レックスの始末 後編 ~異動の真意とは~
さて、盗賊ギルドの任務中である。
昨日はアンヴィルに行って、執事の部屋から衛兵の推薦状を盗み出して、お勧めの衛兵を摩り替えるという偽造を依頼したところまでだ。
偽造には一日かかるというので、一晩アンヴィルの自宅に泊まった所から開始である。
翌朝、俺はまだ寝ている緑娘をそのままにして、偽造屋の見知らぬ者の所へと向かった。
曇り空の中、魔術師ギルドの隣にあるあばら小屋へと向かう。
そして偽造屋に会うと、推薦状の書き換えは終わったとの事だった。
確認してみると、レックス隊長が一番の推薦候補に挙げられていた。
群を抜いて適任ですか、抽象的だな。もっと具体的に推薦理由を書いてもらいたいところだが、思いつかんのだろう。
最初の暴走しがちという方が、レックス隊長には合っている。
これで偽造した推薦状が手に入ったので、次は帝国刑務所へ持って行って執務室で司令官の印章で封をする作業だな。
あばら小屋を出て自宅に向かう途中、緑娘がアンヴィルの中央広場でくつろいでいるのを見かけたりした。
「なんしょん?」
「なんか曇り空が嫌」
「コントロール・ウェザーの魔法を覚えたらいいよ」
「それいいね、ずっと雷雨にするわ」
「なんで雷雨?」
「生産の効率が上がるから」
「意味分からんわ! ほら、帝都に戻るぞ」
そんなわけで、再び帝都へ戻ることとなった。
異動は割愛な、ユニコーンでかっ飛ばすだけだし。
………
……
…
そして帝都の刑務所にもなっている場所。
以前汚職衛兵オーデンスを逮捕したときに、見に行ったことがあったりする。
もっともオーデンスは俺を逆恨みして、刑期が終わった後に俺を殺しにやってきた。
まぁ返り討ちにあったわけだが、今回はその汚名返上のために推薦してやりたいところだ。もう既に死んでいるけどw
「どうするの?」
「いろいろ考えるのはめんどくさいので、透明化して片付ける」
「そんなこともできるの?」
「ふっふっふ、魔術師ギルドにもっと力を入れるのだな。ジ=スカール先輩もできるぜ、というか先輩から教えてもらったし」
「う~ん……」
そして、誰も居ない場所で透明化の魔法を使うことにしたのだ。
消えるところを衛兵に見られたら怪しまれるからな。
「それでは行ってくるぜ」
「あっ、本当に消えた。その魔法あたしにも教えてよ」
緑娘の俺を探す声を後ろに聞きながら、俺は帝国軍の司令室へと侵入をするのだった。
いいのか? こんな奴がアークメイジで……(。-`ω´-)
これはグレイ・フォックスを逮捕するためだ、と考えることにしよう。
透明化しているので、誰にも怪しまれず、誰にもばれずに司令室に潜りこむ事ができる。
いかんで、魔法の悪用はいかんで。
帝国軍の印はこれな。これで推薦書の手紙に封をするのだ。
しかし透明な手を使って作業するのは大変だな……
判子を掴もうとする自分の手が見えないのだぜ?
しかも衣服や持ち物と同じような効果があるらしく、判子を手に取るとそれまで透明になってしまうのだ。
魔法の力はすごいで、透明になったからと言って、体内の未消化物が見えるとかそんなことはないのだ。魔法を使った者が身に付けているものから持ったものまで全て透明になるのだ。魔法ってすごいな。
さて、指令書に封をしたら、今度はアンブラノクス伯爵夫人へ届けなければならない。
またアンヴィルか、行ったり来たりだな。
………
……
…
「伯爵夫人、衛兵の隊長に関する推薦状がありますよ」
「そうですか? このような仕事は執事のダイリヒルが扱うのが普通なのですが、何故アークメイジの貴方が?」
「アークメイジも暇なんですよ。暇つぶしにこういった郵便配達みたいな仕事をしているという噂です」
「まあいいでしょう、お見せなさい」
アンブラノクス伯爵夫人へ推薦状を渡しながら、俺はちょっとイタズラ心で忠告めいたことをしてみるのだった。
「レックス隊長は優秀ですが、オーデンスを推薦してみますよ。たぶん面白いことになると思いますし」
「オーデンス? それよりもヒエロニムス・レックスは最善の人選のようですね。ダイリヒルの従兄弟をこの職に就けるところでした」
「さてあの執事、身内で固めてアンヴィルを乗っ取るつもりだったのかもしれませんなぁ」
「で、オーデンスとは? 道徳的に問題ありとありますが?」
「それ以前の問題なのですよ。道徳的というか、生命的というか、死人がどうやって隊長をやるのかな――ってなんでもない、なんでもないですよ」
「それでは、帝都にいるレックスにこの指令書を届けてください」
「了解!」
チラ見。
こっそりとオーデンスに書き換えてやろうかと思ったけど、届け先が分からんのでこのままレックス隊長に届けるとしよう。
しかし帝都とアンヴィルを往復しまくり、大変だ。
………
……
…
「レックス隊長、隊長宛の指令書を預かってますよ」
「私に指令書? 受け取ろう」
「これです、異動――あっ!」
ここに来て、俺はようやく盗賊ギルドの思惑に気が付いた。
レックス隊長が帝都から消えてしまったら、誰がグレイ・フォックスを逮捕するのだ?
これはまずい、この異動命令は俺の手でもみ消そう。
しかし遅すぎた……
指令書は既にレックス隊長の手に渡ってしまっていた。
「私が異動だって?! これはグレイ・フォックスの仕業だな、私にはわかる!」
「そうでしょうなぁ……。だからそんな指令は無視して帝都に残っても良いと思いますよ!」
「いや、この命令に従うのは私の義務であり矜持である。運命が味方をして、奴をアンヴィルにいる私のもとへと届けてくれることを祈るだけだ」
「隊長……」
「さらばだ、アークメイジ。君の幸運を祈る」
ああ、行ってしまった。
ひょっとして死んだはずのオーデンスの名前が記されていたのは、俺の注意や興味がそっちへ向かうことを意図したものだろうか?
事実、俺はレックス隊長が帝都を離れることについてはギリギリまで気がつかなかった。ずっとオーデンスを推薦したら面白いのに、としか考えていなかった。
とにかくこうしてレックス隊長は帝都を去り、港湾地区の盗賊ギルドメンバーは悩ませられることはなくなったのだ。
そして俺は、グレイ・フォックスを見つけ出したとしても、その報告先を失ってしまったのだった。
俺の作戦は失敗してしまったのだろうか……
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