレックス隊長だな。
「あなたはいつぞやの配達人?」
「そうです伯爵夫人、この指輪を届けに参りました」
「この指輪は主人のものです!」
「主人の物だって?」
「主人は10年以上も行方知らずのままです。どうしたわけか、主人の名前も顔も思い出せないのです……」
「それは本当にご主人ですか? あなたの想像の中の人物ではなくて?」
「失礼な! この指輪は覚えています! それでどこでこれを手に入れたのですか? 主人の消息をご存知で?」
「ん~、『コルヴァスに届けてくれと頼まれた』ということです」
ひょっとして、グレイ・フォックスが伯爵夫人の主人から指輪を盗み出した可能性もあるが、とりあえず俺はグレイ・フォックスに言われたとおりにしてみた。
「やっぱり主人の結婚指輪だわ! 主人と再会できるなら何だってします!」
「いやいや、何だってしますと言うと、後で大変なことになるよ」
興奮して立ち上がる伯爵夫人。
いや、俺はあなたの旦那さんがどこに居るのか知らないのだけどね。
するとその時である、見知らぬ男が突然現れて伯爵夫人の前に跪いたのだ。
誰だ?
そして立ち上がると、手に持ってた仮面を被ったのだ。
グレイ・フォックスじゃねーか!
おまわりさーん! 肝心なときに居ない、役立たずの衛兵であった。
――ってか、入ってきたときは素顔だったのか?
くそー、突然すぎて見てなかったぜ!
「エルダースクロールの力よ、私はここにエマー・ダレロスこそノクターナルのカウルを盗んだ張本人であると宣言する!」
エマーって誰ろす? ま~姉ちゃんか?
「あなたはグレイ・フォックス! 私を騙したのね!」
「確かに私はグレイ・フォックスだが、君は騙されてはいないよ。なぜなら、君の行方不明の夫、コルヴァスでもあるからだ」
そう言うと、グレイ・フォックスは再び仮面を外したのだった。
「コルヴァス?! 本当にあなたなの?! 10年間、ずっとあなたの知らせを待っていたのに、どうして隠れていたの?」
ん?
ノクターナルの呪いで、仮面を外しても誰にも気づかれないのではなかったのか?
いや待てよ、俺にも見覚えがあるぞ?
なんだか急に思い出したような気がするが、俺はこいつを知っている!
こいつ、偽造屋じゃなかったか?
確かレックス隊長を左遷させるとき、こいつに推薦書を偽造してもらった記憶がある。
ん、俺も覚えているというか、思い出せているじゃないか。
ノクターナルの呪いはどうなったのだ?
いや待てよ?
ひょっとして偽造してもらったときに名乗ったのではないか? 私はコルヴァスだと。
しかし俺は、見知らぬ人としか認識しなかった。
たぶん、そんな気がする。
一方グレイ・フォックス、いやコルヴァスと名乗った男は、盗賊ギルドについて語りだした。
10年前に、先代のギルドマスターからこの頭巾を引き継いだこと。
そのために、新しいギルドマスターになったが、同時にその呪いまで受け継いでしまったこと。
『ノクターナルの頭巾を被りし者は、何人であれ、歴史からその名を抹消されるであろう』
そのためにコルヴァスは、頭巾の力によってグレイ・フォックスとなった。しかし、頭巾を脱ぐと、誰の記憶にも残らない人となってしまったのだ。
その力は、伯爵夫人だけでなく俺にも例外でなく。
やっぱり呪いがあるんじゃないか、でもなぜ今は?
「あなたは二度も私を悲しませるのね。悪名高き犯罪者であるグレイ・フォックスを、アンヴィル伯にすることなどできません! ご自分がコルヴァスであることを宣言しても、私が否定します! 必要と有れば、皇帝陛下の御前でもあれ!」
皇帝陛下という単語が出てきたとき、緑娘がピクッと反応した気がするが、気のせいだとしておく。
そしてやっぱり呪いはそのままじゃないのかね? 奥さん否定しているぞ?
「君はそう言うと思ったよ。だから私の友人を連れてきたんだ」
友人? アミューゼイか?
そこでコルヴァスは、声高らかに宣言したのだった。
「盗賊ギルドのグレイ・カウルは新たなギルドマスターに譲渡する。そしてその瞬間、犯罪者としての人生を永遠に放棄する!」
こらこら、それで成り立つのか?
どろぼうさんしまくっても、ギルドやーめた、これで罪は清算できるのか?
するとコルヴァスは、今度は俺の方へとやってきたのだ。
そしてこう言った。
「グレイ・カウルは今から君のものだ。君は盗賊ギルドの新ギルドマスターになるのだから」
「ぶっ!」
リリィさんの作戦が実現されちゃったよ。
俺の名前はラムリーザ、アークメイジであると同時にグランドチャンピオン。しかし裏の顔は、盗賊ギルドのマスターである――ってか?
コルヴァスの話では、ノクターナルの呪いは解けたと言うのだ。
グレイ・フォックスは、ギルドの偶像でしかなかった。しかし、その歴史はもう終わりだと。
そして、ダレロス邸に行けば、盗賊ギルドのギルドホールがあることも語ってくれた。
レックス隊長が居れば、この地点で全員逮捕できたのに残念ですなぁ……
いや待てよ、慎重にやらないとギルドマスターの俺まで逮捕されてしまうぞ?(。-`ω´-)
こうして、コルヴァスはアンヴィル伯となり、盗賊ギルドの命運は俺に委ねられたのであった。
先代グレイ・フォックスは、現グレイ・フォックスの俺に、「ギルドのことは任せた」と言って、自分はアンヴィルで生きていくことにしたようだ。
いや、本来の自分に戻ったというか、ね。
俺は、ノクターナルの灰色頭巾を受け取り、アンヴィルを立ち去った。
これから盗賊ギルドをどうするか?
更生させるか、全員投獄させるか、それともさらなる発展を目指すか――
それは全て俺の手にかかっているのである。
おまけ