物資の補給 ~隠れ里に住むマジッククリエイター~
「さあ、コロールに戻ってモドリン・オレインよ」
「待て、この町でまだやるべきことがある」
「なによ、マグリールなんかには用は無いわ」
「エイドリアンに用がある」
「誰よそれ?!」
「とあるボクサーの恋人――じゃなくて、魔術師ギルドの支部長だ!」
というわけで、今度はこの町で緑娘の魔術師ギルドの推薦状を書いてもらう必要がある。
ものすごいご無沙汰だけど、久々にエイドリアンに会うことになった。
「俺アークメイジだけど、この娘の推薦状を書いてもらえんかのぉ?」
「丁度いい仕事があるから、それをこなしたら書いてあげましょう」
「やっぱり仕事は必要なのな」
これはもう伝統というか、仕事もこなせない奴は推薦できないということだろう。
なんだ? また誰かか居なくなったりでもしたのか?
「ここから南東の一軒家にすむリリィに、これらの物資を届けて欲しいの。お願いできるかしら?」
「配達か、簡単な仕事だね。えっと、大小さまざまな魂石にヴァーラ・ストーンやウェルキンド・ストーンですか?」
「ええ、彼女はマジックアイテムのクリエイター。そのための材料よ」
「黒魂石はダメですか?」
「それは死霊術師の領分です。ギルドでは扱っておりません」
俺はとある事情で大量の黒魂石を持っているんだけどな。
というわけで、今回の仕事は物資の配達。簡単な仕事だ。
少し霧が出ているな?
もやのかかった感じの中、スキングラードを出て南東へと向かう。
以前死霊術師との対決で、ジ=スカール先輩と通った道。この先に遺跡があるはずだ。
「見よ、あれがシローンだ」
「シローンがどうしたの?」
「俺とジ=スカール先輩が、死霊術師と戦った場所である」
「誰よそれ――って、ブルーマギルドのあの獣族かー」
「いちいち俺の交友関係を気にしまくるのやめような」
「だってぇ~」
この緑娘は嫉妬深いのか心配性なのかわからん。
とりあえず先に進もう。エイドリアンの話では、ここからさらに南西、九大神修道院を通り抜けた東だと言っていた。
特徴的な一軒家で、一階よりも二階の方が大きいとも聞いていた。なんだろうそれは?
シローン東の湿地を抜ける。
どうでもいいが、あいかわらず緑娘のおっぱいでかいな。
これでクネクネするものだから、揺れて揺れて目のやり場に困る。
そして九大神修道院。
今回は用事が無いのでそのまま素通り。
九大神……、神様……、ジュリアノス、アカトシュ、アーケイ、シェオゴラス、メファーラ、サングイン、モラグ・バル、ボエシア、メリディア、ナミラ――
あれ? 九を超えたぞ? まあいいか。
九大神修道院を通り過ぎてさらに東へ向かうと、遠くに一軒家が見えてきた。
おそらくエイドリアンの言っていた場所はここだろう。他にそれらしき建物は無いし、彼女の言っていた建物の外観に一致する。
一階より二階の方が大きいのか。さらに二階より屋根裏部屋の方が大きいのか。
聞いていたとおり、変わった形の家だな。
エイドリアンの話では、ここにマジックアイテムクリエイターのリリィが住んでいるはずだが――
「中に誰かいるのかなぁ?」
「窓から覗いてないで、中に入るぞ。別に鬼が住んでいるわけじゃないのだ。先に入っているからな」
「あ~ん、待ってよ~」
家の一階には人の気配は無く、そのまま二階へと上がった。
そこでは、一人の女性が待っていた。彼女がリリィか?
