盗賊の巣窟 ~自慢娘~
港町アンヴィル、元幽霊屋敷のベニラス邸の目覚めから今日は始まった。
「これまで泊まった家の中で、どこが一番気に入った?」
「そうね、シェイディンハルかなぁ、ここも悪くないけど」
「あと持っていない場所は、ブラヴィルと帝都だな。いや、帝都はアークメイジの私室か、あそこは個人的に閉鎖空間で嫌だけどな」
「ねぇ、本拠地を作らない?」
「どこに?」
「ダムとかどう?」
「あそこは地理的に遠いのだよなぁ。本拠地と言うより秘密基地だな。キャラヒルさんに頼んでギルドメンバーを送っちゃったしな」
「なんかそれ、もったいない」
「あ、そうだ。ちと僻地だけど持ち主が現れないのなら、ペイル・パスにある塔も立派なものだから本拠地にできるかな。もう逃げる必要もなくなったし」
「誰から逃げていたの?」
「誰だろうねぇ……」
緑娘テフラとこんなどうでもいい会話をしながらベニラス邸で朝食を終え、午前中から戦士ギルドへと向かった。
「よし、新しい仕事がある。アンヴィルに盗賊団が出たから対処してもらおう」
「盗賊団ってどこに住み着いてるのかしら?」
「それは分からない、窃盗事件が多発しているだけだ。聞き込みの調査から始めるのだ」
「はぁい」
「それと、盗賊団の規模が不明だから、もう一人新人を派遣する。マグリールだ、すでに面識はあると思うが」
「あのサボり魔ね? あたしとラムリーザの二人で十分よ」
「ダメだ、用心に越したことはないので三人で任務に当たるように」
「む~ん……」
うむ、さすがのアークメイジも、戦士ギルドではただの見習いだからな。
マニマルコを退治してきたが、見習いは見習いらしく大人しくしておくべきだ、謙虚にな。
アザーンの部屋を出たところで、以前見た顔に遭遇。
「ああお前か。一緒に仕事をやるんだってな」
「あなた、どうせサボるんでしょ?」
「報酬が適性ならサボらない。アンヴィル中で聞き込みをして手がかりを得るぞ」
「何であなたが仕切って――」
「こほん――」
「――はぁい、マグリール先ぱぁい」
また緑娘が我侭を言いそうになったので、軌道修正してやる。
相手がグラアシアみたいな感じだけど、先輩は先輩だ。そこのところはしっかりさせとかないとな。
さて、盗賊団について聞き込みからか。
三人で別々に聞き込んで回ってもいいけど、何故か緑娘は俺に依存しているみたいだし、マグリールもついて来るだけだ。
言っとくけど、この三人の中だと戦士ギルドでは俺が一番新米で下っ端なんだからな?
待てよ?
アンヴィルの盗賊団って以前俺が壊滅させなかったっけ?
なんか美人局みたいな感じのがあった記憶があるぞ?
まあいい。
「俺はとりあえず魔術師ギルドで聞き込みするから君たちは――」
「あなた魔術師ギルド会員じゃないからここに入っちゃダメ」
「いや、大学はダメだけど支部は新入り歓迎だから」
「この人魔術使うような人には見えないもん」
「いやいや今回は聞き込みだから。それじゃあ俺はここで聞き込みをするから、君たちは他で情報収集してくれ」
というわけで、俺はまずは魔術師ギルドアンヴィル支部でマスターをやっているキャラヒルさんから当たることにしてみた。
「キャラヒルさん、最近アンヴィルを荒らしている盗賊団について何か知っていますか?」
「そうね、聞いた話ですが、堂々たるニューハイムは貴重品を盗まれたらしくて騒いでいましたよ」
「堂々たるニューハイムさんですか……」
「ただし――」
「ただし?」
「ただし、堂々たるだけで、たいしたことはありません」
「そうですか……(。-`ω´-)」
実際に堂々としているのかどうか知らんが、次はニューハイムって人に聞いてみるか。
――って君達、何ついてきているのですか?!
「聞いた? 次はニューハイムに聞き込みよ!」
「よし、早速向かおうではないか」
こらこら、なに人の手柄を横取りしていますか君達。
ちっとは自分達で動いてみせなさい。マグリールはともかく緑娘、人任せに慣れるとはこの国に染まってきておりますな。
堂々たるニューハイムは、港で会うことができた。
どこが堂々としているのかよくわからんが、頭頂部が堂々としていると解釈して良いですか?
ニューハイムの話では、家宝がボスマーの一味に盗まれたのだとさ。
ボスマー、ボスマー……、グラアシア一族か?
