蒐集家 ~ウンバカノの依頼~
あー、おかしな夜だった。
フローミルの氷杖を巡る一連の騒ぎは、レックス隊長が港湾地区から撤収することで徐々に治まっていった。
盗賊ギルドがアークメイジの素性をどこまで知っているのかわからんが、朝が来たら何事もなかったかのように一日が始まろうとしているのだから不思議だ。
えーと、今日やることは、昨夜の顛末をスクリーヴァに報告かな。
それでまた盗賊ギルドの仕事があれば引き受けることにするか。
「アークメイジのラムリーザ!」
「ん? あ、シンドリさん。そうだったね、ようこそ魔術師大学へ」
「昨夜はなんだかゴタゴタで復職手続きが滞ってしまってまいったよ」
「ごめんよ、なんか大学に泥棒が入ったみたいなんだ。古代の遺物を狙うなんて、盗賊ギルドもやるようになったのぉ」
「昨夜のごたごたの犯人は盗賊ギルドで?」
「アークメイジの私室に盗みに入れる奴は、盗賊ギルドの者しかおらんだろう」
話していながら妙な気分になる。
盗みに入ったのは俺なのだ。弁解すると、私物を持ち出しただけだ。
ラミナスさんが騒ぎを無駄に大きくしすぎただけかもしれんが、まあ仕方ないだろう。
しかしフローミルの氷杖は、いつ俺の手元に戻ってくるのだろうか……
「そこで、私の友人であるウンバカノという者が、アークメイジに用があると言ってきたんだ」
「ん? 馬鹿の?」
「ウンバカノだ、待たせてあるので会ってくれないだろうか?」
「ん、会おう」
そんな馬鹿なみたいな名前の奴、どんな奴だ?
熱狂的なファンみたいなヘアースタイルの奴か……(。-`ω´-)
流行っているのか? この髪型。
「ウンバカノ殿、こちらがアークメイジのラムリーザだ」
「来てくれてありがとう! ささ、この彫像に見覚えがあるでしょう?」
ウンバカノは、出会うなりすぐに俺の手を引きベンチまで連れて行った。
彼が示した先に置いてあったのは、アイレイドの彫像だった。
そういえば大きくて邪魔になるから、ソロニールの店に下取りに出したっけ?
それにしてもジ=スカール先輩、朝から豪快にやっているねぇw
「ソロニールに聞いたのだが、最近アークメイジが売りに出したと聞いてね、その真の価値よりもずっと安い値段で」
「む、100Gぐらいで売れたから満足していたが、ソロニールの奴値切りやがったのか?」
と言っても、上質なダイヤモンドの売値が100Gなのだ。
その位で売れたら十分と思ってしまっても仕方がないじゃないか。
緑の防具や、デイドラの防具が高く売れすぎるのだ。
「自己紹介がまだでしたな。私はウンバカノ、古代アイレイドの遺物の熱心な蒐集家なのだよ」
「アイレイドの遺物ね、シンドリと縁があるわけだ」
「私なりのささやかな方法で蒐集してきたコレクションは結構な数になるぞ。そこで最近私が執心しているのが、この古代の彫像セットを完成させることなのだ」
「ウンバカノ殿、あなたはコンプリートガチャに夢中になるタイプであろう」
「……? で、この彫像は、現在10体はあるはずなんだ」
「なんか限定10体で世に出されたみたいですね。んでつまるところ、その収集を手伝ってくれと言うのでしょ?」
「よくわかったね。発見した彫像を私の所に持ってきてくれたら、一体につき相場の倍額で買い取らせてもらおう」
「200Gですか?」
「500Gです」
「よし、ソロニールに150G取立てに行こう」
とまぁ取立ては冗談だが、アイレイドの彫像を集める手伝いをすることになった。
盗賊ギルドの仕事は精神的にめんどくさいので、ちょくちょく合間に挟んでいくか。アイレイドの遺跡めぐりをね。