「こんにちは、ラムリーザです。ギルドからの物資を届けに来ました」
「あなたが新しいアークメイジのラムリーザね。私はリリィ・ウィスパーズ、届け物ご苦労様――ってアークメイジ様に言うのも変だけど、わざわざありがとう。最近はアークメイジ様も雑用こなしているのね」
「いえいえ、たぶん自分の方が新参者なので、リリィさんを始め、皆さんに不自由なく研究して頂きたく思って、なんだろうねぇってわけですよ」
なんだか言葉足らずになってしまったが、この人も褐色の肌の美しい結構美人な人だから、優しいところを見せて――
――あ、しまった。俺には緑娘が居たんだった……(。-`ω´-)
しかしそんな見せ付けるように、間に割って入らんでもええのにねw
緑娘は、俺とリリィの間に割って入っただけではなく、べらべらと余計なことまで語り始めた。
「あたしテフラ、『ラムリーザの婚約者』にしてギルドの準会員なのよろしく。ん~とね、届けものはあたしの仕事で、ラムリーザはただの付き添い。どうぞ届け物でぇす」
緑娘の言ったことは間違っていない。
ただ婚約者の所だけ語気を強める必要もなかろうに。
しかしアークメイジを付き添いにして仕事をする準会員。ちと高待遇すぎんかね、まあいいけどさ。
「あら婚約者なの? アークメイジ様も隅に置けないわね」
「いや知らん――知っとる。わしもそろそろ家庭を、ごほごほ。えっと、黒魂石も使いますか?」
「あらそれは死霊術師のアイテムね。でも私は気にしないわ、余っているなら使ってあげる」
「よかった、ファルカーのせいでえらいもの押し付けられたのです。ぜひとも処分してください。ティーサンさんも助かります、たぶん」
「その黒魂石もあたしが集めてきたものなの! だからあたしからの贈り物よん」
丁度いい具合に持て余していた黒魂石を押し付けることに成功した。
普通の魂石と違って人間の魂を捕らえるらしいが、山賊や追い剥ぎの魂ならいくらでも奪ってやれだ。
それにしても緑娘、そんなにでしゃばらなくてもいいのに。
俺がリリィと会話するのが嫌か? 嫌なのだろうな……(。-`ω´-)
「では届け物のお礼に、完成したマジックアイテムを譲ってあげるわ」
「いいのですか? そんなものを貰って」
「いいのよ、私はクリエイターであってコレクターではないの。折角作ったのだから使ってもらわなくちゃね。それがアークメイジ様ならなおさら歓迎よ」
そこでリリィが取り出したのは、紫色の光を放つ短剣。
いや、短剣なのか? 刃物の部分が完全に魔力の塊のようになっているのだが。
「それは役に立つ武器ですか?」
「もちろんよ。何なら今、威力を見せてあげましょう」
というわけで、家の前で試し斬りを見せてもらうことになった。
リリィは魔法を唱えてミノタウロスを召喚する。
う~む、高位の魔導師となると、やはり召喚術も極めておくべきか。どうも俺は破壊魔法に特化しすぎておる。
リリィはミノタウロスめがけて魔法の短剣を叩きつけた。
すると一撃でミノタウロスは沈んでしまったではないか?
「一撃ですか? ミノタウロス自体が何かのトリックじゃないのですか?」
「あら、そういうなら今度はあなたが試してみなさい」
リリィはそう言うと、俺に短剣を手渡して再びミノタウロスを召喚した。
う~む、このミノタウロス、たぶん本物だ。
攻撃されたら危ないので、すかさず短剣をミノタウロスに叩きつけてみた。
するとミノタウロスはやはり一撃で崩れ落ちたのだった。
「う~む、ちょっとチートすぎませんかね?」
「それだけ私のアイテムが強力なのよ」
しかしこうして並んでみると、緑娘の胸のでかさが際立つな。
さらに体つきも緑娘の方が大きい。やはり体術をたしなんでいる者と、生粋の魔導師の差か。
「それいいな、あたしも欲しい。むしろ戦士ギルドであたしが使うべき。女の子が剣や斧を振り回すなって言ってたけど、短剣ならいいでしょ?」
「昔の台詞は知らんし俺もこの国でいろいろ学んだ。別に剣や斧を振り回す娘もおかしくない。マゾーガ卿も女だけどごっつい鎧にでかい剣だ」
「誰それ? マゾーガ卿? 何? 女騎士に知り合いが居るの?」
「居るよ、いつでも会わせてやる」
ダル=マの反応を見てから、俺はマゾーガ卿を緑娘に紹介することに不安は無い。
どうせ「あっ……」とか言って、これ以上文句を言ってこないと分かっているからだ。
「秘術! 剣の舞!」
「ふははは、そなたのはらわたまで食い尽くしてやる」
「見せたとおり、短剣の魔力はかなりのものだから、遊びで使っちゃダメよ」
「了解した……(。-`ω´-)」
そういうわけで、リリィに届け物をしてスキングラードで緑娘の推薦状は出してもらえることになった。
戦士ギルドでも最初の仕事は武器の配達だったのだ。似たような仕事も魔術師ギルドであるわけだな。
「ところであなた、アークメイジ様なのになぜ敬語なの?」
「たぶんあのお姉さんの方が年上だ。それに地位は俺の方が上でも、新入りなのはこっちだ。そこは礼儀正しく」
「それならあたしもあのマグリールに敬語使うべき?」
「普通に考えてそうだ。基地外のグラアシアに似ているから下に見てしまいがちだけど、先輩は先輩だ。そこはきっちりしないとね」
「グラアシアって誰よ?」
「死んだ……(。-`ω´-)」
「…………」
以上、スキングラードでの魔術師ギルドの話はこれでおしまい。
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