そしてその賊共はフロタ洞窟という場所に潜伏しているらしい。
ちなみに家宝は酒瓶と杯。エールの味と冷気を保つ不思議な杯なんだとさ。
フロタ洞窟はここ。結構近い場所に潜伏しているんだな。
しかし窃盗事件にも、戦士ギルド任せで動かない衛兵。衛兵の役割は一体何なのだ?
やっぱり膝に矢を受けてあまり動けなくなった人たちのための、養老施設になっているのだろうか?
というわけでフロタ洞窟に向かうことになった。
マグリールなどは、「三人で一つの仕事だ。この一つが実入りの良い事を祈ろうぜ」などと言っている。
実入りを求めるのなら、ギルドで仕事せずに追い剥ぎを狩ってその装備を売る方がいいんだぜ――、とは教えてやらない。
追い剥ぎや山賊が狩りつくされてしまうと、俺の実入りが少なくなるからな、と。
「ところでマグリール先ぱぁい、先輩の武器はすごいんでしょうねっ」
「見ろ、俺の剣は名のある鍛冶師に鍛えてもらった極上の剣だからな。並みの武器とは違うのだよ」
「あたしの武器はこんなものなのよ、どうかしら?」
「むっ、魔法の剣か? 新入りにしては良い物を持っているじゃないか」
「あたしは将来を期待されているのよ」
でたらめな自慢も良い所だ。
その魔剣を誇るなら、その魔剣を作ってくれたリリィさん、そして魔術師ギルドに忠誠を誓うこったな。
緑娘の自慢は、そのまま魔術師ギルドが戦士ギルドよりも優れていると述べているようなものだぞ、と。
そういうわけで、洞窟に突撃。
俺は明かり役で、現れた盗賊団は戦士ギルドの主力二人に任せる。
魔導師はでしゃばってはいけない。君達はせいぜいアークメイジ様を護衛していたらいいのだよっほん。
「何をやっているのだ?」
「あ、また追いはぎしてる」
後ろから緑娘とマグリールの不審がる声がかかるが気にせず自分の仕事――ではないが用事を済ませる。
これで君達以上の稼ぎを出してやるんだよ――っと、装備を剥ぎ取ってわかる女盗賊。いいんだよ、この盾も貰っていくからな。
盗賊集団との戦いは二人に任せて、俺はもう一つの任務をこなす。
ニューハイムの家宝はこの酒瓶と杯ですかな?
戦士ギルドは盗賊の殲滅を任務としてきたが、盗品の奪還はそれ以外でニューハイムからの依頼だからな。
これを持ち帰ってやるから、頭頂部をもっと堂々とさせるこったな。
「盗賊は全員片付けたわ」
「こっちも盗品は確保した、戻ろうか。あ、ちょっと待っててくれ」
残りの盗賊の装備も剥ぎ取っておく。
この緑色の装備は、結構良い値で売れるのだよね。
マグリールには教えない、この国で一番稼げる仕事は俺だけが就いていればいいんだ。
収入の面ではアークメイジより追い剥ぎ狩りが上なのだから、いつもながら思うが困った国だ。
………
……
…
「アザーンさぁん、この街を荒らしている盗賊団は、全部始末しましたよ」
「よくやった。君たちはギルドに必要だということが証明された。これが報酬だ」
「ありがとう!」
うむ、ギルドからの報酬は600Gか。
盗賊団の装備を売って、その十倍以上の金を得たことは黙っておこう。
「よし、今回の功績を称えてお前の昇進が決まった。これにより、お前を戦士ギルドのプロテクター(防御者)に任命する」
「うわーい――じゃなくて、ありがとうアザーンさぁん」
ソードマンの次はプロテクターか。
突撃隊から守衛に昇進。防御の方が格上なのね。
「それとアークメイジ、そなたも昇進で修行者とする」
「いや、俺はいいですよ」
「手伝ってもらって成果をあげているのだ。戦士ギルドも君に報いたい」
やれやれ、見習いのままでいいのに修行者になってしまった。
別に俺は剣の修行はしないぞ?
ちなみにマグリールはディフェンダーに昇進したのだとさ。まぁ一応先輩だから、そんなところか。
「お前をコロールに向かわせるよう言われた。そこで何かの任務があるので、あっちでオレインと話してくれ」
「はぁい」
だから緑娘、その媚びたような返事はやめなさい。
マゾーガ卿じゃないが、「イエス・サー」とかそのあたりにしておいた方が戦士ギルドっぽいぞ?
あと、ニューハイムに杯を届けて、そのお礼に「ニューハイム秘伝の酒」なるものを頂いた。
酒はあまり飲まんのだが、貰える物はありがたく貰っておこう。
ニューハイムの言うには、ヌルい酒はゴブリンの小便みたいなのだとさ。そんなにマズいかねぇ? ――ってゴブリンの小便の味など知らんがw
以上、戦士ギルドの仕事おしまい。
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