スキングラードへの旅 ~本物の好意、本物の愛?~
さてと、コロールへ戻ってきた目的は、戦士ギルドの新しい仕事だ。
魔術師ギルドの方は、コロールからはもう推薦状を出してもらったので用は無い。
いや、ティーキウスさんに挨拶――、要らんか。
さてと、コロール戦士ギルドの支部長であるヴィレナ・ドントン、お婆さんだ。
お婆さん相手だと、緑娘テフラもクネクネしたり誘うような行為はしない。普通に話を聞いている。
ヴィレナの話では、モドリン・オレインが仕事を出してくれるということらしい。
そのモドリンとの話中も、緑娘は姿勢を崩そうとしない。
顔色の悪いダークエルフは興味が無いのね、うん。
しかしこの色目娘、こんな婚約者は不安だらけだよ。なんか浮気しまくりそう。
………
……
…
「さて、次の仕事は何だって?」
「スキングラードって街はどこ?」
「お、次はそこか、丁度良い。魔術師ギルドにも行こうね」
「それはおまけ。マグリールってのが仕事をちゃんとしないからギルドの印象が悪くなるんだって。それで、手伝うなり代わりに仕事をこなすかしろだって」
「そっか、それじゃあスキングラードに向かおう」
というわけで、コロールで一泊した後すぐにスキングラードへと向かうことにしたが、ちょっと気になることがあったので寄り道しながら行くことにした。
「森の中を進むの?」
「まぁ街道よりは森の中が安全という法則があるからね、この国には。それよりも見せたいものが」
「何かしら?」
「あれだよ、モラグ・バル」
「サングインみたいな神像ね」
「三大邪神に次ぐヤバい神様だな。何しろ俺に死ねと言ってきた」
「何それ! そんな悪い神様あたしがやっつけちゃう!」
「で、俺を殺した人が今何をしているのか確認したいのだ」
「任せといて、仇討ちしてあげるから」
「いや、俺は生きているし、その人が悪いわけじゃなくて、悪いのはモラグ・バルだから」
そういうわけで、以前立ち寄った森の中の村へと向かう。
しかしほんと、この辺りは深い森だな。深すぎて魔物も出てこないよ。
さて、森の中の小さな村に到着。
この近くにメラス・ペティラスが住んでいるはずだ。
彼は今、いったいどうなっているのか?
居た……
あの時と同じく、まだお墓参りをやっているようだ。
「こんにちは!」
「こんに――いいや、お前は死んだはずだ!」
「そうです! あなたに殺されました! うらめしやぁ~っ!」
「なっ、なんて礼儀知らの化け物だ?!」
「いや、礼儀正しい化け物が居ても対処に困るが……(。-`ω´-)」
「私は永遠にお前の残影に苛まれるというのか……?」
「知らん、悪いのはモラグ・バルだよ」
結局の所、モラグ・バルは何がやりたかったのだ?
メラスも何事も無く以前の生活をそのまま送っているじゃないか。
モラグ・バルは魂が堕ちたとか言っていたが、何も変わっていないぞ?
わからんのぉ……
なんか緑娘がメラスに何か言いたげだったので、さっさとこの場を立ち去ることにした。
もう一度言う。俺は生きているし、悪いのはメラスじゃなくて、モラグ・バルだよ。
………
……
…
静かな森の中、ゴットレスフォント修道院という場所があった。
なんでしょねー、細長い教会?
