光無き眼を向けて 後編 ~サヴィラの石、ノクターナルの呪い~
さて、グレイ・フォックスの依頼で、サヴィラの石を求めて祖モス教団の神殿(別名聖蚕会神殿)へとやってきた。
盗みに来ました! とあからさまに話しては意味が無いのはわかっている。
しかしとりあえず、話を聞いてみよう。
「この安らかな僧に、何か御用でしょうか?」
「サヴィラの石って知っていますか?」
「何を言っているのか、よく分かりませんね」
「さいでっか」
隠しているのか知らないのか、それはこの魔法一つでわかると言ったものだ。
交渉術破壊、完璧なる魅了である。
「それで、サヴィラの石について聞きたいのですが?」
「何を言っているのか、よく分かりませんね」
どうやらこの僧侶は、サヴィラの石についてよく知らないようだ。
そうなると、ここから先は情報無しで探索するしかないということになる。
外に居る僧侶は緑娘に動向を見晴らせて、俺は単独でこの神殿を調査するのだった。
まずは、一番目立つ神殿に忍び込んでみることにする。
ひょっとしたら、これ見よがしにサヴィラの石を祭壇に掲げているかもしれないからね。
あっさりと片付くかな、と期待して入ったものだが、神殿の中には像が奉られているだけだった。
何の神様か分からないが、やたらと暗い。
しかし隠密行動をしているので、松明を使うわけにはいかないのだ。
次に狙ってみたのは、神殿の奥にあった建物だ。
遺体安置場所と名付けられているが、入ってすぐの場所は像が飾られているだけだった。
僧侶も中には居ないようで、シンと静まり返っている。
俺は元々設置されてあるロウソクの明かりだけを頼りに、こっそりと奥へ進んでいった。
すると、他の場所でもよく見たような、横たわった像が並んでいる場所にたどり着いたのだ。
どうやら遺体安置場所という名の地下墓地というわけだな。
奥に進むと、目隠しをした僧侶が集会のようなものを行っていた。
彼らがグレイ・フォックスの言っていたモス教団の盲目僧という者か。
なんでもエルダースクロールと呼ばれている星霜の書を読むと、視力にダメージを受けるとかなんとか。
そこまでして読んで、その星霜の書から得られるものは重要なのだろうか……
ちなみに奥へと進むと、僧侶達の寝床があったりする。
ここの僧侶は、遺体安置場所という名の地下墓地で寝泊りしているのだ。
盗賊ギルドはともかく、このモス教団というのも怪しい集団ではなかろうか……
地下墓地の奥は洞窟になっていて、一番奥には祭壇のような場所があったりした。
ここにもモス教団の僧侶が居たので、見つからないようにこっそりと祭壇に近づいていった。
するとそこには、ほのかに紫色に輝く石が置かれていたのだ。
これがサヴィラの石に違いないな……
これを持ち出すと、傍に立っているモス教団の僧侶に見つかると思ったが、彼も目隠しをしていたのだ。
ということは、音さえ立てなければ気づかれることはないだろう。
こうして俺は、こっそり作戦でサヴィラの石を持ち出すことに成功したのだった。
どろぼうさん、ここに極めり!
ところで、その帰り道で気になるメモを見つけたりしたのだ。
ノクターナルのグレイ・カウル、確か以前メスレデルが言っているのを聞いたことがある。
彼女は、グレイ・フォックスの被っているグレイ・カウルはノクターナルから盗んだものだとか言っていた。
このメモには、そのグレイ・カウルが行方不明になっていると書かれているのは、グレイ・フォックスが盗んだからということだろう。
しかし、そのカウルを身に付けたものは、歴史や記録から抹消されて影の中に消えるとはどういうことだろうか?
名前も忘れ去られ、カウルによってのみ存在を知られるようになると書いてあるが……
俺がブルーマの一軒家で見たグレイ・フォックスは実在しているのか?
存在が消えた者なら、何故俺は会うことができたのだろうか?
名前も忘れ去られるとあるが、グレイ・フォックスは本名ではなく偽名か?
グレイ・プリンスのように……
メモ一つでいろいろと謎に思うことができてしまったが、このことはグレイ・フォックスに直接尋ねてみたらいいだろう。
もしも奴が偽者なら、その時に何かのリアクションが返ってくるはずだ。
――と、梯子を登っていたら、神殿の裏にある井戸から出てきてしまったぞ。
幸い周囲には誰も居なかった。
もし人が居たら、「おお、ここは聖蚕会神殿だ!」と驚いてみせて誤魔化すしかなかっただろうな。
緑娘と合流して、何事もなかったかのようにブルーマへと戻っていくのだった。
しばらくの間、モス教団の僧侶はサヴィラの石が盗まれたということに気がつかないだろう。
………
……
…
「グレイ・フォックス、お尋ねしたいことがあります」
ブルーマに戻った俺は、サヴィラの石を渡す前に尋ねてみた。
「グレイ・カウルについて聞きたいことがあります」
「ふむ、君はこれがノクターナルの頭巾だと思っているのか? そのことをどこで聞いた?」
「モス教団にメモ書きがあったのです」
俺は、途中で見つけた例のメモをグレイ・フォックスに見せたのだ。
するとグレイ・フォックスは、意味深なことを語り始めた。
私の人生は全て隠されているとか、私の本名を二度俺に伝えたと言ってきたのだ。
やはりグレイ・フォックスは偽名か――ってか、二回名前を聞いた? これまでに既に二度会っていると?
彼は頭巾を被っていないときに俺に会っているというが、記憶に無いというか、分からないよ。誰だ?
「その男と私は、別人として記憶されているのだよ」
「別人……、ひょっしとてあなたはレックス隊長で、全てが隊長の自作自演だったというのではないでしょうか?」
「それはない」
「さすがにそれはなかったか……」
自作自演仲間ができるかと思ったが、残念ながら思い通りに行かないのが世の中なのだ。
そこは俺もきちんと割り切っているつもりだ……(。-`ω´-)
「私はこのグレイ・カウルとその呪いから解放されるためなら、いくらでも支払うだろう」
グレイ・フォックスは、グレイ・カウルについてこう締めくくった。
これはひょっとして、グレイ・フォックスって良い奴だっりしないのか?
全てはノクターナルの呪いによって引き起こされたことであり、彼の本心ではないと。
盗賊ギルドも、実はその呪いを解くために作られたものだとか……
デイドラが絡んでいるなら、そんな話も無きにしも非ず。
すると、呪いが解けた時、盗賊ギルドの存在理由も無くなるのではないのか?
「ところで、ここに戻ってきたということは、ひょっしとてサヴィラの石を見つけたのかな?」
「ええ、ここにありますよ」
「あっぱれだ! これで宮殿の警備の隙を見通すことができる。僧侶達がこの石を持っていたことを、皇帝が知らなくて幸いだった。知っていれば、没収して宮殿に厳重に保管したに違いない」
「緑娘は俺に皇帝になれと言っているけどね」
「ミドリムスメ?」
「なんでもなかとですばい……(。-`ω´-)」
「必要な情報を手に入れたらまた連絡しよう」
こうして、グレイ・フォックスとの初対面から最初の仕事まで一通り完了したのだった。
しかしいろいろと謎も生まれた。
彼に数回既に会っていた? 仮面の下の素顔を晒した状態で……
う~ん、わからん。
俺は、緑娘と組んでクロス・ボンバーでも仕掛けて、グレイ・フォックスから仮面を取り上げてみたい気持ちを抑えながら、彼と別れて立ち去るのだった。
マスク・ジ・エンド?
あれは却下。マスクをボロボロにしたら、コレクションの価値が無くなるだろ?