「さっそくだが、このキュロットという遺跡にアイレイドの彫像があるという噂を聞いたのだ。手が空いた時でいいから行ってみてくれないだろうか?」
「承りましょう」
ちょうど昨夜のゴタゴタで息抜きがしたいと思っていたところだ。
場所的に帝都とブラヴィルの間だから、スクリーヴァに報告に行くついでに立ち寄るか。
そしてウンバカノは、「よろしくお願いします」と言って、大学から立ち去っていった。
「ところでジ=スカール先輩、朝から大ジョッキでビールですか?」
「ジ=スカールはビールは飲んでいない。これはエールだ」
「似たようなものじゃないですか!」
「全然違う。ビールは下面発酵で造られる物だが、エールは上面発酵で造られるものなのだ」
「上面と下面の違いだけじゃないですかーっ」
「歴史も違うぞ、エールは何世紀も昔から親しまれているが、ビールは歴史の無い新参者だ」
「まあいいや」
徐々にジ=スカール先輩のメッキが剥がれていってるね。
シンドリの遺物調査の手伝いでもしたらいいのに……
………
……
…
というわけで、アイレイドの遺跡キュロットである。
ミニスカートだーって喜んでたら、キュロットだったりしてがっかりする男性諸君、いるよねー?
――って何の話だ!
この遺跡には、死霊術師の類やゾンビなど存在しない、何も居ない遺跡だった。
ということは前人未到の地ということになるのかな。
よくアイレイドの彫像があるって噂ができあがったねー。
何かの罠じゃないのかな?
――などと思ったけど、最深部であっさりとアイレイドの彫像は見つかった。
最深部もそれほど深くなく、こんな簡単な遺跡がいままで誰も手を付けていなかったのが不思議なぐらいだ。
「なんか簡単に見つかったね、持って帰るか」
「東部連峰の遺跡が複雑すぎたのよ」
「んだんだ」
…………(。-`ω´-)
行きには居なかったゾンビが発生してやがる。
やはり罠だったか?
アイレイドの彫像を手にすると、突然現れるゾンビの群れ。
我らの眠りを妨げるのは誰だーってか?
めんどくさいので一気に遺跡を駆け抜けて外に飛び出すことにする。
こういったゾンビは、外まで追いかけてくることはなかったはずだ。
Bダッシュで脱出――って、びっくりした!
通路にも沸いていやがったか、ゾンビは炎に弱いからこんがり作戦だ。
「やれやれ、楽できる場所は無いということだね」
「ゾンビは攻撃したら変な汁がつくから嫌い」
「魔法を使いこなすべし」
「やーだっ」
………
……
…
展開が速いかもしれないが、そのままブラヴィルの町である。
スクリーヴァの家の前へ緑娘を待たせておいて、俺は昨夜の顛末を報告しに向かったのであった。
「レックスを港湾から追い払った? よくやったね! ほら、報酬の300Gだよ」
「安いな――、いや、ありがたき幸せ!」
「これであんたは昇進だよ。夜盗と名乗るが良い」
「嫌じゃ……(。-`ω´-)」
こそ泥が夜盗に昇格した。
今後は夜しか活動したらアカンのかなぁ?
ちなみに、次の仕事をするにはもっとどろぼうさんをするべしと言ってきた。
東部連峰で拾ってきた様々な盗品が火を吹くときが来たようですな!
「くすっ、夜盗」
「黙れ、お前も入隊してスリになれ」
「やーだっ」
後は、キュロットで見つけたアイレイドの彫像を、ウンバカノに引き取ってもらって任務完了だな。
ウンバカノは、一体目の彫像は偶然かと思っていたが、2体目を見つけたことで俺がこの仕事に向いていると判断したようだ。
俺も考古学者を名乗ろうかのぉ……
ウンバカノの部屋には、俺が譲ってやったアイレイドの彫像が飾られていた。
10体集まったら何が起きるのかわからんが、こっちも何だか楽しみになってきたね。