解放の矢 前編 ~ブラヴィルの宮廷魔術師~
サヴィラの石を取ってきたことで、グレイ・フォックスからの信頼が少し上がったような気がした。
それと同時に、グレイ・フォックス自身も何か事情があって盗賊ギルドを運営しているような節がちらりと見えてきたりする。
その裏には、ノクターナルの呪いとやらが絡んでいるらしいのだが、グレイ・カウル、ノクターナルの頭巾、一体何が隠されているのやら……
「そういうわけで、俺はグレイ・フォックスに以前会っているらしいんだ。しかも本名を告げていたとね」
「グレイ・フォックスって偽名だったの?」
「うん、そうらしい。あの被っているグレイ・カウルとやらに秘密がありそうなのだ」
「つまり、これまでに出会った誰かがグレイ・フォックスってわけなのね。誰かしら?」
「会ったとすれば、盗賊ギルドの仕事を始めてからの人だと思う。レックス隊長の自作自演なら面白いのだけどなぁ」
「シティ・スイマーはどうかしら?」
「グレイ・フォックスの姿からして、アルゴニアンやカジートではないはずだ。そして男性に限られる」
「物乞いの中の誰かが、持ち回りでグレイ・フォックスをやっているとかはどうかしら?」
「ん~、アーマンド、オンガー、のろまのラスジャー、偽造屋の見知らぬ者……は名前を聞いてないから違うな。意外と少ないぞ、盗賊ギルド関係で会った人間の男性」
「ラムリーザ、見つけたぞ」
緑娘との会話中に割り込んできたのは、一人のアルゴニアンだった。
「誰だお前は、ソラノ=コエ=キクか?」
「俺だよ俺、アミューゼイだよ!」
「ああ、あの一匹狼でドジな泥棒か。俺に何の用だ?」
「あんたにグレイ・フォックスからの伝言があるんだ」
「ん、盗賊ギルドに入ったのか?」
「その通り! スキングラードであんたに救われだ後、俺はなんとか試験をパスして加わったんだ」
「しかしどんくさいから泥棒の腕は頼りにできず、伝令役としてしか使えない、と」
「おっと伝言だ。コロールにあるマリンタス・アンクラスの家で待ってるんだとさ!」
「今度はコロールか」
そんなわけで、グレイ・フォックスからの次の指令を聞くために、コロールへと急いだのであった。
道中は割愛!
マリンタス・アンクラスの家は、コロールの南東端であった。
お向かいさんは、絵描きのオレインさん――じゃなくて、戦士ギルドマスターの副官な。
緑娘はオレインに会ってくるということで、一旦別れて俺はマリンタスの家へ。
マリンタスは「グレイ・フォックスがお待ちだ」などと言っている。待たせていたか。
そして家の中には、グレイ・カウルを被った男が一人。
お前、正体誰だよ? ひょっとして平田か?
「待っていたぞ。今一度、君の力を必要としている」
「伺いましょう」
「サヴィラの石を使ったところ、私の計画のためには、さる貴重品が必要になることがわかったのだ」
「その石の次に必要なのは、塩、そして小麦と野菜と肉ですか?」
「石のスープではない。ある強大な宮廷魔術師が所有するアイテムだ」
「またフローミルの氷杖ですか?!」
「いや違う、どういうことだ?」
「強大な宮廷魔術師とはアークメイジのことでしょう?」
「君はアークメイジと知り合いなのか?」
「いや、知らん……、会ったこともない……(。-`ω´-)」
なんか変な話にしてしまったが、今回グレイ・フォックスが要求しているのは「解放の矢」というものらしい。
ブラヴィルの宮廷魔術師であるファシス・アレンが、そのアイテムを入手したという話なのだ。
こいつら盗賊ギルドは、人が苦労して手に入れた魔法のアイテムを、サラッと盗もうとするのな、いつもいつも……
そして今回の任務は、その矢をここに持ち帰って来いというものだった。
俺は、緑娘をコロールに残して、そのまますぐにブラヴィルへと向かった。
………
……
…
ブラヴィルと帝都の中間点にある分岐点にて。
リバーホールドにオークレストか、つい先日の出来事がずっと遠くに感じるとはこの事だな。
さて、ブラヴィルに来たものの、どこから手をつけるべきか。
まずはファシス・アレンについて調べなければならない。
魔術師ギルドの支部には居なかったのだが、どこで何をしているのか?
「というわけで、物乞い!」
「7G下さい」
「なんか多いな、まあよいやろう」
「ありがとうございます」
「で、ファシス・アレンはどこで何をしているか知っていることを言ってもらおうか」
「ファシスは、町の外にある塔に住んでいる。大切なアイテムは塔に保管しているだろうね」
「そうか、それなら話は早いな」
「残念ながら、塔の扉はファシスにしか開けられない。しかし、城のどこかに塔へと続く秘密の通路があるはずだ」
また城の中の秘密通路か。
これは全ての町にある城に、秘密通路があるのではないかな?
レヤウィン、スキングラード、アンヴィル、そしてこのブラヴィルだ。
残りの城にもきっとあるに違いない。
あとファシスの情報として、デイドラと親交があるらしくて近づきたくないとか言われているようだ。
俺ならそれはどのデイドラかによって決める。メファーラとかだとアウト、メリディア辺りだとセーフな。
あまりじっくりと見たことはないけど、ブラヴィルの城は狭いようだな。
これだとコソコソしていたら、すぐに衛兵に感づかれるよな……
衛兵は困っている民衆は放置していたりするが、俺が少しでも変なことをするとすっ飛んでくる厄介な奴だ。
お前らがしっかりしないから、俺がグレイ・フォックスを追いかけるハメになるんだ。
さて、どうするか……
城の中は前述のように狭いので死角がない。
門を潜ると正面に領主の玉座があるので、入った地点で俺の存在がばれる。
城の奥へと通じる道は、階段を上った先にあるっぽい。
やっぱりここは、ジ=スカール先輩直伝であるこれしかないな。
最強の魔術師は、最強の盗賊も兼ねる。
アンロックの魔法に、インビジブル。魅了の魔法で交渉術も最強。
こうして、アークメイジは透明化してブラヴィルの城に忍び込むのであった――
前の話へ/目次に戻る/次の話へ