中は普通に礼拝堂。
そこに居た修道女はアングロンドといって、治療用のハーブやキノコを集めて備蓄しているらしい。
錬金術、やろうやろうと思いながら全然手をつけていない。
お供え物として薄紫イッポンシメジやディスマントルの葉が集まっていて、必要ならどうぞお持ちくださいというが、うーむ、錬金術は……(。-`ω´-)
逆にキノコを集めてきてくれたら大歓迎と言っているので、集めてあげようか。
「当ててやろうか? あなたはこの人のためにキノコを集めてあげようと思っている」
「なっ、ななな? ほら、肌色をしていて緑色の斑点があるキノコを取ったら1UPしそうな気がしないかい?」
「赤の斑点なら身体の大きさが二倍になるって言いたいのかしら?」
「茶色の斑点なら死ぬ」
「キノコ集めより、スキングラードの戦士ギルド!」
「りょーかい……」
ま、いいか。
キノコ集めはまた暇になったらやってあげるよ。
その時には錬金術も身に着けておきたいね。
その時、俺はふと気がついた。
いや、気がつくというか思いつくというか、この緑娘の俺に対する好意は本物なのかどうか。
疑っている地点で、俺はこの娘の好意を受け取る資格は無いのかもしれないが、記憶が無いのを良い事に利用されている可能性がある。
いや、たぶんそれはない。エイルズウェルの宿に泊まったときに、この娘が無意識のうちにつぶやいた言葉は忘れていない。
それでも、ちょっとした好奇心がむくむくと――、むくむくはダメーッ。
「さっきからチラチラとこっちを見てどうしたの?」
「あ、いや、ちょっと実験がしてみたくなってな。これからとある魔法をかけるから、その様子を見てみようと」
「いいわ、どうぞ。あ、霊峰の指は簡便ね」
「そんな危険な魔法じゃないよ。どちらかと言えば平和的な――」
「やってごらん」
そして俺は、緑娘に魔法をかけてみた。
――変化無しか?
「何だかわからないけど、あまり強い魔力の魔術じゃないわね。簡単に抵抗できたわ」
「いや、抵抗されたら困るのだけど……」
「あなたに肉体的な能力は敵わないとしても、魔術に対する抵抗力は体格関係ないからとことん鍛えたわ。ちょっとやそっとの魔術は効かない」
「つまり、霊峰の指が規格外、と。いやそうじゃなくて、かかってみてくれよ。別に危険な魔術じゃないからさ」
「ふーん、それならもう一度どうぞ」
次は緑娘は魔術に対する抵抗を止めている。
そこに、同じ魔術をぶち込んでみた。
「…………」
「…………」
「……それで?」
「え?」
「何の効果があるのかしら? 何も変わったことはないのだけど」
「そうか? 俺に対する感情とか変わったりしない?」
「え? 感情? 何も変わらないけど?」
「俺のこと好きとかならない?」
「好きとか? 何を今更言ってるの? あたしは嫌いな人を許婚に認めるほど酔狂じゃないわ」
「…………(。-`ω´-)」
本物だった……
俺が使ったのは、これまで交渉を有利に進める魅了の魔法。
魔法の力で俺に対する好感度を極限まで上げ、ついさっきまで否定的だったやつすら好意的になるというある意味恐ろしい魔術。
しかし、この娘には効かなかった。それどころか、かける前と後とで感情は変わらないという。
これは、この娘が本気で俺のことを……
「どうしたの? じっと見つめて。で、今の魔術は何?」
「……簡単な治癒魔法だよ」
それじゃあこの娘にこんなことをしても怒らないわけだ。
俺は、緑娘の額にかるく口づけをした。
「あ……」
「なんでもなかとですばい!」
何故逃げるんだ俺! この娘は俺のことを愛しているのだぞ?!
いやでも逃げる、なんか怖いw
「ちょっと! 額にキスって何よ!」
「なんだろう、不思議だね!」
ほらみろ! 怒ってる!
「さらばだ! また会おう、明智くん!」
「誰よそれ! ってか今更額にキスってなにウブな振りしてんのよ! いくらあなたの記憶がなくなったからと言って、数年前に通過した地点から今更やり直したくないわよ!」
なんか後ろで騒いでいるが、俺は聞いちゃいなかった。
今は逃げるだけ。何故逃げなければいけないのかさっぱりわからんが、とにかく逃げてやる!
こんな場面では逃げるものだ。俺は17歳、もうじき18歳、俺が面倒みてやるよ! たぶん緑娘は16歳で、もうすぐ17歳だ。
いや、お互いの本当の年齢なんて知らんけどね!
「ちょっと待ちなさいよ~っ! こんな深い森の中に置き去りにするの~っ?!」
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